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20
あまね🍡💠
75
十五年前――。
能力犯罪は、日に日に増え続けていた。
ニュースでは毎日のように事件が報じられる。
『能力関連事件 第26号。』
『能力を利用した傷害事件。』
『能力関連事件 第27号。』
『能力を利用した窃盗事件。』
『能力関連事件 第28号。』
『能力を利用した脅迫事件。』
街の人々も少しずつ表情を曇らせ始めていた。
「最近、事件が多いね。」
「能力って、本当に便利なのかな……。」
少しずつ。
ほんの少しずつ。
社会の空気が変わり始めていた。
-–
休日。
義一は私服姿でZERO本部を訪れていた。
今日は研究所の仕事は休み。
ボランティアとして活動に参加している。
「義一さん、おはようございます。」
詩織が笑顔で迎える。
義一も穏やかに笑った。
「今日も警備を担当します。」
蓬萊が頭を下げる。
「いつもありがとうございます。」
義一は照れくさそうに笑う。
「俺にできることなんて、これくらいですから。」
-–
その日。
ZEROは市民会館で講演会を開いていた。
蓬萊は壇上へ立つ。
「ここ最近。」
「能力犯罪は急激に増えています。」
会場が静まり返る。
「最初は事故でした。」
「次は放火。」
「そして傷害事件。」
「ついには殺人未遂事件まで起きました。」
ざわめきが広がる。
蓬萊は静かに続けた。
「能力は便利です。」
「ですが。」
「使う人の心を育てなければ。」
「事件はさらに大きくなります。」
「どうか。」
「皆さんも危機感を持ってください。」
会場から静かな拍手が起こった。
-–
講演会終了後。
参加者たちが帰り始める。
義一は最後まで会場全体へ視線を巡らせていた。
出入口。
非常口。
窓。
物陰。
一つひとつ確認していく。
警備責任者として長年培った習慣だった。
「……異常なし。」
そう小さく呟いた、その瞬間だった。
バンッ!!
突然、入口近くの看板が大きな音を立てて倒れる。
会場が騒然となる。
悲鳴が響く。
義一は反射的に詩織の前へ立った。
「下がってください!」
鋭い視線で周囲を見渡す。
逃げる人影はない。
能力の痕跡も見当たらない。
看板には、一枚の紙だけが貼られていた。
義一が慎重に紙を剥がす。
そこには赤い文字で書かれていた。
『余計なことをするな。』
『次は言葉では済まない。』
義一の表情が険しくなる。
詩織も息を呑んだ。
「脅迫……。」
蓬萊は紙を静かに見つめる。
「……ついに。」
-–
その頃。
イコル・ヤーレン研究所。
博士は一冊の資料を蓬萊へ手渡した。
「これを見てください。」
蓬萊が資料を開く。
能力事故。
能力犯罪。
事件件数。
すべて右肩上がりだった。
蓬萊は言葉を失う。
博士が静かに口を開く。
「予想より早い。」
「社会が変わる速度が。」
「私の想像を超えています。」
蓬萊は資料を握り締めた。
「それでも。」
「教育を続けます。」
博士は小さく頷く。
「私もです。」
「学校教育への導入は、必ず実現させます。」
二人の信念は、まだ同じ方向を向いていた。
-–
その頃。
政府庁舎。
会議室。
『能力犯罪対策準備室』
その看板が掲げられていた。
担当者が説明を始める。
「本日より。」
「能力犯罪対策準備室は正式に始動します。」
「各省庁より担当者を選出し、本格的な組織設立へ向け準備を進めます。」
資料が配られる。
会議室の外。
一人の青年が、その説明を静かに聞いていた。
『能力犯罪対策準備室』
その文字を見つめる。
青年は小さく呟いた。
「能力犯罪専門の組織か……。」
ほんの少しだけ笑みを浮かべる。
「悪くない。」
青年は静かに歩き去っていった。
まだ誰も。
彼が、この国の未来を大きく変える存在になることを知らない。
-–
夜。
ZERO本部。
脅迫状は机の上に置かれていた。
メンバーたちは不安そうな表情を浮かべている。
「蓬萊さん……。」
「活動を休止した方がいいんじゃ……。」
部屋が静まり返る。
蓬萊は脅迫状を見つめる。
そして静かに首を横へ振った。
「活動は続けます。」
「恐怖に負けたら。」
「子どもたちの未来は守れません。」
誰も反論できなかった。
義一は脅迫状を静かに見つめる。
そして、
楽しそうに笑う詩織へ目を向ける。
心の中で、静かに誓う。
「……必ず守る。」
まだ、その決意だけだった。
第62話へ続く
コメント
1件
読了しました……。第61話、すごく重かったです。能力犯罪が増えていく社会の空気がひしひしと伝わってきて、胸が苦しくなりました。特に蓬萊さんの「恐怖に負けたら子どもたちの未来は守れません」という言葉に、本当に心を打たれました。脅迫状が来ても活動を続ける決意、その強さに感動しました。義一さんが詩織さんを守ろうとする姿も、静かに熱くて……。最後の「まだ、その決意だけだった」という一文が、とても切なかったです。続き、気になります。