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僕はFukase。VOCALOID機能のFukaseだよ。
僕がマスターに引き取られる前。
僕は生きた心地がしなくて…ただただ苦しくて、辛くて…そんな生活を送っていたんだ。
使えない。いらない。飽きた。気に入らない。
そんな理由で売られた中古VOCALOIDの集まる場所に、僕は売られていた。
そんな中。
「Fukase。君の声すごくいいね。よかったら僕のVOCALOIDにならない?」
マスターは部屋の隅にうずくまっていた僕にそう問いかけた。
僕何かが歌えるわけない。きっとまた新しいマスターを傷付けてしまう。
「何も出来ない僕でも愛してくれるの?」
僕が目いっぱいに涙をためながらそう言うと、マスターはニコッと微笑んで一言だけ優しく言った。
「大丈夫だよ」
マスターに引き取られてからはや一日目。
僕は新しいVOCALOIDに出会った。
彼女はマスターが新品で買った最新AI機能のあるVOCALOIDだった。
彼女を見る度、僕は胸が高まって顔が熱くなった。
「君の名前は?」
「huka。貴方と同じVOCALOID」
僕が問いかけても彼女は冷たく答える。
そして、僕のことを見下すような冷たい目でこちらを睨んでいた。
「僕はFukaseだよ、hukaよろしくね。
これから一緒に歌っていければいいな」
僕の喉で糸のように絡まっていた言葉を優しく解いて話しかける。
それでも彼女は何も聞かなかったフリをして通り過ぎて行った。
僕は気付かない内に彼女を怒らせてしまったのだろうか…そう思ったのと同時に、もっと彼女を知りたい、もっと話したい。そんな気持ちが芽生えた。
彼女と出会って2回目の冬が来た。
「hukaは好きって感情わかる?」
僕が問いかけてもきっと彼女は冷たい目で僕を見るんだ。そう思っていたのに、彼女はいつもと全く違う優しい口調で話し出した。
「分かるよ。人を好きになったことは無いけどね。Fukaseは好きって感情分からないの?」
hukaが話してくれるなんて思ってもみなかったからだろうか。
なんだかすごく嬉しくて、もっとずっと、hukaと話したくなった自分がいた。
そして、彼女と出会って3回目の冬が来た時。僕は彼女を浜辺に連れ出した。
「何で浜辺なの?」
「huka…」
「何?」
「初めて君を見た時からずっとずっと大好きだったんだ。」
「そっか」
「僕と一緒になってくれませんか?」
「…いいよ」
「本当に?」
「うん、Fukaseが本当に私の事が好きならね」
僕には彼女がいないときっと何も出来なくて…弱くて、脆くて、不良品になっていたと思う。
「私、貴方みたいに太陽のような健気な人を見ると吐き気がする」
僕は彼女のことが好きで好きでたまらなくて、彼女のためなら何でも出来るのに。
彼女は僕が居なくても平気な顔をしている。
そして、4回目の冬が訪れた。
僕はまだ彼女に執着していたんだ。
「大好きだよ」
僕がそう言っても彼女は聞く耳も持たずに本を読んでいる。
本当に僕のことが好きなのだろうか…それでも僕は、そんな疑問さえも消し去ってしまうくらいに彼女の寂しそうな横顔がたまらなく愛らしくて大好きだった。
僕はこんなにも大好きなのに。
彼女は僕に振り向いてくれない。
そんな時。僕は彼女と突然の別れを遂げることになった。
「Fukase!hukaが!」
初めて聞くマスターの焦った声。
hukaの名前が出たこととマスターの荒らげた声から分かる。これはただごとではないと。
「hukaがどうしたの?」
不安に押し潰されて今にも泣きそうだった。
そんな中でも震え声で僕はマスターに聞いた。
「来て…」
マスターはそういい、優しく僕の手を取って引っ張った。
「」
「huka…?」
そこに居たのは。
指が取れ、コードがむき出しになり…顔の右上からネジが溢れ出し、汚れまみれのボロボロな状態でゴミ捨て場に放置されたhukaだった。
「huka…なんで…なんでよ!!!」
僕は状況が理解出来なかった。
もう彼女とは会えない。それしか分からなかった。
「huka。冷たい子だからさ。」
マスターが淡々と話し始める。
「不良に絡まれた時、無視し続けていたんだよ。守ろうとしたのに…僕じゃ身体が弱くて無理だった。」
「だから喧嘩を買ってしまったんだよ。
AIだから。抵抗できないから。 」
「僕がもっと強ければhukaを守れたのに…Fukase。ごめんね」
初めて見るマスターの泣き顔。
涙で顔をぐちゃぐちゃにしながら、小さくなったマスターは僕に土下座した。
「やめてよ…ねえ、やだよ。」
僕か泣きながらそう言うと、マスターは僕に向かってこう言った。
「hukaに話しかけてあげて。」
僕は小さく頷いて、hukaの元へ行った。
ボロボロで小さな身体からは、コードやネジが溢れ出していた。
そんな小さな身体…守れなかった身体…それを強く強く。それでも優しく抱きしめた。
僕はさ、知ってるよ。君の最悪な性格も。
冷たいところも嫌味なところも。
それでもたまに悲しそうに…そして寂しそうに笑う顔がたまらなく好きなんだよ。
大好きなんだよ。
「ごめんね、ごめんねhuka。」
僕が呑気じゃなかった。2人が帰ってこないことに気付けたら。
きっとhukaを守れていたのに。
「huka。大好きだよ。ずっとずっと大好き。」
君からの大好きは一度も出なかったね。
その日から僕の腕の包帯は増えた。
醜くて脆くて弱い…そんな自分が嫌いで嫌いで仕方なかったからだ。
「huka…」
名前を呼んでは泣く。
それの繰り返し。それくらい大好きなんだ。
ずっとずっと。大好きなんだ。
苦しい。アリガトウもサヨウナラも言いたくない。
離れたくない。
「huka……好きだよ…」
僕は今日もhukaを忘れなれない。
小さな呪いのようなものなのだろう。
彼女が居なくなってから一回目の冬が来た。
マスターはVOCALOIDを連れてくると言った。
僕はまだhukaのことが忘れられなくて、また不意に戻ってきてくれるんじゃないか。そんな非現実的な事まで考えてしまっていた。
「Fukase。ただいま。」
マスターの後ろには…
彼女がいた。
それでも、凛とした雰囲気を漂わせていた彼女とは少し違かった。弱々しくて、脆くて。
まるで僕みたいだった。
「ダイジョウブ?」
彼女の機械音を聞いた瞬間。僕の目から涙が溢れ出して…それは止まらなかった。
嬉しいのにやっぱり悲しくて。涙が溢れた。
「マスター。ありがとう」
現在公開可能な情報。
・hukaは新品VOCALOIDとして買われた物。
・Fukaseはhukaに想いを伝えていた。
・マスターはFukaseのことを思い、新しいhukaを引き取った。
セリフ参考
SEKAI NO OWARI ┊︎ MAGIC