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「大精霊様が降臨!?
しかも、攻撃魔法を一切受け付け
なかっただと!?」
モンステラ聖皇国で―――
偵察部隊からの報告を受けた支部は、
混乱の極みにあった。
「じ、事実、です……!」
部下の火球、石弾、風刃が
ことごとく消滅しました!
恐らくは、他の魔法でも攻撃は無意味
だったかと」
隊長の言葉に耳を疑いながらも、それに対する
反論材料は無く、
「今一度確認する。
人数は5人。
これで間違いないのだな?」
「は、はい!
大精霊様と思しき女性、その両側に小さな
精霊が2人―――
さらにフード付きのマントに身を包んだ、
大人の男性らしき人物が2人。
他には見当たりませんでした……!」
そこで上司らしき中年は魔力探知機の方へ
振り返り、
「これが!!
これが、たった5人の魔力反応だと
いうのか!?」
狼狽する彼に対し、
「し、しかし魔導具は正常です!」
「まるでドラゴンやワイバーンが、群れで
やって来ているような……!」
「人間では、無い……!?」
魔力探知機を担当する部下数名が、追い打ちの
ように答える。
「い、今はどの位置にいる?」
いくらか冷静さを取り戻し、上司が現状把握に
努めるが、
「すでに聖皇国内に侵入しております。
このまま行くと最北端に西から横切るような
コースですが―――」
「西側から一直線に来ているんですよね。
こんな辺境の土地に、いったい何の用が……」
大ライラック国とモンステラ聖皇国の間で、
亜人・人外を実験体とした施設が作られたという
事は、トップシークレットであり―――
よほど上の地位にいる人間でなければ、
その情報については伏せられていた。
だからこそ、どうして『大精霊様』一行が、
この地を目指しているのか……
理解不能だったのである。
「ど、どうしますか?」
「正体不明の魔力反応が北の辺境に向かって
いるという事は、首都・イストに報告済みだ。
何かあれば、大聖堂から何らかの指示が
入るだろう。
それまで待機だ―――」
上司は疲れたように、備え付けのイスに
腰を下ろす。
彼につられるように一息つく面々。
だが、内心では胸騒ぎを覚えずには
いられなかった。
(もし大精霊様が本当に降臨なされたと
すれば……)
(それはその先に虐げられし者たちがいて、
彼らを救いに来た、という事―――)
(北の地に何があるというのだ……?)
各々が不安にかられながらも―――
それを口にする者は誰一人いなかった。
一方、亜人・人外が捕らえられている
兵器化施設にも、大精霊様降臨の一報は
入っていて、
「しょ、所長……!
大精霊様と思われる者とその一行が、
この施設に近付いているという情報
ですが……」
恐る恐る申し出る部下に、片眼鏡をかけた
研究者らしき男は、
「ランドルフ帝国か、その同盟諸国の差し金
であるな。
以前、奪還されたメルビナ大教皇様から
情報を入手したのであろうが―――
まったく次から次へと」
そこで所長と呼ばれた彼は一枚の紙を
取り出し、
「所長、それは?」
「つい先ほど……
首都・イストから早馬で届いたのである。
レオゾ枢機卿様からの直々のご命令―――
『いざとなれば、施設内の亜人・人外は
処分やむ無し』
これを徹底するのである」
彼はマイクのような魔導具へ顔を近付け、
『施設職員に告ぐ!
今、何らかの敵対勢力がこの施設へと
近付いているとの事である。
もし実験体や素材に逃げられる、脱出されると
判断した場合は……
その場で処分するのである!!
あと、ついでに機密書類もな』
あくまでも優先的に処分するのは亜人・人外だと
所長は強調し、
「あ、そうであるな」
「は、はい?」
所長は振り返ると部下を呼び止め、
「この部屋の機密書類を金庫にしまうのである」
「は?
え、ええと―――
処分はなさらないので?」
聞き返す部下に彼はチッチッと人差し指を
振り子のように動かし、
「本当に重要な書類はこの部屋にしか
ないのである。
現場にあるのはせいぜい、実験に使った
素材の観察データくらい……
それなら、素材と共に消滅させても問題は
無いのである。
敵勢力に情報を与えないためにも―――」
部下は黙って聞いていたが、そんな彼を見て
所長は、
「何をしているのである?
早く、言われた事を実行するのである」
「は、ハハッ!
直ちに……!」
その言葉に部下は、弾かれたように部屋を
出て行った。
「いやー、何か偵察らしき人たちが来て以来、
静かなものですね」
『ええ。
こちらからも魔力探知機に近付く反応は
ありません。
あと1時間も歩けば、例の兵器化施設が
見えてくるはずです』
大精霊様一行に扮している私たちは―――
魔力通信機を通じて、上の浮遊島と連絡を
取り合っていた。
「やっぱり、大精霊様のご尊顔を拝した事で、
対応を決めかねているのかねぇ」
ローブを被ったまま、ベッセルさんが軽口で
聞いてくる。
「まあ、少なからず影響はあるでしょうね。
それより、到着する頃には計算通り日が沈んで
いるでしょうから……
ベッセルさんの『自分だけの世界』の演出は
より効果的になるでしょう」
「それに乗じて、捕まっている人たちを
救出しなければならないからねぇ。
後は―――
彼らに良心や信心が残っている事を、
期待するだけか」
そう、この作戦……
最終的にはモンステラ聖皇国側の、それも
兵器化施設にいる人間にかかっているのだ。
レオゾ枢機卿への忠誠心が勝つか。
それとも、モンステラ聖皇国の教義を選ぶのか。
実際、自分の中の策の概念では今回はかなり
分が悪い。
策というものは、通るか通らないかで
実行するのはただの賭け―――
実行した時点で成功が確約されていないのは、
策と呼べないのだ。
ただ今回は、敵味方に被害を出さないという
条件をクリアするため、賭けるしか無かった
のである。
不本意ではあるが……
と考えていると、透き通るような白髪を持った
少女が―――
宙に浮きながら私の顔をペチペチと叩き、
「な、何をするんですか?」
「あー、シンはいったん考え事をすると長い間
戻って来ない時があるから、こうやって元に
戻せばいいって」
「メルさんとアルテリーゼさんから
聞いたんです。
そうなった時はこうやればいいと……」
サラサラした緑色の髪と、エメラルドグリーンの
瞳を持つ少年が、苦笑しながら付け加える。
「大丈夫。
それに、シン殿のこの方法が、今のところ
考えられる中で一番の手段だと思うけどなぁ。
それにシン殿は大精霊様でも神様でも
ないんだから―――
あまり気負う必要は無いよ」
自分の考えを見透かしたかのように、
ベッセルさんが励ましの言葉を発し、
「……ありがとうございます」
そして私は上空の浮遊島へ向け、
「では、救出・撤退までの最終確認を行います。
施設に到着後、浮遊島は上空で待機。
こちらが施設を無力化・解放するのと
同時にハニー・ホーネットたちを降下させて
ください。
全員救出後、私たちも浮遊島に収容。
私とベッセルさんは飛べないので、
置き忘れないようにしてくださいね」
『了解です!
では、健闘を祈ります!!』
通話を終えると、魔力通信機の端末がスルスルと
天へ昇って行き―――
私たちは作戦を歩みと共に再開した。
「大精霊様が……?
いったい、何を言っているのですか?」
少し遅れて―――
モンステラ聖皇国、首都・イストにも、
大精霊様が降臨されたとの一報が入っていた。
「……正気、ですか?
この偵察部隊の報告は……」
「ハハッ!!
わ、私も信じがたい事ですが……
詳細はこれにあります!
どうかお目通しを」
レオゾ枢機卿は部下から、その書類を受け取り
確認し始める。
「……攻撃が無効化された、と……
そして従者らしき精霊のような子供に、
指でおでこを……
物理的な存在である事は間違いないのですか」
彼はその指先でトントン、とテーブルを叩くと、
「……ふむ……
例の兵器化施設にも、極秘に情報を流した
ようですね……
ならば問題はありません。
……ただ、大精霊様が降臨なされたと
発表されては、混乱をきたしかねません……
この情報を持ち帰った偵察部隊と、
その本部にはかん口令を……」
「ハハッ、ただちに……!!」
命令を受けた部下が退室し、部屋に彼が
残ると―――
一人思考し始める。
「(……極秘施設ゆえ、表立った救援は
出せませんが……
報告によると大精霊様に偽装した、
その一行は5人。
とてもあの施設を攻め落とせるとは
思えません……
……それに彼らの目的は、噂通りならば
捕らえられている亜人・人外どもの救出。
解放したところで、彼らを引き連れての
脱出など、出来るはずがありません……)」
そこでレオゾ枢機卿は大きく息を吐き、
「(……幸い、来た場所はわかっています……
中央の未開拓地域の森の方向から来た、
という事ですから……
撤退する時も恐らくそちらへ向かうで
しょう……
3桁の人数を移動・退避させるにも、
時間を要します……
ならばその時に追撃を命じれば……!)」
彼は様々な状況をシミュレートし、その対策を
頭の中で打ち出し始めた。
『高魔力反応接近!!
全員、警戒態勢に入れ!!
情報によると相手は5人だ!
奇妙な身なりをしているとの事だが、
惑わされず対処しろ!!』
そして兵器化施設では、今まさに迎撃が
行われようとしていたが―――
「魔導兵器用意!!」
「くそっ、暗くなってきた!
照明で周囲を照らせ!」
施設の警備兵と思われる者たちが、戦闘準備を
整え、その時を待つが、
「な、何だこの音は」
「この妙なる調べ……
まるで、天界から流れてくるような」
まず耳から入って来た情報の一つに、彼らは
顔を見合わせる。
「もう、魔力反応は建物が隠れるくらいに
接近しているぞ!?」
「どこだ、どこにいる?
……!
発見!! こちらが照らす方向に
照明を回せー!!」
目標を発見したであろう一人がそちらへ
照明の魔導具を向け、
それにつられるように、何本もの光の線が
そこへ集中すると、
「あ、あれは……?」
「妖精……?
い、いや精霊、か?」
「美しい……」
彼らの目には、荘厳な和風の衣装に身を包んだ
妙齢の女性を中心に、
彼女に従うように、その両端に宙に浮かぶ子供、
そしてローブの大人が静かに歩みを進める。
その周辺は、花が咲き乱れ蝶が飛び交い、
『何をしているのだ!?
攻撃を開始せよ!!』
現場の指揮官らしき中年の男が、拡声器を
使って叫ぶが、
「し、しかし」
「あれは大精霊様では―――」
警備兵たちが及び腰になっている事に、
彼は苛立ち、
『黙らんか!!
ならばワシから攻撃する!!
もし本当に大精霊様であれば、これしき
どうという事はあるまい!!』
拡声器から彼は手を離すと、そのまま
大砲のような魔導兵器を構え……
『くらえい!!』
その瞬間、轟音と共に衝撃破のようなものが、
一行に向かって飛んで行く。
しかし―――
「……は?」
「……え?」
派手な色彩のそれは、一行の手前まで迫ったかと
思うと、そのまま何かに吸収されたかのように
消え去り、
蝶すら、何事も無かったかのようにヒラヒラと
飛び続けていた。
「そ、そんな、バカな……!!」
目の前の現実が認められない彼は、手にした
魔導兵器から手を離すと、
「アレを出せ。
子供なら、大精霊様であっても手は出せまい」
「え……?
しょ、正気ですか!?
大精霊様という事を認めた上で、
そんな事を!?」
動揺する部下に指揮官の男は続けて、
「だからこそ、確認するのだ。
もしあれが本物の大精霊様であれば―――
子供らを見殺しには出来まい?
もし彼らを助けられなければ、大精霊様では
ないという何よりの証拠となる!」
彼の言葉に警備兵は何か言い返そうとしたが、
立場が感情の反論を許さず、
「わかり……ました。
第3・第4実験室から兵器化素材を
出動させろ!
目標は施設前方の数名だ!!」
そしてそのまま、諦めたような表情で
命令を施設内へ伝えた。
「ん……?」
「何か来たようだねー」
土精霊様と氷精霊様が何かに反応し、
「あれは……獣人の子供たちかな?」
ベッセルさんも、その存在に気付く。
見ると、ふらふらとした足取りで―――
小学校低学年くらいに見える、いろいろな
耳とシッポを持つ子供たちが十数人ほど、
こちらへ近付いて来るのがわかる。
そして首や胸には、何やら奇妙な魔導具が
取り付けられていて、
「あの魔導具……!
恐らく、近付いたら自爆、もしくは何らかの
攻撃魔法が発動するものかと」
ギルドマスターはすぐに魔導具の用途を推測し、
苦々しく言葉を吐き出す。
「まぁでも、シンさんの前では―――」
「全部、無意味だけどねー」
小さな少年少女が、宙に浮いたまま流す。
やがて子供たちはそのまま、私たちと合流し、
「森の精霊様に……
誰か子供を一人抱き上げるように言って
ください。
その魔導具もすでに外せるように
なっていると思いますので」
どうも子供たちは心ここにあらず、といった
感じだが―――
これは魔力や魔法によるものではなく、薬で
こうなっているのかも知れない。
私は他のメンバーと共に、子供たちから魔導具を
外しては、地面に放る。
そして森の精霊様が、聖母マリア像のように
一人の子供を抱き上げ、無造作にその子から
魔道具を外し、私たちと同じように足元へ
捨てた。
「な……」
指揮官の男はそれを見て一瞬絶句し、
我に返った後、
「ど、どうしてだ!?
どうして爆発しない!?
こ、故障したというのか?
こんな時に……!」
さすがに混乱する上司を見て部下は、
「魔導具が全て故障、ですか?
あり得るわけが無い!!
あれは……いや、あの方は間違いなく
大精霊様です!!
大精霊様が、幼い命を理不尽に散らす事を
許さなかったのです……!」
その声が他の警備兵たちにも聞こえると、
「お、俺たちは何て事を……!」
「大精霊様を攻撃してしまったのか?」
「そ、そんな……
俺たちはどうすれば」
さすがに宗教国家、大精霊様と敵対してしまった
というショックは大きく、動揺が広がる。
するとそこへ、魔力拡声器を通して大きな声が
響き渡り、
『あー、こちら所長である。
状況は確認した。
どんな仕掛けかはわからないが―――
攻撃が効かない、というのは本当のようで
あるな。
対抗手段が無いとわかった以上、
抵抗は無意味である』
その声は、シンたちにも届き……
「降伏でもするんでしょうか」
「だといいけど、嫌な予感がするねぇ」
私はアウリス様(=ベッセルさん)と
息を飲んで経緯を見守るが、声の主は続けて、
『ではかねてよりの命令を実行するのである!
実験体や素材を全員処分せよ!
彼らを逃がすわけにはいかないのである!!』
最悪の命令が、所長によって伝えられた。
「よ、よし!
所長命令だ!!
貴様ら、すぐに施設内各所にいる実験体・
素材をうぐっ!?」
指揮官の男は、うめき声を最後に意識を失う。
今まで接していた部下が、彼を殴り倒したのだ。
「冗談じゃない……!
これ以上、大精霊様の意向に逆らう事など
出来るか!!」
そして他に配備されている警備兵たちに
振り向き、
「捕らえられている亜人・人外を解放しろ!!
大精霊様のお手伝いをするのだ!!」
彼らには例の噂―――
『虐げられし者たちを救うため、大精霊様が
降臨なされる。
その行く手を阻む者は、死して後も天の門は
くぐれないであろう』
それが心にこびりついており、
「そ、その通りだ……!」
「大精霊様の邪魔をしてはならない!」
「すぐに彼らを大精霊様の元へ……!!」
施設を守るはずの兵士たちは、あちこちの内部へ
向かって走り始めた。
「シンー、何か変だよ?」
施設ごと『無効化』範囲を広げようと、
私が構えていた矢先、氷精霊様が目の前の
建物を指差す。
「本当だ。何か慌てているような……」
「うん? 門が開いたけど」
また何か出てくるのか?
と警戒していると、
ぞろぞろと、捕らえられていたであろう
亜人・人外の人たちが、兵士らしき連中に
連れられて出てくる。
そして彼らもまた、薬でも飲まされているのか
意識が朦朧としているように見える。
まさか人質に……!?
それとも彼らを盾にして何かを、
と考えていると、
「だ、大精霊様……!!
この通り彼らは引き渡します。
ど、どうかお慈悲を……!!」
見ると、兵士の一人が許しを乞うように跪く。
中で監禁していた全員を出し終わったのか、
他の兵士たちも両手を組んで祈るように地面に
両ひざを落として、
「ど、どうかお許しを……!」
「我らはただ、命令の通りに」
どうやら、あの所長命令に耐えられなかった
ようだ。
大精霊様を信じているからこそ、任務より
信仰を取ったのだろう。
すると精霊様たちが兵士たちの間を飛び回り、
「その行い、きっと大精霊様は認めて
くださるでしょう」
「よしよし♪ いい子いい子♪」
と、土精霊様は言葉を、氷精霊様は彼らの
頭を撫でて回り、
「ギルドマスター」
「ああ、そうだね」
ベッセルさんに小声で声をかけると、
「おお……!」
「あ、あれは」
「天へ……光が……」
彼の『自分だけの世界』の演出が変わり、
上空へ向けて一直線に光の束が放たれ、
「! 合図だ!」
「ハニー・ホーネットさんたち、下降!
亜人や人外の連中を引っ張り上げてくれ!」
遥か上の二つの浮遊島では、慌ただしく
ハニー・ホーネットの群れが動き出す。
そして彼らを救出するべく、およそ百匹以上の
群れが、下の光をめがけて飛んで行った。
「おお……!」
「み、見ろ!
子供たちが浮かんでいるぞ!?」
兵士たちの前でまず、先ほど私たちが保護した
子供たちを蜂たちがつかみ、
一人一匹が担当する形で、空へ運んでいく。
だがその姿は―――
ベッセルさんの『自分だけの世界』の演出である
光と蝶の組み合わせで、
彼らの羽音は、魔導具の大音量の音楽でうまく
ごまかし、
その光景は兵士たちや兵器化施設からは……
光の束の中を天へ向かって浮かんでいくように
しか、見えないだろう。
『何をしているのであるか!?
このままでは逃げられるのである!!』
兵器化施設からは、魔導具を通してであろう
所長とやらの声が響くが、
それに目を向ける兵士は一人もおらず―――
やがて次々と人々が運ばれる中、私たちも、
という段階になった時、
『え、ええい!!
このような事は認められないのである!!
では最後にこれを受けてみるのである!
まだ開発中だが、最新の魔導兵器を……!!』
すると兵士たちは立ち上がって、
「まさかアレを!?」
「お、お逃げ下さい!!」
「いかに大精霊様といえど、彼らを守りながら
あれを受けるのは―――」
口々に大精霊様を気遣う言葉を発する。
やれやれ……
当初の予定では森の精霊様ごと施設に入って、
捕らえられていた人たちを寄越すよう、『交渉』
するつもりで、
最悪、大聖堂の時のように建物内の魔導具を全て
無効化する事まで考えていたけど―――
結局こうなるのか。
「範囲指定、目の前の施設全体。
魔力で動く魔導具など……
・・・・・
あり得ない」
私が小声でそうつぶやくと、施設全体の照明が
消えて、辺りに暗闇が訪れ―――
それとは対照的に、天に昇って行く私たち一行の
姿が、ベッセルさんの『自分だけの世界』で、
余計に引き立つ。
やがて私はハニー・ホーネットによって
地上から離れていくと、
その眼下では、いつまでも祈るように跪く、
兵士たちの姿が見えた。
「全員、収容しました!」
「いつでも出発可能です!」
上空に到着すると、それぞれ五十人以上を
乗せた浮遊島の上は……
かなりの混雑になっていた。
ただ全員意識が朦朧としていたおかげで、
運ぶ時も暴れたり騒いだりする人はおらず、
島の上でも大人しくしている。
とにかく救出する事に集中していたので、
彼らを詳しく確認する事は無かったのだが、
獣人を始め鬼人族やラミア族などの亜人、
魔狼、ハーピー、そして半人半馬の
ケンタウロス族も混ざっていて、結構ギリギリの
収容状態だ。
ドラゴンやワイバーンといった大型の人外は
いなかったのが、幸いというところか。
「わかりました。
これから未開拓地域の森へ向かってください。
そこで森の精霊様を降ろして頂いた後―――
ランドルフ帝国へ!」
「了解!」
「出力全開!!」
そして二つの浮遊島は、猛スピードで現場を
離れ始めた。