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レベル2 近道 保志
「暗くて前が見えんよ……徹くん……う……」
俺は持っていた懐中電灯で辺りを照らした。水かさが増してくる床でずぶ濡れの足で佇んでいた。
涙が自然に溢れてくるし。止まらなかった。泣いているのか……俺は……。
泣いているんだな……俺は……。
「ここ……どこだろ……? レベル2って一体……?」
水かさが胸の辺りまで来やがった。息苦しくて仕方がない。仕方なく。俺は工具箱が駄目になるので前に進むしかなかった。激しい水の流れる音が大きくなる。涼しい風が大量の水飛沫と共に吹いてくる。かなり息苦しいけど顔が冷たいな。通路から出ると、この空間の全容が明らかになってきた。
「ここは……? 用水路の集まりだな。工業用用水路か?」
床に用水路が至るところを複雑に流れ。北の方から滝のような水が床を押し流していた。
「あ、わかったぞ! ここはレベル1とかレベル2とか書いてあるけど……なんか……核シェルターのような施設なんだなきっと……それで、元は人が住める場所に作ってあったんだよ。それも大規模な」
北の方から工業用用水路にかなりの水が放たれた。
「水の流れが凄く激しいな。水かさも増してきている。早くレベル3の扉を見つけないと命に関わるな。うーん……この水の量からして、水中に扉があったらアウトだな。さあ、どうする? 徹くん……さよなら……俺は地下へ行くから……」
ズブズブと重くなる足でレベル2を歩き回るのは、あまり……考えたくはない。かといって……潜るのもなあ……。そういえば、あのガソリン男はどこへ?
「うん?」
北の方から轟音がしたと同時に水かさが見る見るうちに増した。
「うわ!! 壁に穴が空いたーーー!!」
慌てて水の流れの弱い角へと逃げていく。
「う!!」
すでに口の辺りまで水の脅威が迫っていた。工具箱も水浸し。
「うぷっ!!」
身体ごと押し流す重たい水は、口や鼻に入って来る。口を慌てて閉じた。もう水の流れに呑まれるしかない。工業用用水路を埋めた大量の水はそのまま全て巨大な排水溝へと流れていく。地に足が着かなくなってきた。このままでは、俺は身体ごと排水溝へと入ってしまう! 入っても無事なのでは……。と、ひょっとしたらと思って。
透明な水なので排水溝の中を覗いてみる。
途端にぎょっとした。
やっぱり、まともじゃないじゃないか!!
巨大な排水溝の中の広い空間には多くの人の溺死体が浮遊していた。
みな、苦悶の表情で首の辺りを掻きむしって死んでいる。