コンコン
ノックをしても返事は入ってこない。
ryk:「元貴?…開けるね。」
幸い鍵はかかってなかったのでゆっくりドアを開ける。
ガリッ…ガリッ…
部屋に入るや否や、耳に入ってくるのは刃物で皮膚を切り裂く音。
前を見れば腕から血を垂らしている元貴が目に入った。
ryk:「元貴?」
呼びかけても全く反応しない。こちらに気付いてないのか、手元に集中するばかりだ。
彼が座っている椅子の後ろに回って、もう一度名前を呼んでみるが、反応は先ほど変わらない。
「…元貴、今日はもうやめよう?傷が深くなっちゃうよ。」
彼の背中に覆い被さって、カッターを持ってる右手を握った。
少しビクッとした。こちらに気付いてくれたようだ。
mtk:「…」
返事はなかったが、握っている手をそのままカッターに滑らすと、スッと離してくれた。
血がつかないよう、持ち手の部分だけ触れるよう机に置いて、ティッシュを数枚取る。
ryk:「止血するね。」
そう言って彼の左手の傷にティッシュを押し当てる。しかし血は止まらず、染みを広げていくばかりだ。
ryk:「元貴、ここ押さえてくれる?救急箱とってくるからさ。」
数秒もしないうちに、彼の右手は赤く染まったティッシュの上に移動した。
ryk:「ありがとう。すぐ戻ってくるね。」
そう言って扉にに向かおうとした。
が、裾がグイッと引っ張られた。
くるりと後ろを向くと、口をぎゅっと結んだ元貴がこちらを覗いていた。
ryk:「…大丈夫。すぐ戻ってくるから。ね?」
そう言いながら、自分の裾を握っている手を離す。
新たにティッシュを数枚取って、傷口に抑える。そして彼の右手をその上に移動させて、もう一度、
「すぐ戻ってくるからね。」と言って、部屋を後にした。
『もうしないで。』なんて言えない。言ったところで彼を苦しめるだけし、自分が言えたことじゃない。
3分ほどで部屋に戻ると、律儀に傷口を押さえてくれていて、ティッシュに染みた血もさっきより少ない。
ryk:「ただいま、今手当するから。手借りるね。」
救急箱の中から包帯を取り出しながら言って、彼の左手を取る。
そのまま中何回か包帯を巻いて、「できたよ。」と声をかけた。
mtk:「…ありがとう…」
その一声に少し安心を抱いて、部屋の壁に座る。
ryk:「ほら、おいで」
両手を使って立ちながら、少しふらふらした足取りでこっちへ向かってきて、
ぽすっと音を立てて膝の上に腰を下ろしてくれた。
そのまま自分より小さい元貴を包んだ。
mtk:「…ごめんね。」
ryk:「大丈夫。」
mtk:「俺っ、1人じゃなんもできないからっ…いっつもみんなに我儘言って、困らせて…」
そう震えた声で喋る彼の目からは、大きな水滴が落ちていく。
ryk:「困ってなんかないし、ついて行ってるのは僕らだから。大丈夫だよ。大丈夫。」
mtk:「…ありがとう」
ryk:「ふふ」
『ありがとう。』
こっちの台詞だな。いつも僕を、僕らを引っ張ってくれてる。
1人じゃ何もできないのは僕の方だ。
僕が躓いて転んでいる間に、2人はまた遠くへ進んでしまうから。
でも、元貴は言ってくれたでしょう?『そんなこと、初めから分かっててやってる』って。
その言葉にどれだけ僕の不安が薄まったか、きっと君は知らない。
…だからこそ怖いんだ。僕の勝手な意見で、元貴が迷ってしまうのが。
船舵が崩れても、波は静まってはくれないから
でもね、もし迷った時は、頼って欲しいんだ。そのせいでもっと迷っちゃっても、
きっと若井が「大丈夫」って、「一緒に考えよう」って言ってくれるよ。
ryk「…元貴?」
名前を口にすれば、視線だけをこちらに向けた。
「溢れてちゃいそうだったら…溢れちゃったら、ちゃんと、僕らに頼ってね。」
コメント
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はぁ〜泣きそう