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「あのっ、ちょっといいですか?」
店が始まる前に、いつもやってる店内ミーティングで、思いきって手を上げて、椅子から立ち上がった。
俺の周りを囲むように座ってる、やる気なさげな先輩たちの視線をびしばしと浴びたせいで、意見しようとしていたやる気が、見事に削がれそうになる。それに負けないように両手の拳を握りしめ、腹から声を出した。
「俺みたいなのが意見するのは、すっげぇ生意気だと思うんですが、1ヶ月ちょい、ここで働いてみて、思うことがありまして……」
人が喋ってる最中なのに、スマホを弄るヤツや、面倒くさそうな顔して舌打ちをするヤツがいて、すっげぇムカついたのだが、気にしてる場合じゃない。
「もっと協力し合って接客したほうが、お店にとって、回転率が上がると思うんです」
新規のお客さんや、お金をあまり落してくれないお客さんに対し、結構待たせることをしている先輩方。羽振りのいいお客さんを他のヤツに取られないように、席を立とうとしないんだ。
本来なら大倉さんがそこんとこ、コントロールしなきゃならねぇのに、先輩方の顔色を窺うあまり、強く言えないらしい。
「何それ。自分が上手く接客できないからって俺らのこと、ひがんでいるんじゃないの?」
「うっ……そんなこと、ないです。だけど――」
「レインくん、分かったから。もう、いいよ」
「よくねぇだろっ、何で止めるんだ大倉さん」
確かに今まで働いてきて、接客したのは5人にも満たねぇ数だけど。俺は知ってんだ――
「アンタ売り上げのことで、オーナーにどやされているだろ。毎日、さ」
「それは、いつもの恒例行事みたいなものだし。君が気にする必要ないって」
カラカラ呑気な顔して笑っているクセに、影で悔しそうな顔をしてること、俺は知ってんだ。
閉店後、俺が後片付けしてる最中に、売り上げの計算をカウンターでしている姿を、チラチラ横目で見ていると。
すげぇ大きなため息をついて、カウンターに背を向けた瞬間、何ともいえない表情を浮かべてさ。そんなのを毎日見せられてる、俺の身にもなってほしいくらいだ。
「大倉さんに気にするなって言われても、辛そうな顔してるの知ってるせいで、放っておけるワケないだろう。こういう時だからこそ、みんなで協力してさ」
「下っ端のクセして、超生意気。誰がテメェの言うこと、聞けるかってんだ!」
「たしかにー! 店長だけじゃなく俺らにも命令するとか、信じられなーい」
「ということで、ミーティング終わりにしちゃってよね。さっさと営業しなきゃ。お客さんにこれから連絡するし」
まだ話が終わっていないのに、散り散りに席からいなくなってしまう先輩方に、ガックリと肩を落とすしかなかった。
「ありがと、レインくん。その気持ちだけ受け取っておくよ」
「……諦めんのか、大倉さん」
「レインくんに対する気持ちは、諦められないけどね」
「ちげーよ! 店のことを考えろって。アンタ店長だろ、オーナーに店を任されてるのに、何で何もしねぇんだ? ……です」
つい勢い余って、言葉遣いが荒くなったのに気がつき、最後の最後で修正。毎度、後味が悪い。
「そうなんだけどね……上手くコミュニケーションがとれなくて。今の若いコの扱いは、本当に難しいよ」
「……分かった。大倉さんが扱えるように、俺が何とかしてやる、です」
「おいおい、影で脅すなんてしないでくれよ。お店を去られても困るから」
苦笑いをする、大倉さんの肩を叩いてやった。
「ふん! 俺がナンバーワンになるって言ってんだ、そんな変なことしねぇよ」
「へっ!?」
「勘違いすんな、です。別に大倉さんのためじゃねぇから。店が潰れたら、困るのは俺なんだし」
「レインくん……」
ラブラブの眼差しで、俺の顔をじっと見つめてきたので逃げるべく、さっさと奥の部屋に引き篭もってやった。
「さて、と。ナンバーワンになるには、女の心を鷲掴みできるネタが必要だっていうのは、先輩方の接客を見て分かったけど、何ていうかどうもイマイチなんだよな」
ポケットに入れてたスマホで、いろいろ検索し、その内そこから閃いた。
「日サロのオネェ店長に、ちょっと話を聞いてみるか……」