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君に渡したい、好きの形を。

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君に渡したい、好きの形を。

2 - # 0229 . 中編

♥

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2024年02月29日

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赤 × 桃 : 《 四年に一度の日 》










俺は一生、幸せにしたい。





二月 二十九日 10:05 葵 桃



今日は四年に一度の二月二十九日。


それだけでも貴重な日なのに

今日は特別だ。


なんせ、指輪を買いに来たから。





二月 二十八日 19:48 藤田 青



いつも通りご飯食べて

お風呂が湧くのを待ってたら

幼馴染の親友からメールが来たから覗いたら


『 明日、指輪買うから着いてきて欲しい 』


って一言。



青『 指輪買うってなに? 』


桃『 そんままの意味 』


青『 何言ってんの 』



正直、理解が出来てなかった。


というか多分だけど、

急にあんなこと言われたら

誰でも理解が追いつかないと思う。


なんの前置きも前触れもなく

そんな連絡が来たんだから。



青『 ごめん、電話していい? 』


桃『 おけおけ 』



電話の了承が出たから、電話をかけてみる。



青「 もしもし? 」


桃『 もしもし、聞こえる? 』


青「 うん、聞こえてるよ 」



桃くんの電話の最初は必ず

「 聞こえる? 」だから、

本人の身に何かあったわけじゃなさそう。


じゃあ、なんで指輪なんか。



青「 で、指輪買うってなに? 」

「 なんの指輪? 」



かなり念入りに訊く。



桃『 婚約指輪 』

『 赤と俺の 』



赤、って確か桃くんの彼氏?さんだったかな。


前に見かけたけど小柄で明るくて

可愛かった記憶がある。


婚約するまでの流れになってたんだ。



青「 なるほどね 」

「 うん、いいよ 」



少しだけ笑った。


子供の頃は、よく友達を泣かせて

問題になった人なのに

今は人を幸せにしようとしているのか。


だいぶ成長したんだなって思える。


まぁ桃くんも もうそろそろ二十五歳。


僕が思ってるほど子供のままじゃない。



桃『 なんだよ今の笑い 』



桃くんも笑ってる。



青「 いや〜、成長したなぁって 」



また笑う。


この後は少し近況報告して電話を切った。


もう桃くんは、

僕の手の届かない場所にいるんだね。


その事実が、少しだけ、怖かった。


何か悪さしないように、

僕がずっと手を繋いでいた桃くんなんて

もう何処にも存在してなくて

人に遠慮が出来て綺麗事が言えるようになって

人を幸せにしようとしてるんだ。


それを応援しないで、何が親友だよ。


本当に意地っ張りでワガママな僕は

何も変わってないじゃんか。





二月 二十九日 09:10 藤田 青



昨日の夜は、よく眠れなかった気がする。


心做しか眠い。


出かけようの服を着て、バッグを準備して

帽子かぶってマスクつけて

あとは歯磨きとか色々したら、

出発予定時刻になっていた。


少し急ぎ足で廊下を歩いて、鍵を取って

お気に入りの靴を履いて外に出て鍵を閉める。



青「 やば、遅れそう 」



待ち合わせ場所は駅のホーム。


そして待ち合わせ時刻まで十分程度。


ここから駅のホームまで約十五分。


まぁつまり、全力疾走をしなければならない。



青「 計画性って大切だな 」





二月 二十九日 09:35 藤田 青



ようやく駅のホームに着いたけど

やっぱり歳と共に体力は落ちているようで

駅まで全力疾走するつもりが

少し走っただけで息切れを起こして

「 だぁ〜っ!! 」ってなってしまった。


結果、今大変激しい息切れを起こしながら

辺りを見渡して桃くんを探す。



桃「 あ、青〜っ!! 」



声が聞こえる方を見ると

桃色の髪で黒いマスクをしている人がいた。


そして羽織っているセーターは明らかに

赤にプレゼントしてもらった、と

自慢されたセーターだった。



桃「 遅せぇよバカ 」



軽めにチョップされた。


けど昔に戻ったみたいで、

なんか面白かった。



青「 ごめんごめん、準備遅れちゃって 」

「 なんか奢るよ 」



少し笑いながら言う。


こういう時、桃くんが僕に頼むものは

いちごフラペチーノだったけど、

今はどうなのかな。



桃「 …いちごフラペチーノ頼むわ 」



変わってないことに

少しだけ安堵してしまった。


赤さんに染っていないんだ、って。


あれ、僕って本当に最低な人間じゃん。


僕の心はとっくに諦めきってると思ってたのに

まだ諦めてなかったんだ。


まぁ、桃くんが罪なだけだよね。


最近の言葉で言うなら、多分スパダリだよ。


無性に腹たってきた。



桃「 青?何ボーッとしてんだよ 」

「 早く行かねぇと混むぞ 」



桃くんは僕の腕を掴んで

少し引っ張りながら歩く。


その様はまるで、

学生時代の逆転した光景で昔を思い出す。


と、同時に

歳を重ねてしまったことに対して

少し悲しくもなった。



青「 …桃くん、 」


桃「 ん?んだよ 」



僕は桃くんに聞こえない程度に

口にしたつもりだったけど

地獄耳の彼には聞こえていたらしい。


少し恥ずかしくなったけど、

抑え続けていたこの気持ちに

終止符もつけたかった。


だから、諦めきっ心で告白したんだ。



青「 好きだったんだよ、ずっと 」



彼は困った表情を見せると思ったのに

見せてきたのは満面の笑みで、

僕は少し戸惑った。



桃「 俺の初恋は青だったんだぜ 」



彼はそう言いながらニカッと笑った。


彼を困らせると思っていたのに、

僕の方が戸惑っている。


僕が、桃くんの初恋?



桃「 そんとき、お前に好きな人いるって 」

「 誰かから聞いたから諦めたんだ 」


「 まさか、俺だったなんてな 」



眉を八の字に曲げて笑う彼は、

とても大人らしく、同時に子供っぽく見えた。



桃「 けど、ごめん 」

「 今の俺には赤しかいない 」



桃くんは頭を下げて謝ってきた。


頭を下げて欲しかったんじゃないし

僕の都合で勝手に告白して振られただけ。


諦めきって告白したけど、

やっぱ少しだけ傷つくんだなって思った。



青「 …僕は自分の気持ちに 」

「 終止符を打ちたかっただけなんだ 」


「 僕の勝手な都合で、断らせてごめん 」



僕も頭を下げて謝った。


早くこの気持ちが、どこかに行けば

僕は完全に諦められるんだ。


そんな心の方が良いのに、

ずっと一緒にいて悲しんできた

この気持ちを手放すのは少し寂しくもあった。


けど、『 この心が無ければ 』なんて

思わなかった。


色んな悲しみや、嫌悪、嫉妬心を抱けたから。


これも人生の経験の一つって、

そう前向きな気持ちで、この心は手放したい。





二月 二十九日 11:08 藤田 青



あんなこと話したから、少しだけ気まずい。


けど桃くんはそんなことは無いらしい。


そんな気持ちよりも、赤さんに渡す指輪を

選ぶのに気持ち持ってかれちゃってるみたい。



桃「 青、この指輪とこの指輪、 」

「 どっちがいいと思う? 」



指輪って、

似合う似合わないってないとは思うけど

なるべくその人に合う色がいいと思うんだけど


でも僕は、赤さんのことよく知らないから

選びようがない。


でも確か、赤い髪…だった気がするから、



青「 僕は、この桃色の指輪がいいと思う 」

「 桃くんは薄紅色の指輪 」


桃「 赤は俺の色つけて、俺は赤の色か 」

「 いいかも、 」



桃くんの頬が緩む。


なんとも可愛い様である。





二月 二十九日 13:41 葵 桃



指輪を買って、

今は青と一緒に喫茶店にいる。


青が「 休憩してほかのお店 見たい 」

って言い出したから、今度は俺が付き合う。


指輪は色々案を出してもらったけど

かなり時間かかって決めたしな。


結局、二時間くらいかかった。


けどそのくらい愛が詰まった指輪だ。



青「 指輪、どのタイミングで渡すの? 」

「 まだ未定? 」


桃「 ホワイトデーで渡す 」

「 お返しも作んなきゃだしな 」



自然と笑みがこぼれる。


それくらい幸せなんだと思うな。



青「 桃くん、料理は得意だけど 」

「 お菓子作り苦手じゃなかった? 」



少しだけ青が

俺の事を煽るように嘲笑ってきた。


これが公共の場じゃなかったら

今頃、軽く絞め技かましてた。


こういうところは本当に

『 あー青だな 』って感じる。



桃「 お返し作りは黄に手伝ってもらうから 」

「 多分、大丈夫 」


青「 すっごい不安そうな顔だけど 」


桃「 お菓子は分量が命じゃん? 」

「 分量測るの苦手すぎてムズい 」


青「 え、分量測るの苦手だから 」

「 お菓子作りも苦手ってこと? 」


桃「 …簡単に言ってしまえばな 」


青「 分量測るだけなら、僕でもできるよ 」

「 僕が手伝おうか? 」



青が俺のことを

かなり心配してそうな目で見てきた。


プラスで少し笑ってる。ムカつくな。


けど確かに黄は仕事の関係で

あんまり予定つかないことも多いしなぁ。


黄が無理な時は青に頼むしかねぇ。



桃「 …黄が無理って言ったら… 」

「 お願いしまず… 」



声にまで嫌な気持ちが乗った。


青は変なところで器用だから、

こういう時にマウント取ってくることがある。


毎回では無いけど、月一くらいで。



青「 いいよ 」



今のはマウントとかの笑いじゃなかった。


本当に俺の事を助けてくれる時の

俺を子供みたいに見てる時の笑い方。


青はまだ、

俺のことを子供として見る時がある。


俺だってもう立派な大人なのに。



青「 少しだけ不満そうな顔、 」

「 やめてくんない?少し傷つく 」



青は本当によく笑う。


こっちが普通の青、だよな。



『 …僕は、自分の気持ちに 』

『 終止符を打ちたかっただけなんだ 』


『 僕の勝手な都合で、断らせてごめん 』



あの時の青は、珍しく真剣な目で俺を見てた。


多分あの時だけは

対等な関係だった気がする。


現在進行形でも対等なはずなのに

本当にあの時だけは、今と違うように見えた。


あんなシュチュエーションがあったのが

人生初だったからかな。



青「 桃くん?聞こえてる〜? 」



青が俺の顔を覗き込んできた。


まぁ青と一緒にいるのに

下向いて考え事してた俺が悪いけど。



桃「 ごめん、考え事してた 」

「 ここは俺が奢るよ 」


青「 っしゃ!! 」


「 さっきは桃くんに奢ったけど、 」

「 今月ピンチだったんだよね〜 」



マジでよく笑うじゃん。


今日はテンションが上がってんのかな。





二月 二十九日 20:43 葵 桃



家に帰り、ご飯を適当に済ませて

シャワーを浴びて、

いつもなら静かな虚無の時間。


けど今日は、指輪を眺めていた。


赤に渡す方の、桃色の指輪。


家のLEDライトに当てたら、

綺麗にキラキラと光って眩しくも感じた。


けど俺の脳内は

そんなに穏やかなものじゃなくて、


『 赤が嫌がったら どうしよ 』とか

『 いきなり指輪はキツい、

とか言って笑われたらどうしよ 』なんて


こんな感じだから外見から見た落ち着きと

内面の落ち着きは全く違う。


もう少し先なのにも関わらず、

俺の胃は穴が空きそうなほど胃が痛かった。





二月 二十九日 20:43 藤田 青



桃くんと駅で別れて、自分の家に帰ったあとは

いつもと変わらない夜だった。


適当にご飯済ませて、お風呂入って

LINEとか他の通知確認したら、少し仕事する。


そんな変わらない日だった。


けど、今日はどこか

満足感のある日だった気がする。


自分の気持ちに終止符を打ったからだろうか。


















一回、インスタとかの繋がり会してみたい。


仕方わかんないけど。

君に渡したい、好きの形を。

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