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#青春恋愛
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夏希(なつき)
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奇蹟あい
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一年前。
イベント当日の朝。
玲は自宅で一枚の紙を見つめていた。
『星乃セラ・ミニトークイベント』
参加券。
机の上に置いたまま。
「……」
行くか。
やめるか。
何度も迷った。
当時の玲は。
今よりずっと無口だった。
誰かと話すことも。
人の多い場所に行くことも。
好きではなかった。
それでも。
その日は。
「……行こう」
小さく呟いた。
理由は。
ただ一つ。
セラに。
直接、ありがとうを言いたかった。
――前日の夜。
玲はいつものように。
セラの配信を見ていた。
『今日はね、ちょっと嬉しいことがあったの』
画面の中のセラが笑う。
『私の配信を見て、明日も頑張れそうって言ってくれた人がいて』
『そういう言葉をもらえると、本当に嬉しい』
玲は画面を見つめる。
「……」
自分も。
同じだった。
セラの言葉で。
何度も救われていた。
「……直接言いたい」
それだけだった。
そして。
イベント当日。
玲は会場へ向かった。
人が多い。
騒がしい。
帰りたくなる。
それでも。
「……セラ」
名前を呟き。
会場へ入った。
イベントは。
思ったより小さかった。
客席も多くない。
ステージに。
一人の少女が立つ。
『こんにちはー! 星乃セラです!』
玲は。
その声を聞いた瞬間。
少しだけ笑った。
「……来てよかった」
イベントが終わる。
玲は帰ろうとした。
でも。
足が止まる。
「……」
言わなければ。
後悔する。
玲は。
スタッフに尋ねた。
「すみません」
「はい?」
「セラさんに……」
言葉が詰まる。
「……ありがとうって、伝えられますか」
スタッフは少し驚いた。
そして。
「直接言ってみます?」
「……え?」
「今なら、まだ大丈夫ですよ」
「……」
玲は迷った。
でも。
「……お願いします」
そして。
あの瞬間。
星羅と玲は。
初めて言葉を交わした。
『配信……いつも見てます』
『ありがとう……!』
『これからも、頑張ってください』
『うん!』
それだけ。
本当に。
それだけだった。
けれど。
星羅にとって。
その言葉は。
忘れられないものになった。
――現在。
「……」
星羅はベッドの上で。
一年前の記憶を思い出していた。
そして。
もう一つ。
思い出した。
イベントの後。
スタッフから受け取った紙。
『今日、あなたに声をかけてくれた男の子』
『黒瀬玲くん』
当時の星羅は。
その名前を見つめて。
「……黒瀬玲」
と呟いた。
それから。
配信のコメント欄で。
その名前を探すようになった。
毎回ではない。
でも。
時々。
『Rei』
という名前を見つけると。
少しだけ嬉しくなった。
「……今日も来てる」
それだけで。
頑張れた。
そして。
玲が学校に来るようになった頃。
星羅は気づいた。
「……もしかして」
教室に入ってきた玲。
あの声。
あの雰囲気。
あの日の少年。
「……玲くん」
すぐに分かった。
でも。
言わなかった。
初対面のふりをした。
理由は。
ただ一つ。
「今度は」
星羅は胸に手を当てる。
「私自身を見てほしい」
――そして。
それは叶った。
セラではなく。
星羅として。
玲は自分を好きになってくれた。
「……」
星羅は嬉しそうに笑う。
そのとき。
スマホが震えた。
『玲くん』
メッセージ。
『今、話せる?』
すぐに返信。
『大丈夫』
通話。
「もしもし?」
『星羅?』
「うん」
『どうした?』
「……一年前のこと、考えてた」
『俺も』
「そっか」
『あの日』
「うん」
『俺、本当に会いたかったんだ』
「……」
『ありがとうって言いたかった』
「……うん」
『でも』
「?」
『実は、それだけじゃなかった』
星羅の表情が変わる。
「……何?」
玲は少し黙る。
『あの日』
『俺、イベントに行く前に』
『セラの配信を見てた』
「うん」
『その配信で』
『一つだけ気になることがあった』
「……?」
『セラが』
玲の声が少し震える。
『「もし、今辛い人がいるなら、一人で抱えないで」って言っただろ』
「……」
星羅は覚えていた。
その日の配信。
いつもより少しだけ真面目な話をした。
『誰かに話していいんだよ』
『助けてって言っていいんだよ』
玲は。
その言葉を聞いて。
『……俺も』
『誰かに話してみようかなって思った』
「……」
『でも』
『結局、話せなかった』
星羅は黙って聞く。
『だから』
『直接会って』
『ちゃんとお礼を言おうと思った』
「……玲くん」
『それが、あの日の本当の理由』
星羅の目から。
涙が落ちる。
「……そっか」
『うん』
「話してくれてありがとう」
『……』
「玲くん」
『ん?』
「私ね」
星羅は笑う。
「一年前から、玲くんのこと覚えてた」
『……え?』
「イベントで声をかけてくれた男の子」
『……』
「ずっと覚えてたよ」
電話の向こうで。
玲が息を呑む。
『……本当に?』
「うん」
「私にとっても」
「忘れられない人だったから」
沈黙。
そして。
『……なんか』
「うん?」
『運命みたいだな』
「……!」
星羅の顔が赤くなる。
「……私もそう思う」
しばらく。
二人は黙っていた。
でも。
その沈黙は。
不思議と心地よかった。
――その夜。
玲は一人。
机の前に座っていた。
引き出しから。
あの古い写真を取り出す。
そこには。
一年前のイベント会場。
ステージの前に立つ。
星羅。
そして。
写真の端。
玲自身が写っている。
「……」
玲は写真を裏返す。
そこには。
自分で書いた文字。
『2025年8月――』
そして。
『今日、セラに会った』
『でも』
その下に。
『本当は、もう一つ目的があった』
玲は。
そこから先を見つめる。
「……」
その文字の続きを。
玲は誰にも見せていない。
星羅にも。
そして。
謎の男子にも。
「……まだ言えない」
そのとき。
スマホが震える。
『あの写真、まだ持ってるんだね』
「……!」
玲の顔が強張る。
『君があの日、会場で拾ったもの』
『そして、それを返さなかった理由』
玲は立ち上がる。
「……なんで知ってる?」
返信はない。
ただ。
最後に一つだけ。
『君たち二人の出会いは、あの日から始まったんじゃない』
『もっと前から始まっていた』
「……!」
玲は。
写真を握りしめる。
――一年前。
いや。
もっと前。
二人の運命は。
まだ誰も知らない場所で。
すでに動き始めていた。
コメント
1件
わあ…♡ 一年前の二人の出会いがこんなふうに繋がってたんですね。玲くんがちゃんと「ありがとう」を伝えたくて勇気を出したこと、星羅さんがずっと覚えていたこと…どちらも切なくて、だからこそ今の二人があるんだなって思いました。そして最後の「もっと前から始まっていた」って一文、ゾッとするような胸の高鳴りがありました。次が気になります…!