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萌さんに合わせてゆっくり走り続けたせいか、走り終わった直後なのに、真冬の雨の日に走ったときのように僕の体は冷え切っていた。
一方、彼女にとっては激しい運動だったようで、真夏の熱帯夜のように彼女の顔から汗がとめどなく流れていた。だから風邪を引かせるわけにはいかないし、シャワーを借りたいと頼まれて断ることはしなかった。
「君の着替えが終わるまで外に出てるよ」
「脱衣場の戸を閉めれば見えないんだからいればいいだろ」
「そうだけど、コンプライアンス上どうなんだろ」
「別にあたしはおまえが見たいというなら見せてもいいけど」
ヤンキー女に貞操観念はないらしい。心配した僕が馬鹿みたいだ。
彼女がシャワーを浴びる音を聞きながら、僕は心を無にしていた。僕はたぶん彼女を好きになっている。だからといってもちろんシャワー中に襲ったりはしない。我慢することには慣れているし、自分の気持ちを押し殺すことも子どもの頃から得意だ。
持ってきた服に着替えた彼女と入れ違いで僕が脱衣所に入った。汗はかいてなかったけど、とにかく冷えた体を温めたかった。シャワーを浴びていると、さっきまで裸の萌さんがここにいたんだなと思い出して不思議な気持ちになる。ただの妄想なのに浴室に裸の彼女の姿がありありと浮かんできて、どれだけ好きになったんだよと苦笑するしかなかった。
「勇気を出して裸になったのに苦笑いされただけか。やっぱりあたしの片想いだったようだな」
妄想の彼女がボソリとつぶやいた。手を伸ばして彼女の肩に触れると、ビクッと震えた。えっ、本物?
「てっきり幻かと……」
「それはあたしの幻を見るくらいあたしを好きになったということ?」
事実なので僕が否定できないでいるのを見て、彼女は僕の正面に立ち、背伸びして自分の唇を僕の唇に押し当てた。