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ぐちつぼが、捕まってしまった。
なんで?
今朝、こばさんから連絡を受けた。
「限界国総統、ぐちつぼが捕まった。……と、連絡が入りました」
こばさんは、嬉しそうにその報告をした。
窓の外の青空が、まるでこの出来事を祝っているかのような温かい光を室内に送った。
白い桜が、満開に咲いている。
僕はただ一人、総統室にいた。
手元には、こばさんから聞いた話題と同じものが書かれた新聞が。
なんで、ぐちつぼは捕まってしまったんだ。
なんで、こばさんはあんな嬉しそうに言ったんだ。
なんで、
なんで……俺の大切な人は、こうもすぐにいなくなってしまうのだろう。
「……ぐちつぼ……」
冷たく、ひんやりとした空気が肌に触れた。
「……ゴメン、……おれ、……こんなに早く公開されるなんて分からなくテ……、すぐ、すぐ、ミンナノゴカイ、解くカラ……」
「…………いいよ、みどりくん」
外の青空と比べ、牢獄の松明の光は冷たく、暖かさなど微塵も感じなかった。
ぐちつぼが捕まった理由。それは、
「運営国総統、らっだぁ及び主幹部、コンタミ、金豚きょー、レウクラウドを殺した、人殺しの罪」
判決は、総国、国王とら民が決めたらしい。
おかしい。
らっだぁ、コンタミはぐちつぼに自ら殺されに行き、さらに金豚きょーのことに関しては濡れ衣だ。レウクラウド……まだ、死因は発見されていないが、少なくともぐちつぼのせいではないことは明らかだ。
なのになぜ、彼は死刑囚にならなければいけないのか?
これは、完全なる濡れ衣……冤罪だ。
「……俺ガ、絶対…ゼッタイ無罪の証拠を揃えるカラ、……ダカラそんな顔……」
「……迷惑がかかっちゃうなら、俺は死ぬでもなんでも、なんでもやる。……それほどの罪を犯したんだ。……確かに、きょーさんとレウさんは殺ってない。、だけど、他二人を殺したのは事実だ。……なんなら、俺は死ぬほうがよっぽど……」
「チガウッ!!」
鉄の棒が大きな音を地下牢に響かせた。
赤い瞳は驚いたように大きく見開かれ、開かれた口から言葉が出てくることはなかった。
「……ご、ゴメン……、俺は、アンタガ死ねばいいダナンテ思わない。……俺ガ、ゼッタイこの刑を帳消しにしてヤル。……だから、まだ、そんなことイウナ。……ぐちつぼ。トモダチでしょ?」
外に出れば、暖かい日光が体を包んだ。
また、青空の下で笑う”あの人達”を見たい。
なぜ、こうなってしまったのだろう。
俺は、一人桜の下を歩き、自国へ戻った。
運営のために悲しむら民を見ていると、とても辛い。
みんなよりも、彼らと長く、ずっと一緒にいた俺はなぜ彼らの墓参りも、葬式にも出ずにこんなことをやっているのだろう。
粒の大きい雨が窓を何度も何度も叩く。低気圧で頭が痛い。
すると、総統室の扉がノックされた。
「……どーぞ」
こばさんかと思ったが、そこに現れたのはら民では見覚えのない顔だった。
「……ナンデここにいる?」
「…………これを。」
「まて、アンタ、…死んだはずデショ?」
そこには、戦争での死亡者、”エーミール”がいた。
おかしい。彼は確かあの戦争で死んだはずだ。彼が死んだせいで我々国のゾムさんがああなっているのではないのか?
情報と違う。
「……誰だよ。」
「…………少し、…助言をしたくて」
関西風の訛りが入った言葉。
「………ワイテ国の、シャークんさんが、あなたの助けになると思います。」
「……は?ドウイウ……」
言い切る前に、エーミールさんは部屋を出て行った。すぐに追いかけるも姿はもうなくなっていた。
まだ頭が混乱している。偏頭痛がさらに悪化した。
「……チッ、くそ…」
最近は嫌なことばかりだ。
総統室に戻り、ペンと白紙を取り出す。
我々国幹部、そしてあの戦争での死亡者となるエーミールさんが、なぜここに現れたのか。なぜ、あんなことを言って去ったのか。よくわからない。
ただ、大事なことなのは察する。
「……シャークん……か。」
ワイテ国は確か、死亡者はゼロだが主幹部含めほぼ大体が戦闘不能、そして生活にも支障が起こるほどの精神的負担で、今は残った幹部とナカムで国を回しているらしい。
と、聞いたが、……シャークんが俺の助けになる?
あり得ない。何せ、しにがみさんのハッキングを受けたシャークんは、今ワイテ国の病棟にて看病中だと聞いている。
「……行くかぁ…」
広い部屋に一つ、ため息混じりの声が静かに雨音にかき消された。
「来てくれてありがとうございます!」
眩しい笑顔。この青空によく似合う笑顔だと思った。
此処、ワイテ国の本拠地は最近できたと言わんばかりの清潔な場所だった。どこもかしこも新しい。
そして、今日「最近忙しいと思うから、少しお土産をあげたい」などという適当な嘘を言い、此処へ案内してもらったナカムと一緒に精神病棟へ訪れていた。
「よく状態確認しないであげちゃったケド、ミンナノ健康的なやつでダメだったりすることアル?」
「いやいや、全然!大丈夫ですよ!……それにしても、まさか我々国名物「ラッキー」が無償で食べられるなんて……ああ、すみません、嬉しくてヨダレが……」
キラキラとした眼差しでまたコチラを見てお礼を言う、普段と変わらない彼に少し驚いた。
てっきり、彼も精神的にやられてしまっているのではないかと思っていたからだ。だが、見ての通りすごく元気そうだった。
「これは後でみんなにあげようと思います!……それで、今日会いたいという人は……?」
「ああ、……シャークんなんだケド……」
「……シャークん?……てっきり情報幹部かと……」
少し表情が曇るも、ナカムはその病室へ案内してくれた。
扉の前で、一言。
「……シャークんは、……その、少し記憶障害的にも影響があって、……あんまりショックは受けないでください、……何かあったら呼んでくださいね!」
病室に入れば、綺麗な青空が覗く窓が目の前にはあった。そして、ベッド、棚、花瓶、花瓶には珍しい、シロツメクサが飾られている部屋が広がった。
白いベッドには一人、僕が会いに来たシャークンが座っていた。
先ほどのナカムの言葉も気になるが、話さなければ始まらない。そう思い、俺は予め用意されているベッドの脇の小さい椅子に腰掛けた。荷物は横に置いて。
「……調子どう?久しぶりに会うけど、覚えテル?」
青空を見つめる彼に、そう声をかける。
彼は此方を振り向き一言。
「……誰?」
ああ、やっぱりか。
やはり、記憶を失っているのか。それに、俺よりもはるかに多くの記憶がなくなっている様子……否、記憶障害だとは思うが、様子がおかしい。
「……初めまして、運営国主幹部、緑色デス。今日はこの間の戦争のことについて、少し聞きたいことがあって来たのですが」
「……あ、そうです……うん、…あ、……何?」
「……僕のこと、見えてル?」
「…………いい、…ちがう…………あ、そう」
会話が成り立たない。
どこか別にいる、僕じゃない人と会話をしているみたいだ。目線も合わない。
これじゃあ話を聞くどころか、会話すら難しい。
「……君の目には、今、何が見えてる?」
緑色の瞳の焦点が一つに止まった。
「……青。」
青?
「……赤、……人。……白。緑……」
色か。シャークンの能力はコンピューターに関するものだった気がする、確か、周りの監視カメラとの視界共有が可能、それに加え、音声を拾うことも可能だと、レウさんに聞いたことがある。
きっと、今のシャークンは近場の監視カメラの視覚を全て拾ってしまっているのだろう。
「……僕を見テ。僕だけを見るんだ。」
頬を抑え、僕と顔を見合う形に無理矢理する。
瞳はしばらく不安定な動きをしたものの、ようやく緑色の瞳に僕が映った。
「……緑……」
「ああ、そう。僕、緑色ダ。……シャークン、思い出して……」
「……」
その途端、シャークンは気を失ったようにベッドに倒れ込んだ。
無理に頭を使わせようとしてしまったか、今日はもう無理そうだ。
それにしても、シャークンがこれほどまでに弱っているとは知らなかった。原因はしにがみさんの能力によるものだと聞いているが、……人格復元はやはり難しいか。
その日はナカムにまた来ると言い、ワイテ国を出た。
そして、俺はその足で我々国に訪れた。
昨日のエーミールさん、……あれはどう言うことなのか、ここに来て何かわかるかは分からないが、グルッペンさんに話しといたほうがいいだろう。
……いっそのこと、俺とこの戦争について調べるように協力関係を持ち出すのもいいかもしれない。
「……取り敢えず、昨日のことは話さないとだな……」
「昨日のこと?」
視界の横からそう聞き返された。
驚き、其方に視線を向ければそこには……ぺいんとがいた。
「……なんで此処にいるノ?日常国は間反対でしょ?」
「帰ろうと思ったら緑くんを見つけてさ、話しかけよって近づいたらなんか独り言言ってたから……」
「……気にしなくてヨシ」
「気にするよ!??」
橙の髪が、夕日に当てられキラキラと光っている。黄色の瞳は希望を見据える濁りない瞳だった。
「……関係ない……デショ?……多分」
「……らっだぁ達のこと?」
図星をつかれる。
俺の表情変化に気づいたのか、ぺいんとさんは黙って俺の頭をガサツに撫でた。
「……ナニ」
「………何をやろうとしているのか分からないけど、……もし、助けが必要な事なら、俺を頼ってほしい。」
真剣な、黄色い瞳は真っ直ぐと俺を見た。
ぺいんと……協力を求めるべきか、はぐらかすべきか。
然し、戦力的にも、先日のことを含め、俺的には我々国に助けを求めたい。
もっとちゃんとした理由を言うなら、日常国は失うものが多すぎる。
もし、今回日常国に助けを求めたらきっと、彼らは全力を尽くし俺に協力するだろう。だが、それ故の人為的被害は避けたい。
ぺいんとさんに、こんな損失感を感じさせたくない。
「……そ。」
此処は、無視だ。
「……緑くん」
「何か気遣ってんなら、そんなの絶対気にしないで。……俺は、俺個人として!運営国の支えになりたいって言ってるんだ!」
「イイオ世話ダヨ」
俺は、ぺいんとさんに背を向け、我々国へと足を運んだ。
「……運営国の、緑色ダ。……主幹部に会わせろ。」
見張りは、しばらく何かを本部に伝える仕草をすると、俺を幹部棟へ案内した。
「……主幹部はどこにイル?」
「え、だ、誰だよ」
「運営国の総統代理、緑色ダ。主幹部の、できれば全員に会いたい。」
そう言えば、幹部はすぐに態度を改め主幹部の元へと案内した。
わかりやすく、ちょろい。こんな奴らが部下にいたら嫌だな。
「運営国総統代理様がお呼びです」
そう扉に声をかけ、俺を通した。
「……緑くん?どしたん」
鬱先生が一番に反応した。
「久しぶりやなー!どんぐらいぶりや?……てかなんで此処に来たん!」
「色々突っ込みたいところあるけど、まずは要件聞こか」
よかった。
「全員揃ってルネ」