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「環何か言ったか?」
鷹夜様の紫紺の瞳が私を優しく見つめた。
それが私がここに居る、何よりの証拠だと思い違う言葉を紡ぐ。
「──はい。先日、ばあやに久しぶりに会って、元気そうでよかったなって」
「それは本当によかった。俺たちの祝言には出て貰わないといけないから、ご挨拶も兼ねて今度は俺も一緒に行きたい」
「はいっ。ばあやも喜ぶと思います。ところで鷹夜様、公園を抜けて……この辺は住宅街ですよね。誰か、人に会いに来たのですか?」
周囲は閑静な住宅地。道も舗装されていて歩きやすい。左右を見渡せば、洋風の建物や立派な二階建ての日本家屋が連なる高級住宅地。
ここに鷹夜様の知り合いが、いるのだろうかと思った。
すると鷹夜様が歩を止めて、私の手からラムネ瓶を手に取り。こくっと飲んだあと、私の唇へと冷たい瓶を触れさせた。
「それはまだ秘密だ。行けばわかる。ほら、早く飲まないとラムネが温くなるぞ」
鷹夜様の悪戯っぽい表情と、冷えたガラス瓶の感触。間接的な口付けに上手く言葉が出せず。もごもごしてしまう。
「そうそう。もう少ししたら、父が任務から帰ってくる」
わかりやすい話題の切り替え。
これは目的の場所に行くまで教えてもらえないと思った。鷹夜様からラムネを受け取り、唇を潤す。しゅわっと爽やかな、甘酸っぱい味わいに唇も軽やかに動く。
「そのことなら昨日、梅千代さんから私も聞きました。梅千代さん、とても楽しみだって」
きっと梅千代さんと、鷹夜様のご両親はとても仲が良いのだろう。
「……そうだな。梅千代さんは誰よりも楽しみだろうな……」
「鷹夜様?」
何故か鷹夜様が少しばかり視線をそらしてから、気を取り直したかのように微笑する。
「いや、なんでもない。そのときに改めて両親を紹介するから、よろしく頼む」
もちろんと頷く。
「鷹夜様のご両親にご挨拶。ちょっと緊張しちゃいますけど、梅千代さんが絶対に大丈夫だって言ってくれたし。私、楽しみですっ」
「あぁ、環ならすぐに打ち解ける」
鷹夜様の言葉に微笑み、またゆっくりと歩き出す。
他愛のない会話がふと途切れ、ラムネも飲み干したとき。鷹夜様がぴたりと止まった。
「着いた。ここに環を連れて来たかった」
そこは日差しがいい。開けた広い土地。
両隣に立派な家が建っていて、ぽっかりと空いた敷地。
「ここに、私を?」
鷹夜様は頷くと、敷地内に入り、
躊躇なくズンズンと中に入って私を手招きした。
「鷹夜様、こんな広い敷地に勝手に入っていいんですか?」
キョロキョロと辺りを見回しながら、鷹夜様の後を追う。
「問題ない。さてと、環。ここをどう思う?」
鷹夜様はどこか楽しげに笑っていた。
どうかと問われても意図が分からず、ふむと思う。
「良い場所だとは思いますが……」
改めて広い敷地を見回しても、なにもなく。ぴんと来ずに首を傾げると、鷹夜様はすっと敷地の端を指差した。
「この端などに俺は桜の木とか、紅葉。なにか四季を感じる木を植えたい」
「桜の木に紅葉?」
「──春には環と一緒に桜を愛でたい。夏には夜空を。秋には紅葉。冬は暖かな部屋で環の寝顔が見たい」
鷹夜様は指先を滑らかに動かして、奥の敷地へと指を向ける。
「車やバイクとか置ける場所も欲しいな。土蜘蛛の祠は、日当たりの良いところに建ててやりたい。他には広い居間があればいいか……そこで皆を招いて食事などをしても楽しそうだ。洋式の家か。和風か。悩ましいところだが環は……どんな家にしたい?」
「家?」
「そう。ここの土地に俺と環が住む家を、建てたいと思っている」
「!」
鷹夜様の指先が私の頬へと触れる。
紫紺の瞳を輝かせながら、鷹夜様は微笑む。
「ここで環と暮らして……いつかは環と俺の間に子供が出来て、一緒に育てて。泣いて、笑って、怒って。二人で仲良く歳をとって行きたい」
その言葉に胸が熱くなり、感極まって涙が溢れる。
「っ、……うっ」
「環、泣かなくていい。笑ってくれ」
鷹夜様は苦笑しながら私を抱きしめた。
私は鷹夜様の腕の中で嬉し泣きをしてしまう。笑いたいのに、嬉しくて嬉しくて涙が止まらない。
私は長いあいだ、頭巾を被り。暗い蔵の中でずっと過ごしてきたのだ──しかも私は九尾の狐なのに。
こんな明るい場所に導いてくれた、鷹夜様が大好きで、世界一愛おしくて、誰よりも大事で──暖かな涙のせいで、ちっとも言葉にできない。
この人に私の気持ちの全てを伝えるのには、一生そばにいても足りないと思った。
「環に笑って欲しくて、今日まで秘密にしてきたのに。ここの土地は既に予約している。環さえ気に入ってくれたら、ここを買うつもりだが、どうだ?」
「っ、こんな素敵な場所、他にないです……!」
しゃくりあげながら、なんとか言葉にする。
鷹夜様は、ほっとした様子で「良かった」と私の髪を撫でる。
すると私の唇から気持ちが溢れた。
「ここでお家を建てて、鷹夜様と一緒に過ごしていけるなんて、私はやっぱり世界一幸せな花嫁です。鷹夜様、本当にありがとう。私もあなたとずっと、ずっと、来世までも、一緒に生きていきたい……!」
鷹夜様の表情から微笑みがすっと引いて、私を見つめる眼差しが熱を帯びた。
その情熱的な眼差しに溶けてしまいそう。
「環。俺もだ。来世も俺が求婚するから、また結婚しよう」
「──はい」
幸せの重みに瞳を閉じれば、鷹夜様の唇が私の唇へと重なった。
明るくて暖かな光のなか。
幸福な感触に私はいつまでも酔いしれるのだった。
完
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駄作
#三角関係