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いろはの退院から数日後。 元貴は、混斗と涼架を伴って学校へ出向い た。
目の前に座るのは、校長と教頭、そして学 年主任。
しかし、彼らの口から出たのは信じられ ない言葉だった。
「…… 正直なところ、生徒間のトラブル
に、私たちがどこまで介入すべきか…..」 「“いろはさん側にも”何らかの誤解があっ たのでは」
「もちろん、傷ついたことは残念ですが…… 当校の対応としてはすでに十分かと….」
元貴の拳が、テーブルの下で震えた。
混斗は椅子から立ち上がり、机を叩いた。
「誤解じゃねぇだろ! こいつら、いろはが 殴られて血まみれになったの見たんだ ぞ!?」
「人ひとり、殺されかけてんだぞ!? “トラブ ル”って….. 何だよそれ…….!」
涼架は、冷たく笑った。
「“十分な対応”? あの日、あのままだった ら…… いろはは死んでましたけど」
「それでも、あなたたちは“報告書”と“謝罪 文”だけで済ませる気なんですね」
校長たちは顔を曇らせたが、決して謝らな かった。
最後まで、“学校の名誉”を守ることしか考 えていなかった。
その帰り道、元貴は言った。
「….. もう、あんなところに戻すわけにはい かない」
涼架も小さく頷いた。
「守れなかった責任は、俺たちにある。で もーー次は、絶対に守る」
況斗が、まっすぐ前を見ながら言った。
「転校させよう。いろはにとって、ちゃん と“人として扱ってくれる場所に」
いろはにその話をした夜。 彼女はしばらく何も言わず、静かに窓の外 を見つめていた。
「…… 逃げる、ってことになる?」
その声は、小さくて、壊れそうだった。
元貴は、優しく答えた。
「逃げるんじゃない。**“離れる”んだよ。 毒のある場所から」
「逃げるのは、弱さじゃない。“守る強さ” だよ」
いろはの目から、涙が一滴こぼれた。
「じゃあ….. 少しだけ、怖くないかも」 そう言って、初めて小さく笑った。
数週間後。
いろはは、新しい制服に袖を通した。 兄たちは、誰よりも丁寧にリボンを結び、 靴を揃えてくれた。
新しい学校。新しい教室。 不安は、たしかにまだ胸にあった。 でも–
「ここから、やり直せるかもしれない」 そう思えるだけの強さが、いろはの中には 残っていた。
背中を押してくれたのは、兄たちだった。