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晴れて高校生になった晶子とカンナはそれぞれの新しい生活に忙しく、4月の下旬まではほとんど会う機会もなかった。
晶子の場合、同じ学校の中等部から高等部に変わっただけとは言え、校舎も変わったし、制服も似たようなデザインのブレザータイプではあったが、少し大人っぽいシルエットの物に変わった。
晶子の学校では、高校1年生から大学受験を意識するのが当たり前という雰囲気で、周りの同級生たちは早くもその事でピリピリした感じを見せていた。
4月の中旬に行われた実力テストで、晶子の学年成績順韻は真ん中からより下位になった。それを心配した両親は、週3回、個別指導の塾に晶子を通わせる事にした。
晶子にとって、放課後の歴史研究会の部活の時間以外の学園生活は、なんとも息の詰まる物でしかなかった。
もうじきゴールデンウィークの連休というある夜の9時半ごろ、晶子が塾を出て夜道を歩いていると、背後から思いがけない声がした。
「おおい、あ、やっぱり晶子だ」
濃紺のブレザーの制服姿のカンナが小走りに近づいて来た。晶子はびっくりした顔で久々に会った親友の、少し大人びた姿を見つめた。
晶子は色白でほっそりした体つきに、肩甲骨のあたりまでまっすぐ伸びた黒い髪、やや切れ長の目の少女になっていた。
カンナは肩の少し上で端を切りそろえた、やや栗色がかった髪に、小麦色の肌、くりくりとしたよく動くぱっちりした目の、いかにも活発そうな風情の少女になっていた。
晶子は追いついて来たカンナに、意外そうな口調で問いかけた。
「カンナ。こんな遅い時間にどうしたの?」
「そりゃこっちのセリフだろ。あたいは学校の帰り。晶子こそこんな時間に何やってんだ? 晶子の事だから夜遊びじゃねえだろ」
「ああ、あたしは塾が終わったとこなの。ほら、あそこのビル」
晶子が指差した先には、塾の看板がまだ煌々と明るく輝いていた。カンナは顔をしかめて言う。
「こんな時間まで塾かよ。昼間も学校行ってんのに」
「そう言えばカンナは夜間の定時制だったね。その学校ってこの辺にあるの?」
「ああ、あそこの交差点曲がってすぐの辺り。お互いすぐ近くだったんだな」
帰宅する電車の路線は二人とも同じである事も分かった。二人は駅に向かって並んで歩きながら、近況を話し合った。
「定時制ってこんなに遅くまで授業あるの?」
「昼間働いてる人たちのための高校だからな。だいたい夕方5時半ぐらいから授業始まるんだ」
「それだと、1日4限ぐらいじゃないの、授業」
「そう。だから大抵の生徒は4年かけて卒業すんだ。あたいもそうするつもり」
「カンナも昼間働いてるの?」
「いやまだ、いいアルバイト探してるとこ」
「ずいぶん大変なんだね、定時制って」
「そうでもないぜ。給食あるから、家の食費助かるしな」
「え? 高校に給食があるの?」
「勤め先からまっすぐ来る人が多いからな。あたいの学校の場合、1時限目が終わったら給食。人数少ないから専用の部屋でみんなで食べるんだ」
「クラス何人?」
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「クラスって言うか、全学年合わせて30人ちょいかな。学年上になると昼間の仕事と折り合いがつかなくて退学しちゃう人も出るから」
「それでも中学から定時制行く人、それだけいるんだね」
「いや、あたいみたいに中学から直接入学してんのは半分ぐらい。あとは高校中退だった人が大人になってから入り直すのも多いんだ。あたいの学年、一番年上の人は39歳なんだぜ」
「え? そんなにいろんな年齢の生徒がいるの?」
「ああ、けっこうバラバラだよ。その39歳のおじさんは、小さな工場で働いてんだけど、やってる金属加工の仕事が、法律が変わったとかで、工業高校卒業以上でないとやっちゃいけなくなったんだって。高校中退だから、その仕事続けるために工業科に来てんだ」
「え? 普通科の高校じゃないの?」
「いろんな学科あんだよ。あたいは商業科な」
「前から訊こうと思ってたけど、カンナはどうして全日制選ばなかったの?」
「あたいの成績で入れる全日制の高校なんか、底辺ばっかりだよ。そんなとこ卒業したって、何の役にも立たねえから」
「大学は目指さないの?」
「だからあたいの家にそんな金の余裕ねえって。高卒止まりなら普通科行ったってろくな仕事にはつけねえよ。だから商業科にした」
そんな話をしながら、自宅の最寄り駅に着き、駅から踏切まで一緒に歩いた。ふとカンナが言った。
「そうだ、晶子。塾の終わりいつもあの時間なら、あたいと一緒に帰ろうぜ。ほら、小さな公園あっただろ。あそこで待ち合わせてさ」
「うん、それだと毎週何回かカンナと会えるね。そうしよう」
並んで歩きながら晶子は横目でカンナを見つめた。バッグのベルトを肩にかけ、両腕を頭の後ろで組んで、相変わらず男っぽい歩き方だったが、晶子の目にはその親友がいつの間にか、自分よりずっと大人になっているような気がした。
コメント
1件
おお、晶子とカンナ、久しぶりの再会ですね…! お互い新しい環境で、それぞれの形で大人になっていく姿が、何だか切なくも温かい気持ちになりました。カンナの「一緒に帰ろうぜ」って、あの軽い口調で言うところがもう、彼女らしくてじんときました。晶子の目に、カンナが自分よりずっと大人に見えたっていう一文、すごく好きです。育ってきた道の違いが、自然と滲んでいました🌷