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「行って来たよー。
またいつでもご協力します、だってー」
「ボクも伝えて来ました。
すぐに他の部族にも、この件を通達すると
言っていました」
透き通るような髪を持つ少女と―――
エメラルドグリーンの瞳、そしてそれに勝るとも
劣らない緑色の髪の少年が告げる。
氷精霊様と土精霊様だ。
浮遊島で、モンステラ聖皇国の兵器化施設から
監禁されていた亜人・人外の人たちを奪取後……
一直線にクアートル大陸中央の未開拓の森まで
向かい、
そこで森の精霊様が元の住処まで戻るのを、
氷精霊様に見送って頂き、
土精霊様には―――
監禁されていた中に、ケンタウロス族が
数名いた事を、同族のロナトさんに報せて
もらい、
彼らはランドルフ帝国でいったん保護した後、
回復次第そちらに届けると……
その言伝をお願いしたのである。
「やれやれ。
こうまでうまくいくとは思わなかったなぁ。
彼らも、大精霊様には逆らえなかったみたい
だねぇ。
信仰が厚かったようで何よりだよ」
フードを抜いで、シルバーの短髪の青年が
その顔を表に出す。
「助かりましたよ、アウリス様。
あなたの『自分だけの世界』があった
からこそ、より一層大精霊様の存在を、彼らに
思い出させる事が出来たんでしょう」
「ははは、それを言うならシン殿の『抵抗魔法』
ありきとも言えるけどねぇ。
それにしてもあの所長とやら、最後は何を
しようとしたのかね。
なーんかぶっそうな事を言っていたような」
アウリス様=ベッセルギルドマスターと語り合い
ながら、あの時の事を回想する。
確か、『開発中だが最新の魔導兵器』とか
言っていたような―――
「どっちにしろ、シンさんの前では
無意味だったんじゃないかなー?」
「身も蓋もありませんけど、それは確かに」
二人の精霊様がこちらの会話に割って入る。
まあそれはそうかも知れないけど……
「とにかく、あの方々は早くランドルフ帝国で
治療してもらいましょう。
薬もどんな種類を使っているか、私には
わかりませんし―――
医者か専門家に診てもらわない事には」
「そうだねぇ。
それに今回の件……
メルビナ大教皇様の救出に続いて、
あちらに相当な余波があるだろうし。
しばらくは大人しくなってくれるんじゃ
ないかなぁ」
「そうだと助かるんですけどね―――」
そんな事を浮遊島の上で話しながら、
一路、帝国へと進んでいった。
「お疲れ様です、シン殿。
では監禁されていた人たちは……
こちらで責任を持って預かります」
パープルの長髪に、前髪を眉毛の上で揃えた
女性―――
ティエラ王女様がランドルフ帝国の帝都・
グランドール郊外にて、私たちを出迎えて
くれた。
「こちらで待機して頂き、ありがとう
ございました。
さすがに帝都上空から降ろすわけには
いきませんでしたので……」
彼らは帝都に引き渡される運びとなっていたが、
空から降ろしたのでは、どこの誰に見られるか
わかったものではなく、
いったん郊外で浮遊島から地上へ降ろした後、
待機していたティエラ様率いる一隊へと任せ、
そこで陸路を運んでもらう事になっていた。
「こっちも準備終わりやしたぜ、お嬢」
「薬でボーッとしているせいか、収容に
手間取らずに済みましたし」
アラフィフの赤髪の男と―――
彼より一回り若そうな、ブラウンのボサボサ髪の
男性がやって来る。
カバーンさんにセオレムさんだ。
「シン殿は極秘でこちらの大陸に来ています。
間もなく帰られますが、シン殿がこの地に
いたという事は、他言無用でお願いします」
王女様が二人に向かって念を押す。
この二人は、自分が『境外の民』である事を
始め……
浮遊大陸などのトップシークレットを知る
立場には無いため―――
協力してもらってはいるが、詳細を言えない
のが心苦しい。
「わかってまさぁ、お嬢」
「シンさんも帰りはお気をつけて」
私はペコリと三人に向かって頭を下げると、
再び浮遊島に乗るために、その場を離れた。
「というわけで―――
恐らく詳細は、後ほどティエラ王女様自らが
報告しに来るかと」
作戦終了の翌日……
ベッセルギルドマスターと帝都グランドールで
別れた後、
ウィンベル王国、王都・フォルロワまで
『ゲート』を使用し到着。
冒険者ギルド本部で、亜人・人外の人たちの
救出に成功した事を報告していた。
「しっかしまあなんだ、本当にお疲れ様。
シンに頼むしかなかったとはいえ、こうも
あっさり成功させてくるとはなあ。
依頼も全部こんなふうに達成されると
いいんだけどよ」
アラフォーに見える、白髪交じりのグレーの
短髪のギルド本部長が、呆れるように話す。
「本当にそうですよぉ~」
「さらにまた敵味方―――
双方に死傷者ゼロでしょう?
穏便に事を済ませるって、襲撃なんかより
ずっと難しいですからね」
二人の秘書ふうの女性……
腰まで伸びた金髪を持つ童顔の美女と、
眼鏡をかけたミドルショートの黒髪の同性が、
それぞれ土精霊様と氷精霊様を抱きしめながら
会話に参加する。
「ええと、ボクたち早く公都に帰りたいん
ですけど」
「わらわもぐろっき~なの。
早く『ヤマト』であのふわふわしたアイスを
食べるのー!」
外見通り、子供っぽく不満をもらす氷精霊様に
私は苦笑し、
「あいす? 何だそりゃ。
また何か新しいモン作ったのか?」
アイスは、この夏に公都で試験開発していた
ものだ。
とは言っても、作る事自体はそれほど
難しくはなく―――
牛乳と砂糖、卵黄さえあれば作る事が
可能なのだ。
ただ常時冷やす環境が必要であり、そして
牛乳と卵が大量に要る。
卵は確保出来ていたものの、牛乳はまだまだ
貴重品であったため……
作るのをためらっていたのである。
「じゃあちょっと作ってみましょうか。
厨房をお借りしても?」
極端な話、氷を入れたボウルの上に小さな容器を
重ね、そこで卵黄と砂糖を混ぜ、様子を見ながら
牛乳を加えていけば、それでアイスは作れる。
「じゃーシン!
早く作ってなのー!!」
そこで私は氷精霊様に拉致され―――
また、遅れて戻って来る『見えない部隊』の
方々のため、
厨房にいた料理人たちにアイスの作り方を
教えると共に、大量に氷室に保管して
もらったのだった。
「任務かんりょーおめでとー、シン」
「これでしばらくは、大人しくして
もらえるといいのう」
久しぶりに我が家へ戻った私は、幼顔の妻と
モデルのような妻、二人と顔を合わせ、
「おとーさん、お疲れ様ー」
そしてショートの黒髪に、燃えるような赤い瞳の
義理の娘に出迎えられた。
「今回は半月くらいで済んだけど……
まあすぐに動きだす事はないだろう。
少なくとも無事子供が産まれるまでは、
私も公都から離れたくないしね」
身重の妻たちがいるのだ。
出産には立ち合いたいし、常に側にいて
やりたい、というのが本音だ。
「それにしても、全員救出とはねー」
「それでいて敵味方に被害ゼロ、であろう?
今頃あちらさんも、対応に苦慮している
だろうて」
メルとアルテリーゼが今回の結果を賞賛し、
「ボクだったら絶対何人かぶっ飛ばして
いるなー。
おとーさんは優し過ぎる気がするー」
続けてラッチが腕をブンブンと振り回す。
「大人の世界はいろいろあるんだよー、
ラッチちゃん」
「むしろシンだからこそ、出来た事でも
あるのだぞ?」
母親として二人が娘をたしなめ―――
ようやく日常に戻った事を実感し、一家団欒の
時を過ごした。
「……どうしてこうなったのです……!?」
一方で、モンステラ聖皇国の首都・イストでは、
レオゾ枢機卿が頭を抱えていた。
(目の前にある報告書、書類の類には全て
目を通しましたが、これは)
彼は脳をフル回転させ、分析に没頭する。
『攻撃魔法は、大精霊様と思われる一行に
届く前に消滅した』
『自爆用の魔道具を装備させた亜人の子供を
向かわせたが、何事も無かったように、
大精霊様と思われる者はその子を抱き上げた』
『最終的に、まだ開発途中の魔導兵器の使用を
試みたところ―――
兵器化施設の全ての魔導具が故障した』
『大聖堂での魔導具故障との件と照らし合わせ
分析中』
何より、解放された亜人・人外を引き連れての
逃避行は時間がかかるだろう……
そう思って追跡部隊を編成していたのですが、
『大精霊様と思われる一行はその後、
亜人・人外を浮かばせ―――
空へと消えていった』
さすがに、ドラゴンやワイバーンでの追撃までは
考えていませんでした。
だいたい、百人はいるであろう人員をどうやって
空へと逃がしたというのです?
メルビナ大教皇様の救出の際は、少人数による
飛行部隊で潜入・飛び去ったのであろうという
見解が出ていましたが、
『蝶と共に、一直線に空へと昇っていきました』
『大精霊様と思われる一行の後には、花畑が』
『天上の音楽と思われる音も聞こえてきて』
私はブンブンと頭を左右に振る。
大精霊様など……
私、いやメルビナ大教皇様でさえ、そして
モンステラ聖皇国の誰一人として見た事は
無かったはずなのに……
「あの、レオゾ枢機卿様?」
いつの間にかいた部下の一人が、おずおずと
声をかけてきて、
「……何ですか……?」
「そ、その。
命令違反をした者たちの処罰についてですが」
その事について、私はまた頭を痛める。
「……謹慎……
そして今回の件、口外しないように
伝えなさい……」
「そ、それだけですか?」
聞き返して来る部下に視線を送ると、彼は
『ヒッ』と小さく声を上げて、
「わ、わかりました!
仰せの通りに……!!」
逃げるように退室する部下を見送り―――
私はまた、思考の海へと潜ります。
彼らの処分……
むざむざと相手の術中にはまり、さらには
素材を引き渡してしまった連中……
本来であれば口封じまでしたいところですが、
『大精霊様が許してくださった』
『従者の小さな精霊に撫でて頂いた』
などと供述しているようですし、その彼らを
罰した、となると……
今度はそれを元に、どのような噂を流されるか
わかったものではありません。
「それより問題は……
大ライラック国、ですか」
クーデター初期にメルビナ大教皇様の側近に
逃げられてしまったのはまだしも、
その後、大教皇様本人すら奪還されてしまう、
という失態を演じました。
そして今回また、例の兵器化施設を急襲され、
実験体であった亜人や人外を解放されてしまった
という……
ただでさえ、消極的になっていた彼らが―――
これ以上モンステラ聖皇国に力を貸す事は
無いでしょうね……
「……まだ、です……
落ち着いて現状を把握しましょう。
少なくとも今回の件、ランドルフ帝国や
その同盟諸国が絡んでいる事は確実……!
それを分析し、今後の対策にあてる……
最悪、大ライラック国への手土産に……」
私は身の振り方までを視野に入れて、
今後の方針を考え始めた。
「さて諸君、朗報だ。
モンステラ聖皇国だが―――
例の兵器化施設が強襲され、
さらに実験素材であった亜人・人外が
奪取されたとの事だ」
大ライラック国、首都・マルサル……
中世の軍服に身を包んだ面々が、長テーブルを
囲って、無表情で席についていた。
「その兵器化施設は大精霊様とやらによって、
『解放』されたらしい。
おまけに攻撃魔法も無効化され、切り札として
開発中であった魔導兵器すら―――
発動前に『故障』したとか」
淡々と事実を述べるのは、長テーブルの先端で
着席しながら話す、六十代くらいに見える老人。
この人物こそ大ライラック国を統べる
軍王ガスパード、その人であった。
彼の話に、同席している上層部であろう
男たちは……
ほぼ視線を下げ、顔を上げずにいた。
「まるで葬式会場だな。
まあ無理も無い。
余の知らぬところで進めていた計画が、
こうまで裏目に出たのだから」
国のトップの言葉に、重鎮たちは沈黙する。
モンステラ聖皇国のレオゾ枢機卿と組み、
メルビナ大教皇から実権を奪い、
二ヶ国同盟を締結し―――
ランドルフ帝国及び同盟諸国の脅威に
立ち向かおうとした。
だがその結果たるや、監禁していた大教皇には
逃げられ、
亜人・人外を素材として扱っていた施設の
存在まで知られたのであろう、
その施設すら、大精霊とやらの一行の前には
なす術なく……
同時に、ランドルフ帝国や同盟諸国はこれで
確信したであろう。
そんなモンステラ聖皇国と同調して動いている
大ライラック国に、融和政策などする気は
無い事を。
「お、お言葉ですがガスパード様!
報告は逐一行っていたはずです!
ただ詳細のいくつかが漏れていた事は、
否定出来ませんが」
何とか一人が言い訳のように声を絞り出す。
それを聞いた軍王は大きく息を吐き、
「我が大ライラック国の頭脳ともいうべき
者たちが―――
そんな臆病な事でどうするのだ。
余を侮れとは言わぬが、恐怖も持つべき
ではない。
感情的にならず、まず把握している状況から
説明せよ!」
そこで全員の背筋がビシッ、と正される。
「報告します!
モンステラ聖皇国において、人外種族を
対象とする兵器化施設が、何者かに襲撃を
受けた模様。
攻撃魔法は受け付けず、最終的には施設全体の
魔導具・魔導兵器を何らかの手段で故障させ、
離脱したとの事です」
「襲撃した一行は、大精霊様とその他数名との
事ですが、詳細は不明。
宗教国家であるモンステラ聖皇国では、
あれは大精霊様だと一般・下級兵士は
認識していると……!」
それを聞いたガスパードはうなずき、
「それが本当に大精霊であるかどうかの判断は、
神官にでも任せればよい。
攻撃魔法の無効化、魔導具の故障―――
少なくともこれらは事実なのだな?」
「ははっ!」
一人が頭を下げると、つられるように全員が
視線を落とす。
「ではどういう経緯で使われたのだ?
その大精霊サマとやらが、施設に到着した
途端に魔導具が『故障』……
そして反撃の魔法も封じられたという事か?」
軍王の質問に、報告者たちは慌ただしく資料の
書類をめくり、
「い、いえ。
施設全体の魔導具が『故障』したのは、
一行が引き上げる直前だと聞いております。
それまでは魔法攻撃が全て―――
発動はしたようですが、それが目標に届く前に
消滅したと」
「うん?
という事は、魔法攻撃を防いだ事と、
魔導具を故障させた手段は……
別々だと見るべきか?」
ガスパードの意見に、面々は交互に隣りと
顔を見合わせ、
「た、確かに」
「言われてみれば―――
同時に出来るのであれば、施設に到着した
時点で実行していてもおかしくはありません」
「という事は……
実行可能回数が限られている?
もしくは制限があるとか」
各々が意見を言い出した事で、軍王の表情は
柔らかくなり、
「見よ。
落ち着いて考えれば、問題点などすぐに
洗い出せるであろう」
「は、ハハッ!
まことに赤面の至りで―――」
トップの言葉に、彼らは苦笑で返す。
「さて、これで対抗・対応すべき点は
見つかったとして、だ。
決めなければならないのは……
モンステラ聖皇国への対応だ」
彼の言葉に、全員の表情が切り替わる。
「当面、正式な同盟発表は避けるべきでしょう」
「今後の支援についても、慎重に考えていく
つもりであります」
「水面下での非公式交渉でしたので、
すぐに打ち切るのはともかく、縮小しつつ
自然消滅させる方向で」
すでに彼らの中では―――
レオゾ枢機卿の利用価値と共に、
モンステラ聖皇国への評価は地に落ちていた。
同時にそれは、いつ損切りをするかという
タイミングだけの問題となっており、
そういう空気が形成されていたが、
「余はそうは思わぬ」
軍王ガスパードの言葉に、全員が顔を上げ
視線を集中させる。
「モンステラ聖皇国を切り捨てるというが、
その後はどうなるのだ?
ランドルフ帝国、ドラセナ連邦、そこに
聖皇国が加わった場合、我が国だけで
勝てるか?
それとも大胆に方針を変更するか?
ランドルフ帝国のように、他種族との
協調路線に我が国は踏み切れるのか?」
「そ、それは……」
「選択肢の一つである、とは思われますが」
軍王から遠い席で、消極的ながら意見が
出されるが、
「その選択はすでに不可能であろう。
これまでの経緯もあるが、兵器化施設の件が
露見した事で、さらに印象は悪くなったはず。
もちろん、向こうも大精霊の仕業としている
手前、公にする事はあるまいが、
あちら側の上層部はすでに―――
大ライラック国の方針を知ってしまっていると
見て、間違いなかろう」
トップから正論を聞かされ、部下たちは
黙り込む。
「だからこそモンステラ聖皇国は必要なのだ。
今後も支援は惜しまないと使いを出せ。
要求も可能な限り聞いてやれ。
その間に、兵器化施設の資料を手に入れろ」
「は、はあ。
では、モンステラ聖皇国との同盟は前向きに
考えるとの事で?」
比較的近い席にいる一人が聞き返すと、
「冗談ではない。
ここまでの失態を演じておいて、お前たちは
まだ何か期待しているのか?」
答えの意味がわからず、彼らは戸惑う。
するとガスパードは続けて、
「モンステラ聖皇国は、我が大ライラック国の
防風林よ。
時間稼ぎにはなるだろう。
その間に、出来るだけの軍備を整えるのだ。
戦争になるとすればなおよい」
そこでやっと、モンステラ聖皇国は『捨て石』に
するという軍王の考えを彼らは理解する。
「まあ、元からそれくらいの価値では
ありましたが」
「立地的にも、まずそこで足止め出来れば
それだけこちらも守りやすくなりますしね」
実際、空からは大量の軍勢を送り込む事は
出来ない。
ドラゴンもワイバーンも数は限られている。
主力は陸路か海からであり、中央の未開拓地を
突っ切らない限り、東のモンステラ聖皇国経由で
北方に位置する大ライラック国に来るか、
西のランドルフ帝国から直接来るかが、
考えられる通常ルートであった。
「連中にはせいぜいあがいてもらうとしよう。
そしてその間に我々は、可能な範囲で
他種族の懐柔を検討する」
次に出てきたガスパードの言葉に、全員が
目を丸くして驚く。
「で、ですがそれは先ほど軍王自ら、
不可能と仰られたではないですか」
すると指摘された彼はニヤリと笑い、
「あくまでも検討だ。
万が一の場合に備えておけ、
と余は言っているのだ」
それはポーズだという事をまず彼は説明し、
「ランドルフ帝国、ドラセナ連邦、
モンステラ聖皇国まで敵に回った後では
検討する余裕も無かったであろう。
我々の肩には数千万の国民の命が
かかっておるのだぞ?
その時の事を考えておかないでどうする。
だからこそ……
その時のため、兵器化施設の詳しい資料は
手に入れておかねばならん」
「と、と言われますと―――」
彼らは何とかついていくのがやっとのよう
だったが、一人が軍王に問うと、
「わからんやつらだな。
いざという時、兵器化施設の件は我々は
知らなかったという事にするのだ。
戦争で不利になった時、『こんな非道な事を
しているとは知らなかった』
『こんな国に味方など出来ない』と軍を
引っ込める理由に出来る」
ガスパードの説明に、全員が首を垂れる。
実際、大ライラック国は覇権主義ではあった
ものの……
それはランドルフ帝国と五十歩百歩であり、
虐殺や拷問などは、少なくとも公には行って
こなかった。
『周辺地域は弱いから侵攻し滅ぼした』
だけであり、
また他種族への差別も、外見が違うものに対する
嫌悪感以上のものはなかったと思われる。
「さてと……
『保険』の話はここまでにしよう」
軍王の声のトーンが変わり、同席している
面々は姿勢を正す。
「これ以上の戦力差が広がらないうちに、
ランドルフ帝国に仕掛けようと思って
いたが―――
その戦力が整い次第、モンステラ聖皇国を
接収する。
あの地を政情不安定にしたままでは、
我が国の防衛に関わるからな」
「では、例の亜人・人外の兵器化については
我が国では採用しませんので?」
片手を挙げて質問する部下に対し、
「どちらにしろ、今回の戦争には間に合うまい。
今下手に知っても火種になるだけよ。
モンステラ聖皇国を接収・我が国に併合後
それは考える。
では各自、現在の戦力と増強計画の進展に
ついて報告せよ」
そしてその後は……
モンステラ聖皇国の攻略へと議題は
移っていった。