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一次創作も神で最高とか くろっち何者ですか😿💗 本当に題名、内容、結末、 全部素敵すぎてだいすこな 小説です🫶🏻💞
う わ ぁ ぁ め っ ち ゃ す き 兄 妹 愛 っ て い い ね ... 😣💖
ナマモノが腐っているかのような異臭が籠る部屋で、俺とふぅは暮らしていた。俺の双子の妹の風月。風月の「風」をとって「ふぅ」。
俺が「ふぅ」って呼ぶたびにアイツは赤ん坊のような無邪気な笑みを浮かべて俺に抱き着いてくる。ぎゅっと自身の体に絡まれた細い腕が大好きだった。
俺ら双子を産んだ母親は世にいう毒親というやつで、子供の面倒も見なければ家に帰ってくること自体少ない。仮に帰ってきたとしても決まって煙草やお酒を片手に、ぼんやりと虚空を見つめている姿しか見たことがない。俺は、焦げ付くような異臭と母親から匂う甘ったるい香水の香りが交じり合ったあの何とも言えない匂いが大嫌いだった。
単純に臭かったし、そしてなにより、ふぅの体調を崩させる原因だから。
ふぅは体が弱かった。たぶん、産まれてからずっと。
双子だというのにも関わらずふぅの体は俺よりもずっと小さかったし、体力もなかった。
頻繁に風邪をひいては苦しそうに咳を吐き続け、熱で赤らんだ顔をくしゃりと歪めてわんわん泣いていた。体は火のように熱く、嵐のような荒々しい息を吐く妹の姿に、初めのころはふぅがこのまま死んでしまうのではないかと思って怖かった。
「とりにぃ、はなれないで」
蚊の鳴くような弱々しい声でそう言葉を落とし、ぎゅっと俺の服の袖を握りしめながら涙の滲んだ瞳でこちらを見上げてくるふぅのことを鬱陶しいだなんて一度も思わなかったし、むしろ俺にだけ縋ってくれるふぅがどうしようもなく可愛くて毎日付きっ切りで看病し続けた。
「だいじょうぶ、ちゃんとそばにいるから」
薄汚い小さく薄い毛布に二人包まって眠る。そうすれば寂しさも怖さも感じなかったし、自然と笑顔になれた。
体が弱く、涙を流しながら俺に縋ってくるふぅが世界で一番大好き。
だが、母親はそんなふぅのことをよく思わなかったらしい。
咳の音がうるさいだの病気を持ってくるなだと散々な言葉を弱っているふぅに吐き捨て、激しく咳き込むふぅの腹を蹴り上げた。ふぅは蹴られた腹を抱きしめるような体制で抑え、溢れ出る嗚咽を必死に飲み込んでいた。ここで泣けばもっと痛い目に遭うと理解していたのだろう。だが体は正直で、そんな弱弱しい抵抗とは反対にふぅの大きな目からぽとりと一粒涙が流れ落ちていく。
それを見た瞬間、自分でも驚くほど刺々しい声が喉を通った。
「やめろ!」
初めて聞いた自分の声が不協和音のように耳底に残る。
母親は一瞬驚いたように目を見開くと、また俺を見つめる視線を鋭くさせ、地を這うような低い声で怒声を吐き捨ててきた。次の瞬間、母親の白い手が俺の髪を掴み、壁へと打ち付ける。一瞬、視界の端で白い火花が散った。
ドンッという衝撃音とともにやってきた頭部の鈍い痛みに目を瞑り、どうか怒りの矢先がふぅに戻らないよう祈りながら必死に耐える。
「花鳥、アンタバカなんじゃないの?」
ドブのように汚い声が壁に頭を打ち付ける音に紛れて俺の鼓膜に触れた。
バカはどっちだよ、クソババァが。と、心の中で悪態をつきながら母親の怒りが収まるのを待っていると、ふとそれまで打ち付けられていた頭部が細い誰かの腕に抱きしめられる。
「とりにぃ」
何かの糸のように細い声がすぐ そばで聞こえ、閉じていた瞳を開ける。
自分と同じ髪の色、同じ顔立ちの女の子がぎゅっと俺のことを庇うように抱きしめ、必死に母親のことを睨みつけていた。その体は僅かに震えていて、目じりにも涙が引っ付いている。
ふぅ。ふぅだ。
「とりにぃ、だいじょうぶ?」
そう言いながら俺のことを抱きしめる力を強めるふぅに、愛しさがぐんっと胸に迫ってくる。さきほどまで感じていた痛みは潮が引くように消えていき、代わりに胸が締め付けられて息もできないほど心臓がどくどくと脈を打ち始めた。
双子は産まれる前からずっと一緒で、誰よりも相手のことを分かってあげられる。
俺にとって一番近い存在はふぅで、ふぅにとって一番近い存在は俺。
「…ホントアンタたちって気持ち悪い。さっさと死ねばいいのに。」
双子なんて産まなければよかった。と、母親はぽとりと雫のように呟くと俺とふぅから視線を切り、どこかへと出掛けてしまった。
でも、そんなこと別にどうでもよかった。
「ふぇ、えっく…ぅ…」
母親がいなくなった瞬間、ふぅは糸が切れた人形のように床へとへたり込み、火が付いたみたいに泣き出した。
「とりにぃい…怖かったよおぉ…!」
いつも通り俺の服の袖を掴んで、俺に縋ってくる。
「ふぅ、泣かないで。もういなくなったから。」
泣き喚きながらもギュッと強く俺のことを抱きしめてくれる妹の首筋に顔を押し付け、心臓を焼き滅ぼすような重く甘く強い、愛しさに耐える。そうしなければ今にも体がぐちゃぐちゃになってしまいそうだった。
家族として、兄妹として始まった俺らの関係。それがいつどこでなにが性質を変えてしまったのかはわからない。
「…ねぇ、ふう。」
ひっく、ぐすん。と肩を震わせながら泣くふぅの口に自身の唇を重ねる。
「だいすき」
ずっといっしょにいよう。