「ミハル…?ほら、そろそろ起きて」
心地よい眠りから、意識を戻される。
「あ、寝ちゃってた…」
「先にシャワー浴びたら?そろそろ時間でしょ?」
「うん…」
時計を見る、3時半になろうとしていた。
ユニットバスのゴミ箱に丸められたティッシュとコンドームの袋があった。遊んでいるだけに用心もしているんだと思う。そこには安心した。
___ピルを飲んでるからいいんだけど
それを言ってしまうと、それが目的な女だと思われそうで言わなかった。生理痛がひどいので婦人科の先生の勧めで飲んでるんだけど。
簡単にシャワーを浴びて、翔馬と入れ替わる。持ってきたメイク道具でメイクを直していく。
「やっぱりさ、女ってそういう準備はしっかりしてるよね?」
「あ、そんなつもりじゃないんだけど、メイクって何もしなくても崩れてしまうから、だから、持ち歩いてて」
「いいよ、そんなこと。お陰でどんなに乱れても普通の顔に戻れるんだもんね」
「あ、うん」
___乱れても…か、乱れたよね、すごく
口紅を塗っていたら、ぎゅっと抱きしめられた。
「綺麗だったよ、ミハル。あんなミハルは他の男に見せちゃダメだ、俺だけのものにしたいよ」
「あ、そんな…」
後ろから耳たぶを甘噛みされた。おさまっていたカラダの熱が、またもわっと蘇り思わず身震いをしてしまう。
「感じたの?まだ、足りなかった?」
「ち、ちがう!」
改めて言われると、恥ずかしくてたまらない。
「恥ずかしがらないで。また、してあげるから。あんなミハルをまた見たいからね」
抱きしめられた腕を私も抱きしめ返し、振り返って口づけた。
「ミハル?」
「はい」
「俺のこと、好きになって」
「好き、好きです」
「愛して」
「あ…愛してます」
「いい子だね、ミハル。うれしいよ」
「…はい」
子供を誉めるように頭を撫でてくれた。
4時になった。
もっとこうしていたいと思いながら、急いで家に帰らないといけないと思う私がいる。
駅まで送ってもらった。
「ミハル、あとで鏡に映してよく自分を見て。とても綺麗になったよ。じゃ、またね」
「はい、また…」
“また”会いたいと強く思った。
電車に乗って、窓ガラスに映る自分の姿を見た。さっきまで、あの場所であんなことやこんなことをしていた女だと思うと、胸の辺りがざわざわする。してしまったという後悔はなかった。ただなんとなく、今朝までの自分とは違うと感じた。
家に帰り、朝のうちに下ごしらえをしていた晩ご飯を用意する。洗濯物を取り込み、掃除機をかけて家族の帰りを待つ。
「ただいま!お母さん、お土産は?」
「あ、美味しいケーキ屋さんが近くになかったからコンビニスイーツで許して!」
「ま、いいけど」
「ただいま、晩飯何?」
伊織も帰ってきた。
ぴこん🎶
『残業で遅くなる。晩ご飯は食べて帰るからいらない』
夫からのLINEにも、気が滅入ることもない。
お風呂に入って裸の自分の姿を見た。
___うん、綺麗になった気がする
翔馬が言ったのは、まんざらでもない気がした。細胞のひとつひとつまでがイキイキとしてるように見える。
___満たされるってこういうことかもしれないな
数時間前まで翔馬と繋がっていたソコを、そっと自分で触れた。