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王宮の夜会が近づき、マダム・オブレからドレスが届いた。トルソーに飾られたハンクからの贈り物。スカート部分は黒色の生地の上に空色の絹糸で作ったレースを全体に纏わせている。この大きさのレースを滑りのよい絹糸で作るのは時間も人も使っただろう。空色から覗く黒も絹を染色して作らせたようだ。黒から紺へ明るい紺を濃淡で色を変えて見せる。高級な絹をここまで贅沢に使って、お尻部分には生地を波打つようにしわを寄せ、膨らみを持たせて腰を細く見せる流行りの形になっている。上部も絹の光沢を活かし輝くような白。遠目では気づけない、白い絹糸で胸周りを刺繍して蔦模様が描かれている。全体的に派手ではないけれど手間とお金がかかっているのがわかる。どれだけマダム・オブレを使ったのかしら。これだけ生地を使っても絹は軽くて私も楽だわ。ジュノとダントルと三人で鑑賞している。
「お嬢、これはいくらぐらいするんです?」
答えられない。貴方が何十年働いても買えないなんて。
「わからないわ。値段を聞いていないの」
本当に知らない。かなり高額だとわかる程度。ハンクの瞳の色と髪の色。カイランの髪色も入れてある、これなら意味合いもおかしくない。私の空色でレースを上から被せてある。私のことを考えながら注文してくれたとわかる。嬉しいわ、宝物ね。お礼を言いたい。人前ではできないから、会いに来てくれると嬉しい。夜会まで日はないから忙しいかもしれない。
私がドレスに見惚れていると扉が叩かれる。カイランが届いたドレスを見に来たようだ。
「これはすごいね。マダム・オブレの渾身の出来だよ。君の色と僕の色が入って絹でレースか、美しいね」
私は頷く。本当に美しいのだから。
「素晴らしい仕事をしてくれたわ。想像以上よ。夜会が楽しみだわ」
カイランとの話し合いの後、よそよそしくされると思っていたが、予想を裏切りあの日の夕食もいつもと変わらず現れ、私と会話をしていた。閨を拒否したことに後悔はないが態度を変えられては困ると心配していたけど、カイランは私が思っているより冷静かもしれない。無意識に下腹に手をあてていた。新しい悩みができてしまった。カイランは愚かだけれど、今は望んで傷付けたいわけではない。でもいつかは話さなければならない。それをいつにするのか。皆で鑑賞していたら、開けられていた扉を叩く音が聞こえ振り向くとソーマとハロルドが立っていた。二人とも手には箱を持ちこちらに近づいてくる。
「キャスリン様、本日ドレスが届くとお聞きしまして、旦那様よりこちらをお使いになるよう言われております」
ソーマは箱を開け中の物を見せてくれる。中にはブラックダイヤモンドを使った首飾りが輝いている。
「こちらはゾルダークに代々受け継がれている宝飾品です。そしてこちらは旦那様より婚姻祝いにと耳飾りをキャスリン様に贈られるそうです」
ハロルドが近づき箱を開ける。中にはブラックダイヤモンドでできた耳飾り。首飾りと同じ意匠で作られていた。ハンクが私のために首飾りと対の耳飾りを作ってくれた。嬉しくて涙が膜を張るが我慢する。
「ありがとう。本当に嬉しいわ。本当に素敵、素晴らしい宝石よ。閣下にお礼を伝えてくれる?お願いね」
直接言いたい。言える時がくるといい。宝石たちは当日まで宝物庫に保管する。失くしたら一大事よ。
「父上はいつの間にこんなものを用意したんだ?かなり手間がかかったろうに」
それにはソーマが答える。
「宝石自体はありましたので加工するのみだったのですよ。王宮の夜会にゾルダークの夫人が参加するのは久しぶりです。各方面に披露目の意味もあります」
カイランは頷いている。
「王太子の婚約者の初御披露目もあるから賑わうな」
先日、シャルマイノス王国王太子と隣国チェスター王国マイラ第二王女の婚約が公布された。この婚姻により両国の同盟、不可侵条約、関税緩和が成され、王家の威信はアンダル様の失態以前に戻りつつある。陛下が手腕を発揮したようだ。婚姻式には陛下が城下に酒を配ると宣言なされ、国民も盛り上がり、当日城下はお祭りのような騒ぎになるだろう。
「きっとキャスリンが一番美しいよ。早くこのドレスを着た君とダンスを踊りたいな」
カイランは笑顔で話している。婚姻してから一度もダンスを踊ってないのよね。
「靴はどうしたんだい?」
このドレスが届いた時、靴は共に来なかった。製作が遅れてしまったようだ。
「また後で届けてくれるの。当日まで楽しみにしていてね」
私が微笑みながら告げるとカイランは頷く。楽しみにしているよ、と言って部屋を出ていった。私はソーマに向かい合いハンクにお礼を伝えて、ともう一度お願いした。ソーマはかしこまりました、と言い宝石たちを宝物庫へ持っていった。
「お嬢。当日の警備は強化されそうですね。お嬢を誘拐すれば遊んで暮らせる」
ダントルの言い方に笑ってしまった。本当にその通りだった。それだけの価値を身に着け夜会に赴くのは初めてで今から少し緊張してしまう。
夕食後の紅茶の間、カイランからスノー男爵夫妻が王宮の夜会に参加すると聞いた。王太子の婚約を弟にも見せてあげたいと陛下が呼び寄せたようだ。甘いと言われるかもしれないが、この婚約はシャルマイノスにとっても貴族にとっても有益が多い。貴族たちも目を瞑るだろう。騒ぎを起こしたら会場から問答無用で出されると注意もされたようだ。
「家族と久しぶりの再会ですもの。喜んでいるわね」
男爵と王族に分かれ簡単には会えなくなった家族に会える機会は少ないだろう。今回が最後になる可能性もあるのだから。穏やかに過ごしてくれたらいい。当日は人が多くて私たちには会うこともないだろう。入場する順番が遠すぎる。
「会うことはないだろうね。そんな暇も僕らにはないよ。挨拶の終わってない家もあるし、辺境伯も全て参加だよ」
ハインスの夜会より挨拶回りをしなければならない。終わる頃には疲労が襲ってくるわね。カイランと食堂を退室し共に部屋へ向かう。以前より夫婦のように過ごしている。自室に戻りドレスを鑑賞しながら隣で控えるジュノに告げる。
「月の物が少し遅れてるの」
ジュノもわかっているはず。でもまだ確信には早い。下腹を撫でる。ハンクの子がいるのかもしれないがまだ言わないほうがいい。夜会が終わったらライアン様に往診をお願いしてみる。ペラルゴニウムをそのまま湯に浮かべゆっくり浸かる。爽やかな香りが満ちる。体を温め冷やさないよう手早くジュノが私を拭いてくれる。ジュノは丁寧に髪を拭き水気を取る。ここで風邪など引いては大変。体を大事にしなくてはならない。少し厚い掛け布にしてもらう。ペラルゴニウムの香りに包まれ眠りに落ちる。
届いたドレスを見に来たついでにこれの顔を見に寝室に入ったが、よく眠っている。ゾルダーク特産の絹を惜しげもなく使えと命じて、新たにブラックダイヤモンドも手に入れ作らせた耳飾り。靴には小さなブラックダイヤモンドを散りばめ輝きを放っている。後は髪飾りをいつ渡すか、燭台を寝台脇に置き、起こさないよう床に膝をつき小さな頭を撫でる。爽やかな香りが漂う気に入りの髪を指に巻き付ける。赤くなった唇に自分の口を合わせ、舌を入れたくなるのを我慢し離れる。空色の瞳が薄く開き俺を捉えていた。
「閣下」
「ああ、眠れ」
「素敵なドレスをありがとうございます」
とても気に入っていたとソーマから聞いている。頭を撫でもう一度口を合わせる。離れようとすると夜着を掴まれ動けなくなる。
「もう遅い眠れ」
それでも手を離さない。不安なんだろう、月の物が遅れている。期待して宿っていなければ、またこれが傷付く。掛け布の上から温めるように下腹を撫でてやると空色の瞳を見開き涙を流す。それに吸い付き舐めとる。
「泣くな」
止まらない涙を舐め続ける。こちらに向けて腕を広げる。掛け布に潜り込み抱き締めて腕の中に閉じ込め背中を擦る。顔を上げ俺を見つめる。
「気づいてらしたの?」
ああ、と答える。ライアンから次の月の物の日程は聞いていた。だがまだ数日の遅れ、誤差の範囲内。それでも用心に越したことはない。大事にせねばならん。
「無理をするなよ」
宿らずともまた注ぐ。傷付いても俺が慰めればいい。赤い口が開き欲しがっている。口を合わせ舌を入れてやると俺の舌を懸命に吸っている。頭を撫でながら口内を上顎から歯列まで執拗に舐め回して満足するまで口を合わせる。頂が夜着の中で固くなっているだろうが当分触れん。陰茎が兆しはじめるが放っておく。満足したのか口を離し潤んだ空色が俺を見つめる。
「娼館に行かないでください」
頭を撫でる手が止まる。兆し出したのが知られていたようだ。腰を押し付け陰茎を小さな体に擦り付ける。
「お前にしか硬くならん」
本当かと潤んだ瞳が聞いている。
「お前にしか注がない」
だから不安になる必要はないと愛しい娘を抱きしめ口を合わせる。眠るまで側にいて欲しいと言うから抱き込み目を瞑る。隣でソーマが待ってるはずだが、まあいいだろう。