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# 『6番の約束』
秋が過ぎた。
冬が来た。
そして春。
季節は何度も巡った。
はるきは約束どおり、
少しずつ前を向いていた。
最初は一歩。
次は二歩。
転ぶ日もあった。
手紙を読み返して、
一日中泣いた日もある。
財布を開いて、
切れたミサンガを眺めるだけの日もあった。
それでも。
立ち止まったままではいなかった。
卒業式。
制服の胸ポケットには、
二通の手紙。
財布には、
色あせたミサンガ。
「卒業したよ。」
空を見上げて、
小さく報告する。
風が吹く。
桜の花びらが一枚、
肩に落ちた。
「見てるんだろ。」
少しだけ笑った。
月日は流れた。
はるきは大人になった。
仕事をして、
笑って、
失敗して、
また笑って。
つらいこともあった。
逃げたくなる日もあった。
そんな日は決まって、
財布を開く。
二通の手紙。
切れたミサンガ。
「応援団長。」
そう呟くと、
不思議と前を向けた。
ある休日。
子どもたちにサッカーを教えていた。
「コーチ!」
「6番ください!」
はるきは笑う。
「6番は人気だな。」
少年が聞く。
「コーチ、なんでそんなに6番好きなの?」
少しだけ空を見た。
「昔さ。」
「世界一の応援団長がいたんだ。」
それだけ言って笑った。
子どもたちは意味が分からず、
一緒に笑っていた。
その笑顔を見ながら、
はるきは思う。
“約束、ちゃんと守れてるかな。”
そのとき。
春の風が吹いた。
まるで、
「うん。」
と返事をするように。
何十年もの月日が流れた。
髪には白いものが増えた。
足も、
昔ほど速くは動かない。
ある日。
病院のベッド。
窓から夕日が差し込んでいた。
はるきは静かに財布を開く。
色あせたミサンガ。
少し黄ばんだ二通の手紙。
優しく撫でる。
「ずっと持ってたぞ。」
笑う。
「約束守った。」
「ちゃんと幸せだった。」
目を閉じる。
苦しくない。
怖くもない。
ただ。
少しだけ、
眠くなった。
「もう待たせたな。」
静かに息を吐く。
窓の外で、
風が揺れた。
目を開ける。
柔らかい光。
青い空。
風が心地いい。
遠くから、
聞き慣れた声がした。
「遅い。」
振り向く。
そこには、
制服姿の彼女が立っていた。
付き合い始めた頃と、
何一つ変わらない笑顔。
「……。」
言葉が出ない。
彼女は少しふくれた顔をする。
「何年待たせるの。」
その一言で、
はるきは笑った。
笑いながら、
涙がこぼれる。
「ごめん。」
「約束守ってた。」
彼女は頷く。
「知ってる。」
「ずっと見てた。」
その言葉に、
はるきはポケットへ手を入れる。
何も入っていない。
少し困った顔をすると、
彼女が笑う。
「探してるの?」
「ミサンガ。」
彼女は右手を差し出した。
そこには、
新品みたいにきれいな、
赤と青のミサンガ。
「返しに来た。」
「役目、終わったから。」
はるきは首を振る。
「いや。」
「今度は一緒につけよう。」
彼女は目を丸くする。
そして、
声を出して笑った。
「そうだね。」
今度は、
彼女が結ぶ番だった。
「手、貸して。」
昔と同じ言葉。
はるきは黙って右手を差し出す。
彼女は、
ゆっくり結び始める。
「切れるまで外しちゃダメだからね。」
はるきは笑う。
「もし切れたら?」
彼女も笑う。
「今度は切れないよ。」
「なんで?」
彼女は、
結び終えたミサンガを優しく撫でる。
「もう、離れないから。」
その瞬間。
はるきは彼女を抱きしめた。
何十年も言えなかった言葉を、
やっと伝える。
「会いたかった。」
彼女も静かに抱き返す。
「私も。」
涙はもう出なかった。
悲しい別れは、
あの日で終わったから。
二人は並んで歩き出す。
春の風が吹く。
桜が舞う。
どこまでも続く道を、
今度は同じ速さで。
二度と離れないように。
人は、
大切な人を忘れることで前を向くんじゃない。
思い出を抱きしめたまま、
今日を生きることで前を向く。
約束は、
誰かを縛るものじゃない。
誰かを支え続けるものだ。
あの日、
一人の女の子が結んだ赤と青のミサンガは、
願いを叶えるためではなく、
一人の少年が、
「幸せだった」と言える人生を歩くための約束だった。
そしてその約束は、
ちゃんと守られた。
『6番の約束』 完
#恋愛
愛
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赤羽結乃愛
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コメント
1件
え〜〜〜〜読んでしまった……切なくて温かくて、涙がとまらなかったよ😢💧 「一緒につけよう」って言えるまで、ちゃんと生きてきたはるきの人生、本当に尊い。最後の再会シーン、桜と風が美しすぎて何度も読み返しちゃった…。約束って言葉の重み、愛さんの書くものはいつも心に残る。完結おめでとうございます。本当にいい作品をありがとうございました🥀🌙🤍