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面白かったデス!!
輝夜に着いていくと決めてから、 千春はすぐに村を出る準備をした。 持てるだけの食料と、自慢の銛を携えて、 家を出る。道中村の人に見送られながら、 千春と輝夜は村をあとにした。 道すがら、輝夜が口を開く。
「 今から、 京へ行く。 そこに、 私の上司と、 同僚がいるわ、 そこであなたをどうするか、 聞きましょう 」
京。京都のことだ。
「 それはわかったけど輝夜ちゃん、 あなたって呼ぶのやめてくんない? 俺には千春っていうれっきとした名前があるんだけど」
「 京まではおおよそ3日ほどかかるわ、 電車を使いましょう 」
千春の訴えをガン無視し、 駅まで歩き続ける輝夜。その後、
目的地につくまで、喋ることはなかった が、時折輝夜が飴玉のようなものを 口に含むのが見えて、千春は物欲しそうに 眺めてみたが、気づかれることはなく、 諦めて歩き続けた。1日ほど休憩無しで歩 いて、駅についた。 食事をとることすらせずに、 ひたすら歩き続ける輝夜に追いつくため、 千春も飲まず食わずで歩いていたので、 電車の中でようやく持ってきた食事に ありつくことが出来た。 さすがに歩きっぱなしで疲れたのか、 輝夜はすぐにすぅすぅと吐息をたてて 寝てしまった。彼女は飴玉を口に含んだ だけで、特になにか食べていた素振りは ない。起きたら、食事をするべきだ、 と提案しようと思った千春だった。 食事の後、千春もウトウトして、いつの間 にやら寝てしまっていた。
次に起きると、京の一歩手前の駅だった。 輝夜はまだ寝たままだ。そろそろ起こそう と体を揺さぶるが、起きない。 どうしたものかと思っていると、千春に、 乗客の中年男性が話しかけてきた。 ブラウンのロングコートに、黒い帽子。 無精髭はかなり濃いが、 手入れはされてい る。 年相応のように見える白髪は、 整った印象 を思わせた。
「 おや、 観光ですか? 」
「 ああ、 まぁ、 はい」
「 そうですか、 京都は人が多い上に、 最近何かと物騒なので、 気をつけてくださいね 」
「 というと? 」
「 いえね、 最近、 不可解な行方不明事件が起こっていてね、 調べているんですよ、いろいろと 」
「 刑事の方‥ ですか? 」
「 いえいえ、 趣味です。 私は興味のあることにはなんでも首を突っ込むタイプでして、京都に行くのも旅行ついでのようなもので‥ そうだ、 なにか思い当たることがあったら、 この住所に手紙などで連絡をくださいませんか。 」
そう言って渡されたのは、 5箇所ほどの住所が記載された、紙だっ た。そのうちの一つに、 京都の住所も書いてある。 名前も書いてあった。
「ムラサキ」と書いてある。
「 ムラサキ… さん? 珍しい名前ですね」
「 いえいえ偽名です、 こういうことをしていると、 本名ではなにかと不便でして 」
「 はぁ 」
「 あ、 そうだ、 先程思いあたることがあったら連絡を、 と言いましたが、 逆に、気になることがあれば、 その住所周辺のことならだいたい分かるので、 ぜひ聞いてください」
「あ、はい ……ムラサキさん、 なんだか情報屋みたいですね 」
「はははたしかに、私のしていることは、趣味とはいえ、 情報屋のそれですな‥‥ うむ、 言い得て妙だ」
「 他の人にも、 こうやって住所を渡しているんですか? 」
「 いえ、 誰にでもという訳では‥ 世の中物騒なのでね、 盗人なんかの輩がその住所へ空き巣に入るかもしれない 」
「 ならなんで、 俺に? 別に、 俺が空き巣とかをしない保証なんてないじゃないですか 」
「はは、 たしかにその通りだ! でもこう見えて、 私、 人を見る目には自信があるんです。 なんとなく、 あなたなら大丈夫そうだ、 そう思ったんです 」
「 それ、 大丈夫なんですか? 言っちゃなんですけど、 かなり適当というか… 」
「ははは! たしかに! まったく、 あなたは面白いな! いや、なに、意外と大丈夫なんですよ、 それが 」
「 へぇ… 意外と 」
「 ええ 」
「 それに… 私の見込みでは、 あなたは近いうち、 私の元を訪れる、 そんな気がするのです 」
「 はぁ… 」
男は、全く疑っていないようなさっぱりと した表情で、言い放った。 視線をムラサキという男の顔から落とし て、詳しく紙を見ていると、 電車が停車した。 するとムラサキという男は外を見て、
「 それでは、 私はこれで 」
と、電車のドア付近へ歩いていく。 ムラサキという男は、電車を降りて京の駅 の奥に消えていってしまった。 そこで、ふと気づく。あれ?そういえば ムラサキはなぜ、自分達が京都に行くと 知っていたんだ? 自分で言ったのだったか?
…………思い出せない。
言ったような気もするし、 言っていないような気もする。 そうこう考えているうちに、 輝夜は、ゆっくりと目を開けて、 体をぐーっと伸ばした。 キョロキョロと辺りを見て、考え込む千春 を見た輝夜は、 懐から飴玉の入った袋を取り出し、 口に1つ入れてから、噛み砕く。 噛み砕いたゴリッという音が小さく響いた あと、輝夜は千春に問いかけた。
「 なにか、 あったの? 」
眠そうに言う輝夜に、千春は、 言うほどでもないか、と思い、
「 いや、 なにも。 降りよう 」
と言った。輝夜は頷いて、 飴玉をもうひとつ口に含む。 降りたあと少し歩いて、 千春は思い出した。
「 あ、 そうだ、 一緒になにか食べない?」
「 え、嫌。」
ゴリッと飴玉を噛み砕く音が響いた。
そうして2人は、京へと着いたのだった。