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氷雨薇天🎀
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瑞浪(みずは)
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第二章 届かない想い 前編
――リュカ視点――
婚約が決まった日から何日が過ぎただろ
父上から伝えられたあとも心は追いつかなかった
毎日同じように
朝を迎え、食事をして、勉強をして
身体はいつも通り動いているのに
心だけが取り残されたままだった
何度も自分に言い聞かせる
王族として生まれた以上
国のために生きるのは当然のこと
父上も母上も
国民の未来を考えてこの縁談を決めた
誰も間違っていない
だからこそ、苦しかった
「リュカ様」
ノックをして侍女が部屋に入ってきた
「本日は婚約相手であるローゼンフェルト王国第一王子、アレクシス殿下の肖像画が届いております」
リュカ「……そう」
差し出された額縁に視線を向ける
蒼い瞳が印象的な人
優しそうな表情を浮かべ、どこか気品がある
きっと立派な王子なのだろう
俺にはもったいないくらいの人かもしれない
それでも胸は動かなかった
見つめたい顔は別にある
リュカ「ありがとう」
肖像画を受け取り机の上に置く
侍女が部屋を出ると椅子に腰を下ろした
視線は肖像画へ向いているのに
思い浮かぶのはエリアスばかり
今、何をしているのかな
訓練だろうか
それとも、俺の婚約を知っただろうか
知っていたとしても
きっと笑って祝福してくれる
エリアスはそういう人だから
……だから、余計につらい
リュカ「(エリアス)」
心の中で名前を呼ぶ
もちろん返事はない
それでも呼ばずにはいられなかった
昼過ぎ、廊下を歩いていると
前方から見慣れた姿が近づいてきた
エリアスだった
目が合って胸が高鳴る
いつもなら駆け寄っていた
他愛ない話をして、一緒に笑っていた
でも今日は足が動かない
エリアスも立ち止まって俺を見つめていた
エリアス「…元気そうだな」
先に口を開いたのはエリアスだった
笑っている
いつもと同じように
けれど、その笑顔がどこかぎこちなく見えた
リュカ「うん」
俺はそれしか言えなかった
こんなに気まずい空気になるなんて
今まで一度もなかった
エリアス「婚約、おめでとう」
胸が締めつけられる
やっぱり知っていた
リュカ「ありがと」
その言葉を返した自分が嫌になった
本当は違う
ありがとうなんて言いたくなかった
エリアス「街に行く約束、難しくなったな」
リュカ「…ごめん」
謝ることしかできない
約束を守れなかったのは俺なのに
エリアスは首を横に振った
エリアス「謝る必要はない。国のためなんだから」
優しい声
いつもなら救われるはずなのにものすごく苦しくなる
どうしてそんなふうに笑えるの
どうして何も言わないの
一度でいい
引き止めてほしかった
「リュカ様」
遠くから侍女が俺を呼ぶ声が聞こえた
リュカ「そろそろ行くね」
歩き出そうとしたら
不意にエリアスが俺の名前を呼ぶ
エリアス「リュカ」
エリアスは何かを言いかけて口を閉じた
蒼い瞳が揺れている
何を伝えようとしたのか聞きたかった
……でも。
エリアス「…幸せになれ」
その一言だけだった
笑顔を作ろうとしているのにどこか苦しそうな表情
胸の奥で何かが音を立てて崩れた
リュカ「……うん」
それ以上は何も言えなかった
背を向けて歩き出す
振り返ったら泣いてしまう気がしたから
エリアスの「幸せになれ」という言葉が何度も頭の中で響く
あの声は、祝福なんかじゃなかった
まるで
大切なものを自分の手で手放そうとしている人の声だった
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コメント
1件
めっちゃ切なかった……「ありがとう」って言いたくなかったっていうリュカの心の声が刺さりました。エリアスの「幸せになれ」も、祝福じゃなくて、自分で手放そうとするみたいな響きで苦しかった。お互いに言いたいこと言えなくてすれ違うの、読んでて胸がギュッとなりました。続きが気になる……!