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◆ ペフメック・コフィンラッド
「ぺフィー、野菜がシナシナになら無いようにちゃんと日陰にいって売ってきてね。ホビットとお喋りばっかりして、ちゃんとお金貰うの忘れちゃダメだからね!」
早朝からいつもの母親の言い付けをしっかりと上の空で聞いていた。農村の朝は早い。未だ太陽は見えていない。屋根の付いた荷車を引いて、小さな丘を下ると行商路に出た。三人の子供たちがホビットの行商人を、またからかっている。
「へん!てぃんぽのパーンポーン、てぃんぽのパーンポーンッ!!」
一人は隣家のマーサの長男、一人はアイズラックのところの、小さいのがマーサの次男だ。不思議な響きの悪口を言って左右にとび跳ねながら変な顔で両手を振ってふざけあっている。
ホビットの行商人ピーコンは馬の速度を極端に落として楽しそうに笑っている。
マーサの長男が叫ぶ。
「プリチンパンポンの~ッ!!」
三人が同時に叫ぶ。
『ちんぽのパーンポーンッ!!』
ぺフィーは大笑いで腰をくの字に曲げ、荷車のグリップを何度も叩いた。今日は朝から下町傭兵団の素晴らしい新ネタを見た。『これは今日はいける』、そう思いながらホビット行商のピーコンに本日も手を振り合流する。
「ピーコン、おっはよッ!お腹いっぱい!」
ホビット語で行商ホビットに挨拶する。
「ぺフィー、おはよ!お腹いっぱい!」
ピーコンは鼻にかかった高い声で上機嫌で売り物を説明する。
「ねえねえ、ちょっと聞いてよ。今日の商品はすっごい目玉商品なんだよ。それが何か当てたら一個あげても良いよ。ヒントは凄いものだ。君の売り物はいつものアレだね?」
ぺフィーは目を輝かせて、予想してみた。
「凄いもの凄いもの…凄いものと言えば……分かった!タバコのパイプだろ?」
人差し指を左右に振りながらゆっくりと首を横に振る。
「もう一個ヒントだ。すっごく高価なものだ。拾うものだ。」
高価なものといえば金や宝石、拾うものと言えば栗を連想した。ぺフィーは宝石も拾うものに数えていた。
「…宝石だ!」
ピーコンは一瞬目を閉じて考える振りをして大きく見開く。
「はい、残念っ!正解は遺跡で拾った不思議なものでしたっ!」
そんなもの当てられる訳が無いと言わんばかりにぺフィーは顔をしかめる。……残念ではあったが何を拾ったのか凄く気になっていた。
「それって、不思議な靴かい?それともスプーン?」
ピーコンの商品は常に変わったものだった。
「今日のヤツは、付与された手袋に付与された盾、更にルーンの入った手鏡、オマケに聖銀の鎖かたびらだ。あとは、『カミの白樹』だ!」
ぺフィーには良く分からなかったが多分凄いものだろうと思った。
「それって高いの?」
ピーコンは大袈裟に白目を剥いて倒れる素振りをした。
城下への南門を一緒にくぐり、王城の方へ向かうと露天市場に辿り着く。ぺフィーは毎日出店し、ピーコンはここで三日に一度は一緒に出店している。現在ぺフィーは14歳だが、4歳の頃からピーコンとは一緒に楽しく過ごしている。ホビット語もピーコンから習ったものだ。
今では母の代わりに露天を開けるようになった。水道橋の陰に日除けの付いた荷車を停め、野菜の種類が書かれた立て看板を露店前に置き、シンプルで小さな木製の丸太を椅子にして据える。近くの水汲み場から手桶で水を汲み、片手で水を掬うと野菜にかける。
隣ではピーコンが馬に水を与えている。ピーコンの馬車も小さな荷台である。彼もぺフィーの横に組み立て式の椅子を据えると、軽くて低めのテーブルを置き、テーブルクロスを掛けると商品を並べて展示する。荷台の中にいくつかある設置型の看板の一つを取るとテーブル前に置く。『遺跡収集品』と書かれている。値札を商品に付けていく。
魔法付与手袋=大金貨10枚(金貨100枚)、魔法付与丸盾=大金貨25枚(金貨250枚)、神聖文字入り手鏡=大金貨20枚(金貨200枚)、珍品『カミの白樹』大=大金貨10枚・小=大金貨2枚、聖銀の鎖かたびら=大金貨20枚
ぺフィーにはあり得ないべらぼうな価格に見えた。『買う人がいるわけが無い』といつも思っていたが、買い手は着実に増えていた。ピーコンの扱う品々は幅広い。異国で入手してくるらしいが詳しくは教えてくれなかった。
彼らの仕事とは品々が売れるまでずっとお喋りを続ける事だ。売れなくてもお喋りは続くが……。
露店市場の出店者が増え始める早朝、人通りも増えて来た。早速20代後半のエプロン姿の女二人がぺフィーの店に近付いてくる。
「ぺフィーちゃん、おはよう。」
「おはよう、お姉さん。じっくり見ていってよ。」
立て看板を見ながら値段をしっかり確認している。
「青菜二つにネギ一本、赤かぶ三個だね。えーっと、銀貨3枚だよ。」
小銭入れから銀貨を取り出し、ぺフィーに渡す。
「いつもありがとね!ご贔屓に!」
一人が買い物袋に野菜を収めてピーコンの商品台を見ている。並んでいたもう一人が野菜を選び始めた。
「私は茄子二個と人参一本とじゃがいも三個頂くわ。」
手早く野菜を選んだ女も買い物袋に野菜を収める。
「えーっと、銀貨3枚と銅貨4枚頂くね。」
女はお金を渡すと一声かける。
「ぺフィーちゃん、ありがとう。お母さんによろしく伝えてね。」
「うん、伝えておくね!ありがとうございます、また来てね。」
女二人は露店市場の奥へと歩き、人混みの中に吸い込まれていった。ぺフィーは街の奥様方から可愛いと人気があった。隣を見るとピーコンがタバコを吹かしながら本を読み耽っていたが、客が見えなくなった瞬間から突拍子もなく話しかけてきた。
「なあ、ぺフィー、マフモル族って知っているかい?」
ぺフィーは突然過ぎて何の話をしているのかが分からなかった。きょとんとするぺフィーに本格的に演説を開始する。
「マフモル族ってのは、ムーザ山脈の向こう側の土の下に住んでる魔法使いの事だよ。ぺフィーやオイラくらいの身長しかなくて、でっかい図書館に住んでるんだ。」
ぺフィーには図書館という言葉の意味が良く分からなかった。
「図書館ってなに?」
この質問こそが、塩に黒胡椒、お喋りピーコンに演説の隙を与える。パイプを握った手でムーザ山脈の方向を指して答える。
「図書館ってのは、本がぎっしり詰まった建物で、ここ王国では金持ちたちが通うところさ。そこにはこの世界の全てがあって、その本を読めば何でもわかってしまうんだ。ぺフィーは何も知らないでしょう?だからぺフィーの世界は狭くて小さいんだ。それが図書館にいくと世界が大きくて深~くなるんだよ。たとえばサンドイッチ食べるよね?中に何が入っているかも分からずにかじりつくのと、このお肉は、この野菜は、このソースは、このパン木地は、って具合に一つ一つが分かると味ももっと深くなるんだ。一冊の本には、一人の人生が入っているから、10冊読むと10人分の人生を楽しめるんだよ。」
ぺフィーは目を輝かせながらピーコンの世界に入っていく。言葉を聞くとその世界を頭の中で描いていた。
「ピーコン、ボクもそこに行くよ!」
ピーコンは手のひらをポンと打ち、ぺフィーを一瞬指差して話を続ける。
「図書館って簡単には入れてもらえないんだよ。だけど一つ手がある。なんだと思う?それはぺフィーが本を作ればいいんだよ!そう、人が知りたがるような本を書くんだ。簡単な言葉でいいんだよ!ぺフィーの好きな事や面白いって感じる事をひたすら書き続けるんだ。いいかい?ぺフィーは不思議なこと好きだよね?それをどこまでも追いかけていくんだ。それは簡単そうで誰にもできないことだ。でもぺフィーにはそれができるはずさ。なぜだと思う?それは君がいつもオイラにしつこく質問するでしょう?それを自分で探すんだ。みんな自分で質問するのが嫌なんだよ。でもぺフィーはそれが好きで好きでしょうがないだろう?」
捲し立てるような舌使いの話を聞いて、ぺフィーの頭の中で電気と電気が火花を散らすような不思議な感覚が芽生えていた。大きく眼を見開き、ぺフィーは人生の目標をそこで決めた。
「ボクは冒険者になって世界を旅するよ!」
ピーコンは拍手しながら付け加えた。
「冒険者に一番必要なことはなんだと思う?冒険者っていつも危ないんだ。危ない状況にあるのに戦う必要なんかないんだよ。ぺフィーは命をたくさん持ってるかい?…そう、ぺフィーの命は一個しかないはずなんだ。ただでさえ危ない冒険者が妖魔や盗賊なんかと戦う必要なんてないんだよ。戦わない努力をするんだ。戦う場所に行かない、戦う人にならない、戦うヤツに近付かない。勝っても負けても死んでしまうような世界を捨てるんだ。ほら、よく戦いに勝ったとか、魔物を倒したなんて言うヤツがいて、みんなから凄いなって言われるけど、何も凄くないんだよ。戦わずにみんなが安心できる世界を作る人が一番凄いんだ。ぺフィーにはそれが似合うよ。」
ピーコンの話は長いが説得力があった。実利主義、現実主義のお喋りホビットたちは争いの無い農村地帯を長い年月に亘り保持していた。
「ボクにできるかな?」
ぺフィーは、ピーコンの話を少し大袈裟に感じながら、自分にできるか迷ってしまった。
「そこだ。できるできないの問題に入っちゃだめだ。なぜかって?それはぺフィーそのものが何も考えずにオイラにしつこく質問するじゃないか?それって、できるできないじゃないだろ?もうすでに質問してるじゃないか。何も考えずに動いてるんだよ。動きたいから動いているのさ。例えばさ、商売の計算って負けたら損するから、必ず勝たなきゃならないよね?でも質問するのも何かを探すのもぺフィーがそうしたいからそうするだけさ。そこに勝ち負けはないんだよ。でもみんなはそれができないんだ。それがぺフィーにとって大きな大きな財産なんだよ。」
ぺフィーは、幼少期、読み書きができなかった。もちろんホビット語も話せない。ピーコンとの出逢い、それがきっかけとなり、共通語とホビット語を話せるようになり、文字の読み書きも覚えていた。
「じゃ、何も考えなくていいんだよね?」
ひたすら話し込むピーコンの話を、ぺフィーはそのまま信じる事にした。ピーコンは話しすぎて喉が乾いたのか木の杯にお茶を注ぎ、一口含んだ。
「冒険者って何をしたらいいの?」
まだ戸惑いを見せるぺフィーにピーコンは語りかける。
「ぺフィー、とても簡単な事なんだよ。食事をする時、何を準備するかい?そう、フォークとスプーンだ。誰が作ってくれるかい?ママがいるだろう?ママから料理を受け取りにいくんだ。そうしたらママに『ありがとう』って言うよね?それをどこに持っていくかい?もちろんテーブルさ。そうしたら、こう言うだろ『身体になあれ!』って。そしたら食べるだけだよ。必要なことは全て自分が感じる事だよね?それを普通にこなすだけのことだ。最後に食べ物に『ありがとう』ってお別れを告げるんだ。この手順でいけば、気が付けば冒険者になっているはずだ。一番大切なことは『冒険者になる』って決めた時からすでに始まっているんだ。」
長い話に熱中するぺフィーとは対照的にピーコンは疲労が溜まり、身体が睡眠を欲していた。お昼寝の時間だ。
「ピーコン、ボク分かった!まずはお小遣いを貯めるよ。」
その一言を聞くと、ピーコンは、座っているぺフィーの頭を撫で、馬車の荷台に上がりカーテンをピシャリと閉じた。ニョキっとカーテンから首を出して一言呟いた。
「誰か来たらおこしてね。」
また荷台に引っ込んだ。
日差しが強くなってきた。荷台から取り出した日時計盤の磁針を北に合わせて、城下町の石畳の上に静かに置く。中央の穴に垂直な棒を突き刺すとその陰は12時を示していた。ぺフィーは母親が作ってくれた弁当を荷台から取り出す。木箱を開けると卵焼きと焼魚の香草ソース仕立てに温野菜が美味しそうに配置されている。フォークを取り出してホビット式の挨拶を唱える。
『身体になあれ。』
フォークを卵焼きに突き刺して豪快に頬張る。塩コショウだけで十分美味しい。次に温野菜のじゃがいもにフォークを突き刺して崩れかけのじゃがいもの甘さと塩の絶妙なバランスを口溶けの食感とともにを堪能する。お茶を一口飲み、舌を洗ったのち、焼き魚を指でつまむとハムッと一口に頬張る。時間が経っても味の落ちない香草のソースとスパイスが効いて食欲を増進させてくれる。ふと、隣を見るとピーコンの客が来ていた。
憲兵部隊長のリムベットは、噂の露店商を見つけて外面とは裏腹に心が踊っていた。ホビットが店主のはずだが姿が見えない。食事にでも出ているのかと、静かに商品台にある丸盾を眺めていると、隣の野菜売りの少年が馬車の荷台に上がってカーテン越しに声をかけた。
「ピーコン、お客さん来たよ?起きなきゃ!」
カーテンをピシャッと開き中から半開きの目でピーコンが出てくる。
「……いらっしゃいませ~。」
気の抜けた声で接客するピーコンの自然体に部隊長のリムベットはこの店は大丈夫かと内心思っていただろう。
「この盾は何が付与されている?」
重い口調で質問する。ピーコンは寝起きの一服の準備をしている。
「えーっとね、それは五大属性の水が付与されているよ。」
煙草の葉をパイプに詰め、カンテラの火に木の棒を近付け火を移すとパイプの煙草に点火してプカプカとしている。
「具体的にどういうことだ?」
詰問するような口調は仕事柄だろうか。
「えーっと、例えばさ、火矢が飛んでくるよね。それを防ぐと火が消えたりするよ。」
そう言うと火の付いた木の棒を盾に近付ける。火は盾に触れる前に煙に変わった。
「おおっ!!まことだ!!」
無表情な顔に点が二つ付いた。眼を丸くして聴く姿勢に変わる。
「この盾の材質もエルフの聖銀製だから、なかなか入手は難しいよ。竜の息にも耐えるって鑑定したエルフが言ってたから間違いないと思うけど。ドワーフの聖銀も質が良いけど、エルフが集めた聖銀は精霊が宿るって言われるよね。ドワーフは地下鉱床だけど、エルフは川から拾うから、これだけの量はなかなか無いし、普通売ってないよね。」
リムベットはこの盾を本気で購入したいと思い始めていた。同時になぜこのような露店でこれだけの物を売っているのか、理解に苦しんだ。実際に様々な盾を見てきたが素材に関しても嘘がない事を知っていた。ここで見逃せば入手は一生叶わないだろう。。
「……買おう。」
リムベットは大金貨25枚を本日中に用意する約束をした。加えてピーコンに割符を準備するよう催促した。ピーコンは盾をテーブルから取り出し馬車の荷台に収める。リムベットは無言でその場を後にした。
「ありがとう!夕方までは待ってるよ。」
客を掴まえようとしないアッサリとした挨拶だった。ホビット全般に言えることは人族のような強欲さがほとんどない。金のために努力はするが執着はしない。人族のがめつさは金を信仰しているようにしか見えてなかった。
午後に入ると客層も変わり、傭兵や冒険者が露店市場を訪れていた。ピーコンは本日三度目の食事を向かいの露店「マーサのサンド」で購入する事を決めていた。ここの黒胡椒と生ハムサンドの評判は役所の役人たちが行列を作るほどの人気がある。ピーコンは予約を入れて近いから特別ということで届けてもらった。薄手のパンで挟んだ野菜と卵焼き、燻製チーズを鉄板と鉄板のあいだに挟み圧縮しながら焼く。最後に黒胡椒をふんだんに使った生ハムを挟んで、紙で包む。外の木地が圧縮されサクサクの食感と溶けたチーズから薫るスモーキーさと卵の甘味と食感、擦り立ての黒胡椒を纏った生ハムの塩加減としっとりとした舌触りと胡椒の香りが絶妙である。しかもこれで銀貨4枚は破格だ。
今日の売り上げは上々でぺフィーは野菜が売りきれる前に帰りたくなった。そんなソワソワするぺフィーを見て、ピーコンは旅の楽しさを伝えたくなった。
「なあ、ぺフィー、ホビットの街パンポンティーノに来てみないか?」
ぺフィーは、いつもの突拍子もない質問に思考が停止する。
「え?…いつの話?」
今すぐにでも行こうと言い出すのではないかと戸惑っていた。
「いつでもいいんだよ。冒険者になりたいんだろう?じゃ、先ずはホビットの郷に来るといいよ!ホビットの郷をしっかり見て本にすると良い。ホビットの郷には人間はほとんど来ないんだ。ペタの街で止まってしまうんだ。美味しいものが本当にいっぱいあるのさ。しかもみんなぺフィーの話が聴きたくて宿代も取らないよ。王国の事を知りたがってるんだ。」
ぺフィーは少しホッとした。安全なホビットの郷なら行っても問題なさそうだ。
「冒険者になるために必要な物が揃ったら最初にホビットの郷にいくよ。その時はピーコンのうちに泊まっていい?」
断られる事を前提に話してみた。一人だと不安しかなかった。
「もちろんさ。うちは広い方だよ。ずっと住んでもらっても構わないけど、薪だけは気を付けて欲しいんだよね。火事になったらまた作らなきゃならないからさ。」
どういう感覚なのかは分からないが人を招く事への抵抗が全くないようだ。
「あとさ、畑に水をあげなきゃ野菜が枯れるんだよね。その時はお願いだよ?週に1回くらいは必ず帰るからさ。」
どうも家に帰る習慣がないのだろうか。加えて行商で一体どこまで行くのか。ぺフィーは、この時、初めてホビットの行商がどれほど過酷なものかを想像していた。
そうこうしているとリムベットが大きな筒を持ってやって来た。
「その中の大金貨25枚、確認して貰えるか?」
大金貨は、一枚で金貨十枚分の大きさがある。厚みもある。皮袋を使うとその口に掛かり取り出しにくい事から、王国では筒に入れ、紐を通して肩から下げる形式を取っている。大きな取り引き以外ではほとんど利用されることはない。
「……確かに受け取ったよ。じゃ、この板に名前を書いて貰えるかな?オイラの名前はもう書いてる。『確かに盾を買い取った』って名前の下にでも書いてね。」
インクの付いたペンを渡す。リムベットはサインをすると『確かに盾を受け取った』と記入して割符の板をピーコンに返した。
ピーコンは割符をひっくり返すと、石畳を軽く払ってノミと木槌で割符を叩いた。『パコンッ』と軽い音がしたあと、板は割れた。契約成立だ。片方をリムベットに渡す。
「もしも盾が傷付いたらオイラを探してよ。良い鍛冶屋を知っているから。」
リムベットは終止無言だったが、嬉しそうに返事をした。
「良い買い物だった。また立ち寄らせてもらう。」
ピーコンは本日は営業終了らしく、片付けに入った。
王都の労働者のひと月当たりの収入は、大銀貨で50枚から200枚ほど、金貨に換算すると金貨5枚から20枚となる。金貨10枚は大金貨1枚分に相当する。大金貨25枚もあれば2年以上は不自由なく暮らせる。それほどの取り引きをしているにも関わらず、このホビットはそこまで裕福には見えなかった。
二人は、少し早いが露店をたたむ準備に取り掛かっていた。
夕刻になる前には村に付きそうだ。
ピーコンは馬車の速度を極端に落として、ぺフィーは荷車を引きながら並んでゆっくりと歩く。
キャミルコッフェの南門を過ぎるとまた現れた。下町傭兵団の三人組はピーコンを見るなり駆け寄ってくる。
マーサの長男が大股を開いて股間から握りこぶしを天高く突き上げる。
『パプニチカ、プンパプンパの~ッ!!』
三人が揃って叫ぶ。
『プリチンパーンポーンッ!!』
ピーコンとぺフィーは仕事疲れで笑う気力が無かった……。
ピーコン・パンポンティーノの名前、ホビット族の性名は出生地を表す。