赤 × 桃 : 《 四年に一度の日 》
俺は一生、幸せにしたい。
二月 二十九日 10:05 葵 桃
今日は四年に一度の二月二十九日。
それだけでも貴重な日なのに
今日は特別だ。
なんせ、指輪を買いに来たから。
二月 二十八日 19:48 藤田 青
いつも通りご飯食べて
お風呂が湧くのを待ってたら
幼馴染の親友からメールが来たから覗いたら
『 明日、指輪買うから着いてきて欲しい 』
って一言。
青『 指輪買うってなに? 』
桃『 そんままの意味 』
青『 何言ってんの 』
正直、理解が出来てなかった。
というか多分だけど、
急にあんなこと言われたら
誰でも理解が追いつかないと思う。
なんの前置きも前触れもなく
そんな連絡が来たんだから。
青『 ごめん、電話していい? 』
桃『 おけおけ 』
電話の了承が出たから、電話をかけてみる。
青「 もしもし? 」
桃『 もしもし、聞こえる? 』
青「 うん、聞こえてるよ 」
桃くんの電話の最初は必ず
「 聞こえる? 」だから、
本人の身に何かあったわけじゃなさそう。
じゃあ、なんで指輪なんか。
青「 で、指輪買うってなに? 」
「 なんの指輪? 」
かなり念入りに訊く。
桃『 婚約指輪 』
『 赤と俺の 』
赤、って確か桃くんの彼氏?さんだったかな。
前に見かけたけど小柄で明るくて
可愛かった記憶がある。
婚約するまでの流れになってたんだ。
青「 なるほどね 」
「 うん、いいよ 」
少しだけ笑った。
子供の頃は、よく友達を泣かせて
問題になった人なのに
今は人を幸せにしようとしているのか。
だいぶ成長したんだなって思える。
まぁ桃くんも もうそろそろ二十五歳。
僕が思ってるほど子供のままじゃない。
桃『 なんだよ今の笑い 』
桃くんも笑ってる。
青「 いや〜、成長したなぁって 」
また笑う。
この後は少し近況報告して電話を切った。
もう桃くんは、
僕の手の届かない場所にいるんだね。
その事実が、少しだけ、怖かった。
何か悪さしないように、
僕がずっと手を繋いでいた桃くんなんて
もう何処にも存在してなくて
人に遠慮が出来て綺麗事が言えるようになって
人を幸せにしようとしてるんだ。
それを応援しないで、何が親友だよ。
本当に意地っ張りでワガママな僕は
何も変わってないじゃんか。
二月 二十九日 09:10 藤田 青
昨日の夜は、よく眠れなかった気がする。
心做しか眠い。
出かけようの服を着て、バッグを準備して
帽子かぶってマスクつけて
あとは歯磨きとか色々したら、
出発予定時刻になっていた。
少し急ぎ足で廊下を歩いて、鍵を取って
お気に入りの靴を履いて外に出て鍵を閉める。
青「 やば、遅れそう 」
待ち合わせ場所は駅のホーム。
そして待ち合わせ時刻まで十分程度。
ここから駅のホームまで約十五分。
まぁつまり、全力疾走をしなければならない。
青「 計画性って大切だな 」
二月 二十九日 09:35 藤田 青
ようやく駅のホームに着いたけど
やっぱり歳と共に体力は落ちているようで
駅まで全力疾走するつもりが
少し走っただけで息切れを起こして
「 だぁ〜っ!! 」ってなってしまった。
結果、今大変激しい息切れを起こしながら
辺りを見渡して桃くんを探す。
桃「 あ、青〜っ!! 」
声が聞こえる方を見ると
桃色の髪で黒いマスクをしている人がいた。
そして羽織っているセーターは明らかに
赤にプレゼントしてもらった、と
自慢されたセーターだった。
桃「 遅せぇよバカ 」
軽めにチョップされた。
けど昔に戻ったみたいで、
なんか面白かった。
青「 ごめんごめん、準備遅れちゃって 」
「 なんか奢るよ 」
少し笑いながら言う。
こういう時、桃くんが僕に頼むものは
いちごフラペチーノだったけど、
今はどうなのかな。
桃「 …いちごフラペチーノ頼むわ 」
変わってないことに
少しだけ安堵してしまった。
赤さんに染っていないんだ、って。
あれ、僕って本当に最低な人間じゃん。
僕の心はとっくに諦めきってると思ってたのに
まだ諦めてなかったんだ。
まぁ、桃くんが罪なだけだよね。
最近の言葉で言うなら、多分スパダリだよ。
無性に腹たってきた。
桃「 青?何ボーッとしてんだよ 」
「 早く行かねぇと混むぞ 」
桃くんは僕の腕を掴んで
少し引っ張りながら歩く。
その様はまるで、
学生時代の逆転した光景で昔を思い出す。
と、同時に
歳を重ねてしまったことに対して
少し悲しくもなった。
青「 …桃くん、 」
桃「 ん?んだよ 」
僕は桃くんに聞こえない程度に
口にしたつもりだったけど
地獄耳の彼には聞こえていたらしい。
少し恥ずかしくなったけど、
抑え続けていたこの気持ちに
終止符もつけたかった。
だから、諦めきっ心で告白したんだ。
青「 好きだったんだよ、ずっと 」
彼は困った表情を見せると思ったのに
見せてきたのは満面の笑みで、
僕は少し戸惑った。
桃「 俺の初恋は青だったんだぜ 」
彼はそう言いながらニカッと笑った。
彼を困らせると思っていたのに、
僕の方が戸惑っている。
僕が、桃くんの初恋?
桃「 そんとき、お前に好きな人いるって 」
「 誰かから聞いたから諦めたんだ 」
「 まさか、俺だったなんてな 」
眉を八の字に曲げて笑う彼は、
とても大人らしく、同時に子供っぽく見えた。
桃「 けど、ごめん 」
「 今の俺には赤しかいない 」
桃くんは頭を下げて謝ってきた。
頭を下げて欲しかったんじゃないし
僕の都合で勝手に告白して振られただけ。
諦めきって告白したけど、
やっぱ少しだけ傷つくんだなって思った。
青「 …僕は自分の気持ちに 」
「 終止符を打ちたかっただけなんだ 」
「 僕の勝手な都合で、断らせてごめん 」
僕も頭を下げて謝った。
早くこの気持ちが、どこかに行けば
僕は完全に諦められるんだ。
そんな心の方が良いのに、
ずっと一緒にいて悲しんできた
この気持ちを手放すのは少し寂しくもあった。
けど、『 この心が無ければ 』なんて
思わなかった。
色んな悲しみや、嫌悪、嫉妬心を抱けたから。
これも人生の経験の一つって、
そう前向きな気持ちで、この心は手放したい。
二月 二十九日 11:08 藤田 青
あんなこと話したから、少しだけ気まずい。
けど桃くんはそんなことは無いらしい。
そんな気持ちよりも、赤さんに渡す指輪を
選ぶのに気持ち持ってかれちゃってるみたい。
桃「 青、この指輪とこの指輪、 」
「 どっちがいいと思う? 」
指輪って、
似合う似合わないってないとは思うけど
なるべくその人に合う色がいいと思うんだけど
でも僕は、赤さんのことよく知らないから
選びようがない。
でも確か、赤い髪…だった気がするから、
青「 僕は、この桃色の指輪がいいと思う 」
「 桃くんは薄紅色の指輪 」
桃「 赤は俺の色つけて、俺は赤の色か 」
「 いいかも、 」
桃くんの頬が緩む。
なんとも可愛い様である。
二月 二十九日 13:41 葵 桃
指輪を買って、
今は青と一緒に喫茶店にいる。
青が「 休憩してほかのお店 見たい 」
って言い出したから、今度は俺が付き合う。
指輪は色々案を出してもらったけど
かなり時間かかって決めたしな。
結局、二時間くらいかかった。
けどそのくらい愛が詰まった指輪だ。
青「 指輪、どのタイミングで渡すの? 」
「 まだ未定? 」
桃「 ホワイトデーで渡す 」
「 お返しも作んなきゃだしな 」
自然と笑みがこぼれる。
それくらい幸せなんだと思うな。
青「 桃くん、料理は得意だけど 」
「 お菓子作り苦手じゃなかった? 」
少しだけ青が
俺の事を煽るように嘲笑ってきた。
これが公共の場じゃなかったら
今頃、軽く絞め技かましてた。
こういうところは本当に
『 あー青だな 』って感じる。
桃「 お返し作りは黄に手伝ってもらうから 」
「 多分、大丈夫 」
青「 すっごい不安そうな顔だけど 」
桃「 お菓子は分量が命じゃん? 」
「 分量測るの苦手すぎてムズい 」
青「 え、分量測るの苦手だから 」
「 お菓子作りも苦手ってこと? 」
桃「 …簡単に言ってしまえばな 」
青「 分量測るだけなら、僕でもできるよ 」
「 僕が手伝おうか? 」
青が俺のことを
かなり心配してそうな目で見てきた。
プラスで少し笑ってる。ムカつくな。
けど確かに黄は仕事の関係で
あんまり予定つかないことも多いしなぁ。
黄が無理な時は青に頼むしかねぇ。
桃「 …黄が無理って言ったら… 」
「 お願いしまず… 」
声にまで嫌な気持ちが乗った。
青は変なところで器用だから、
こういう時にマウント取ってくることがある。
毎回では無いけど、月一くらいで。
青「 いいよ 」
今のはマウントとかの笑いじゃなかった。
本当に俺の事を助けてくれる時の
俺を子供みたいに見てる時の笑い方。
青はまだ、
俺のことを子供として見る時がある。
俺だってもう立派な大人なのに。
青「 少しだけ不満そうな顔、 」
「 やめてくんない?少し傷つく 」
青は本当によく笑う。
こっちが普通の青、だよな。
『 …僕は、自分の気持ちに 』
『 終止符を打ちたかっただけなんだ 』
『 僕の勝手な都合で、断らせてごめん 』
あの時の青は、珍しく真剣な目で俺を見てた。
多分あの時だけは
対等な関係だった気がする。
現在進行形でも対等なはずなのに
本当にあの時だけは、今と違うように見えた。
あんなシュチュエーションがあったのが
人生初だったからかな。
青「 桃くん?聞こえてる〜? 」
青が俺の顔を覗き込んできた。
まぁ青と一緒にいるのに
下向いて考え事してた俺が悪いけど。
桃「 ごめん、考え事してた 」
「 ここは俺が奢るよ 」
青「 っしゃ!! 」
「 さっきは桃くんに奢ったけど、 」
「 今月ピンチだったんだよね〜 」
マジでよく笑うじゃん。
今日はテンションが上がってんのかな。
二月 二十九日 20:43 葵 桃
家に帰り、ご飯を適当に済ませて
シャワーを浴びて、
いつもなら静かな虚無の時間。
けど今日は、指輪を眺めていた。
赤に渡す方の、桃色の指輪。
家のLEDライトに当てたら、
綺麗にキラキラと光って眩しくも感じた。
けど俺の脳内は
そんなに穏やかなものじゃなくて、
『 赤が嫌がったら どうしよ 』とか
『 いきなり指輪はキツい、
とか言って笑われたらどうしよ 』なんて
こんな感じだから外見から見た落ち着きと
内面の落ち着きは全く違う。
もう少し先なのにも関わらず、
俺の胃は穴が空きそうなほど胃が痛かった。
二月 二十九日 20:43 藤田 青
桃くんと駅で別れて、自分の家に帰ったあとは
いつもと変わらない夜だった。
適当にご飯済ませて、お風呂入って
LINEとか他の通知確認したら、少し仕事する。
そんな変わらない日だった。
けど、今日はどこか
満足感のある日だった気がする。
自分の気持ちに終止符を打ったからだろうか。
一回、インスタとかの繋がり会してみたい。
仕方わかんないけど。
コメント
1件
青くんの"自分の気持ちに終止符を打つ"っていうところがめっちゃ好きです!! 続き待ってます!!✨