「セラ、今日泊めて」
「…いいよ、」
隣に座る俺に俯いた奏斗がそう言って、俺の家に泊まることは少なくなかった。目的はいつも同じ。
“雲雀”関連の愚痴。…いや、愚痴っていうか、相談、というか。奏斗はいつも、俺に慰めてもらいに来てるんだと思う。雲雀が外で手を繋いでくれない。雲雀とのセックスで、雲雀が気持ち良くなっているかわからない。
ねぇ、セラはどう思う?
ひば、ひば、ひば。ほんと、馬鹿じゃないの。奏斗にこんな想いさせる“ひば”も、こんなこと…俺に言う、奏斗も。人の気も知らないでって、こういうことを言うんだろうなあと思う。一緒に帰って、同じご飯を食べて、同じ匂いのシャンプーを使って、俺の家に置いたままになっているスウェットを着て、それから、はじまる。いつも俺の部屋の冷たい床の上で、膝を抱え込んで座る奏斗は愛おしい。ぽつぽつと悩みを打ち明けはじめて、それはどんどん饒舌になっていく。それを俺はいつも、精一杯の愛情を込めて抱きかかえる。たったそうするだけで、奏斗は押し黙る。そして、火が付いたように泣き出す。その後は、泣き疲れて眠ってしまう。すると、次の日の朝はケロッとしていて、のろけ話を聞かされる。そんな、赤ちゃんみたいに単純なのに、どうして“雲雀”は奏斗を、自分で慰められないんだろう。正直、恋人失格だと俺は思う。だって、俺ならちゃんとできるから。そもそも、こんな風に奏斗に悲しい想いもさせないし。いつもいつも、ずっと前からそう思ってた。でも、奏斗がそうしていたいならって、我慢してきた。
そうやって、積もり積もってきた何かが自分のなかにあって、だから、今日は、泣き出す直前の奏斗に言われた一言が、どうしても、聞き流せるものではなかった。
「…ひばが、せらみたいに優しく抱きしめてくれたらいいのに」
背中に回していた手を肩において、冷たい床に奏斗を押し付けた。体育座りを崩した奏斗を組み敷いて、衝撃で開いたままになっていた唇を深く塞ぐ。
「ん、んぅ、はぁっ、あ、せぁ、?」
奏斗がまだ戸惑っている間に、衝動に任せてスウェットを胸までたくし上げると、現れた二つの突起にひどく興奮した。着替えとかで見ているはずなのに、何故か全然違うもののように映って、引き寄せられるように手を伸ばした。頭の隅の正常な思考が、駄目だと訴えて、けれどもそれは欲にまみれた思考で塗りつぶされて、よくわからない。なんとなくよくないとだけぼんやり思って、恐る恐る、触れるか触れないかで先端を撫でた。
「ひ、ばっ、こわ、たすけてっ」
ようやく状況を理解したらしい奏斗が、他の男の名を呼んだ。一気に頭に血がのぼる。乳首に少し触れただけで、こんなによがって。こんな風に、奏斗の体を作り変えたであろう人物の顔が頭に浮かんで、もういいやと思った。手に力を込める。乳首を押しつぶすように指を擦りつけて、爪先で引っ掻いて、つまんでグリグリ引っ張ってやる。さっきと違って、奏斗の硬い乳首の感触が、しっかりと伝わってくる。それは奏斗も同じだったみたいで、奏斗は大きく喘いだ。
「あぁ、あっ、やだっ、い、ぁあっ」
「…奏斗、気持ちよさそう」
思わずつぶやいた。だって、そう思ったから。だけど、奏斗は当然怒る。
「ふ、ざけ、んなっ、はな、せっ」
「なんで…?気持ちいいんでしょ、?勃ってる」
「や…っ」
なんで、とか、愚問だろうけど。奏斗が答える前にスウェットの下を下着ごと剝ぎ取ってしまえば、返事はかえってこなかった。
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