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59.☑
元夫が帰還したその後で ③
「へえ~、君のお母さん確かに最強だわ。
参ったな。
そんな最強の後釜候補が待ってるって知ってたら、俺……」
「由宇子ちゃんを置いて行かなかったですか?」
「そうだね、怖くて置いて行けなかっただろうね」
「知らぬが仏っていうヤツですね。
大倉さんが単身赴任で行ってくれてほんとに良かったですよ
僕にとってはね。
あっ、すみません。
でも大倉さんはそんなにダメージないですよね?
大好きな仕事に8年も没頭できたんですもんね。
由宇子ちゃんから聞いたことありますよ。
大倉さんってすごくモテるらしいですね。
すぐに大倉さん好きな女性きっと……いや
絶対出来ますって、安心してください。
由宇子ちゃんもそう言ってましたから。
将康さんはモテるんだぁ~って、私はいつもやきもきさせられて
その上目の届かない所へ行っちゃうでしょ?
耐えられないの、だからお別れすることにしたんだぁ~って
言ってました」
59-2☑
「えーっ、俺のこと嫌いだから離婚したんじゃなかったっけ?
えーっ!!」
「由宇子ちゃん、嫌いになれないから苦しくて
お別れしたのよって言ってましたけどね。
ずーっと心配したり不安になったりして毎日暮らすのは辛すぎるって」
俺は薫くんの言葉に、いや薫くんが語ってくれた元妻の言葉に
グーの音も出なかった。
嫌いになれないって、それは好きだということだろ?
好きなのに別れるってどうなってるんだ、由宇子。
俺には理解不能だ。
あれから子供たちの面会や運動会とイベント毎に行くけれど
一緒に来なかったり、そして来た時も俺の側には絶対近付かない由宇子。
だからものすごく嫌われていると思ってた。
「大倉さん、由宇子ちゃん子供だってちょうどその頃
あっ、大倉さんが単身赴任決めた頃ね、もうひとり欲しいって
思ってたみたいですよ。
大倉さんには言ったの? って聞いたら、
ううん、忙しい人だからなかなか。
それに言う前に単身赴任決めちゃってて益々言えなくなったの
って言ってました」
俺は何も知らなかった。
知ろうとしてなかったんだな。
60.☑
元夫が帰還したその後で ④
「その、由宇子との結婚生活はいろいろあるとは思うけど上手く
いってる?」
「結婚生活ですか、う~ん」
「もう結婚してかれこれ7~8年になりますけどお陰さまで仲いいですよ。
夜のスキンシップもかかさないし。
キスは毎日してますし、僕ら手繋いで寝てます。
もう僕は由宇子ちゃんラヴですからね、毎日好きって言葉で言ってますし。
あっ、すみません惚気過ぎましたぁ」
聞けば聞くほど女性としての幸せを100%彼から与えられている
ことを知り、更に俺は凹んだ。
なのに、彼の話はまだまだ続いた。
「僕ら、肩凝りした時はお互いに揉みあいこしたりもしますよ。
僕が由宇子ちゃんを揉むときは、時々別のことに意識がいって困ることが
あるんですけどね、ははっ」
ははっじゃないよ、全く。
毎日毎日、毎夜毎夜、彼らがどんなに仲よく睦まじくこの数年間を
過ごしてきたのかと思うと、胸が締め付けられた。
それなのに、彼の惚気は更に続いた。
それは結婚間もない頃の彼らの会話だった。
「薫、私が老けてきて好きじゃなくなったら他の誰かと
結婚していいからね」
「そんなことにはならないって。
僕も皺をメークで作って年寄り風味の容貌になるしぃ。
ずっと由宇子ちゃんは僕と一緒だよ。
由宇子ちゃんは最初大倉さん好きになって結婚してしまったけど、僕は
昔からずーっと由宇子ちゃん好きでいたんだから信じてほしいな」
いかに薫くんが筋金入りの由宇子ファンなのかを
伺い知る会話だった。
そして未来永劫俺と由宇子との復縁が微塵もないと
知らしめるモノだということも。
61.☑
元夫が帰還したその後で ⑤
赴任先から帰り、離婚されていた話を聞いた日から一度も顔を見ること
叶わない由宇子をひと目見たいと思い子らの面会で別れた後、そっと薫くんと
子らの後をつけた。
由宇子は公園で待っていた。
由宇子は一番下の子を抱いている。
「さぶいねぇ~、ミ~キ」
そんな呟きを子に向けて語りかけている由宇子の背中を
聞いていた薫くんが背後から抱き込んだのが見てとれた。
「あったかぁ~い」
「でしょ?」
「「ふふっ、ははっ」」
ふたりの笑い声。
そのふたりの周りで子らは安心しきって両親の側で遊んでる。
しばらくすると子ら3人も薫くんに抱きついたりしてまとわりつき
はじめた。
そこには幸せな家族の風景があった。
俺のなくしたモノが、眩しくてまぶしくて
俺は知らずしらず、目の中に汗をかいていた。
61-2☑
俺にもあんな生活が手の中にあったのに。
子らがお父さんとまとわりついてきたり、あなた、と
呼びかけてくれた元妻。
子供たちとはこれからも面会するつもりだからこの先も父親として
認定はしてくれるだろうけれど、互いに一緒に過ごす時間は圧倒的に
薫くんや元妻とは差が出てくるだろう。
時間の経過と共にその差はいかんともしがたく大きいものとなって
いくだろう。 到底あのふたりに適う日は来ない。
それを改めて認識させられ、俺は己のこれまでの生活態度や選択が
大きく間違ってたんじゃないかと後悔に襲われた。
好きな仕事が出来て充実感があり、俺は幸せだった。
だがそれで家族を失うなぞ本末転倒というものだ。
もはや今となっては、仕事は俺に生き甲斐をくれるものでもなく
幸せにしてくれるツールでもなかった。
それどころか俺から家族を根こそぎ奪っていった悪しきものと
なってさえいる。
生きる気力もなくなっている自分に気付いた。辛かった。
取り戻せない過去が辛いのだ。
皮肉なものだな。
ひとり身で身軽になっていくらでも好きなだけ仕事が出来るのに
もはや仕事は生きがいにはならないようだ。
なんというパラドックス。
人生はどうしてこうもままならないのだ。