「修さん。あれから、あの人・・この店って来ました?」
「ん?透子ちゃん? いや、なんか最近仕事忙しいみたいでさ。あれから全然来てないわ」
「そうッスか・・」
修さんの店で彼女に勝手な約束を取りつけてから数週間。
まだ今も彼女に二回目の再会は出来ていない。
オレはこうやってあれからもちょくちょくこの店に来てはいるけど、彼女に会えないのはそういうことだろうか。
「え、それってオレ避けてたりしないですよね?」
一瞬冷静になって避けられてたらと不安になって、つい修さんに確認。
「何?お前、らしくもなく不安になってんの?」
「いや・・・」
ホントらしくない。
今までのオレを知ってる修さんにしたら、そりゃからかいたくもなるよな。
「何、透子ちゃんとまだ会社で会えてないの?」
「はい。結局まだ・・・」
そう。
彼女はまだ気付いていないけれど、実はオレと彼女は同じ
「あっ、でも今日ようやく言ってたあのプロジェクトのリーダー正式にオレ決定したんですよ!」
「お~よかったな!樹、ずっとこの為に頑張ってたもんな」
「じゃあようやくそこで透子ちゃんと再会ってワケか」
「はい」
オレが今いる部署は商品企画1部。
雑貨やいろんな商品を企画してプロデュースしている。
そして彼女がいる部署は商品企画2部。
オレがいる1部は主に男性がターゲットの商品で、それ以外も幅広くプロデュースしていていて、2部は主に女性がメインの商品を扱っている。
だけど会社自体の規模も大きく、いろんな部門に分かれてるのもあって、商品企画部も1部と2部はそれぞれの部署がフロアの階も違ってまったく別の場所。
基本関わることがない。
だけど今回決まったプロジェクトが、この会社でかなり力を入れて利益も上げたいプロジェクトでなかなかの大掛かり。
しかもそのプロジェクトで今回初めて商品企画1部と2部の合同で企画を出し合って一緒に作り上げていくというコンセプト。
そして、今日念願だったそのプロジェクトのリーダーとして、オレが決まった。
密かにこのプロジェクトが立ち上がると決まった時に、それぞれの部でリーダーを決めてそのリーダー中心で進めていくという話が上がって。
それを早い時点で知ってたオレは、どうしてもそのリーダーがやりたいと立候補した。
どうしてもオレがそのポジションを熱望した理由。
それは、商品企画2部のリーダーがきっと彼女になることが予測出来たから。
オレより会社でも8つ先輩の彼女は、すでにこの会社で経験も長く、その2部の中でも群を抜いて活躍している。
何か企画やプロジェクトがあれば大抵彼女が任される。
そしてそれを自分を犠牲にしてでも必ずやり遂げて、期待通り、いや、それ以上の結果を出す。
オレはそんな彼女にずっとこの会社の後輩としても憧れていた。
だから、オレはひたすら頑張った。
いつか彼女とどんな状況で出会っても恥ずかしくないように、自信が持てるように。
最初は営業部で人脈を広げて、今は商品企画1部で。
そして今は、どちらの部署でもかなり結果を残せている状況。
同じくらいの年齢のヤツには、さすがにそこまで出来てるヤツもいなくて、いつの間にか周りからは若手エースとオレのことを呼ぶようになった。
だけど、その噂も彼女が知ってるのかどうかもわからない。
そして違う部署であまり関わることもなかったけれど、ようやく5年経ったこのタイミングでそのチャンスが巡って来た。
オレが努力し続けた結果が、ようやく報われる。
最初はただ気になり始めて憧れていただけだったのに。
いつの間にかどんどんその存在が大きくなって、いつからか彼女がオレの頑張る理由になった。
いつかオレが自信を持って、彼女と仕事出来る日を夢見て。
いつかオレが自分を持って、彼女にこの気持ちを伝えられるのを夢見て。
「じゃあ透子ちゃんと一緒に仕事するってことは、この前樹に声かけろってオレけしかけちゃったけど、逆にマズかった?」
「なんでですか?」
「いや、逆にお前の気持ちバレると仕事やりづらいのかなと思って」
「大丈夫です。まだ気持ち伝える気ないんで」
「そうなの?」
「はい。こんな始まりとタイミングで気持ち伝えたとこで多分信じてもらえないんで」
「まぁ確かに」
「でも今度口説くって言ってなかったっけ?」
「あっ、それは口説きます」
「はっ?」
「結局オレのことどう思ってるかわかんないし、とりあえずは彼女にオレを印象づけることが大事なんで」
「あ~なるほど。そういうことね。いや、でも透子ちゃん昔にちょっといろいろあったから、なかなか簡単にはいかないぞ、きっと」
「ですよね。まだ・・・前のアイツ・・好きなんですかね・・?」
「あぁ・・どうかな。オレらの前ではもう今はなんとも思ってないって言ってるけどね。でも今結局透子ちゃんも本気の恋愛したくないっぽいし、ずっと恋愛しようとしないからね」
彼女が恋愛しようとしない理由。
オレはきっとその理由を知っている。