作戦名は純情110話
ブー(振動音)(ん?メールだ)
百谷くんからだった。
犬のスタンプ
(え?何?)
「今日の夜空いてる?」
(なんでだろ?)
「まあ空いてるけど…なんで?」
「お腹すいたからさ」
(うん…?だから何?)
「そうなんだ、ご飯食べてないの?」
「うん、だから奢ってくれよ」
(え…?お金あるよね?お金持ちじゃん!)
(でもまぁ…百谷くん、企画に応じてくれたし
それぐらいしなきゃだよね。)
「分かったよ…何が食べたいの?」
「キムチチゲかな。
美味しいとこ知ってるからさ︎^_^」
「わかった」
「19時に迎えに行くから」
「はいはい笑」
(相変わらずマイペースだなぁ、
なんかあの頃が懐かしいや)
1時間後…
ブー(振動音)
「着いたよ」
「今行くね」
(突然ご飯誘ってきたり、
ほんと何考えてるかわかんないや)
会社の外に出た愛美。
(わぁ…本当に芸能人なんだな。)
そう実感したのは黒い高級車の傍に
立っている百谷くんがいたから。
なんでも様になる百谷くんだから
茶色のロングコートに
首に巻いてる黒のマフラーが
モデルみたいに似合ってた。
「寒くないのか?」
「まあまあ寒い笑」
そういった愛美。
自分のマフラーを解き、私に近づいてくる。
私の首にマフラーを巻き付ける百谷くん。
突然のことで狼狽えてしまった。
ドラマでしか見た事の無いようなことを
今やられてるから。
過去に私を想ってくれていた超人気アイドルが
私の首に自分のマフラーを巻いてくれてる。
(なんか恥ずかしい。)
「え、な、何してるの?」
「寒いかと思ってさ。」
「え、え?」
助手席のドアの開ける百谷くん。
「乗らないのか?笑」
そう言ってニヤッと笑う。
「の、乗るよ!」
(エスコートまでしちゃって…
なんか本当に変わったね。)
そんなことを思いながら車に乗った。
百谷くんに巻いてもらったマフラーからは
爽やかなムスクの香りがした。
運転する百谷くんを見ると
本当に別人みたいだった。
(色々あったんだろうな…)
「なんでご飯食べてないの?」
(忙しかったのかな?)
「木無と食べようと思ってさ︎」
「え?あはは、、、
そういえばだけど
会社に怒られたりはしないの?」
「怒られるよ。
マネージャーなしで出かけるなって」
「え?それって大丈夫なの?今からでもマネージャー呼んだ方がいいんじゃ…」
「いいよ。」
「でも百谷くんが怒られちゃうよ」
「ブハッ」
「木無って全然変わってねー
優しいのは相変わらずだな」
「えっ?」
あの時の告白を思い出した。
人の気持ちを知らずに行動する優しさは罪だと、
私の好きな漫画のセリフに則った告白。
(百谷くんが私の事をまだ好きなわけないのに、
優しくするのはダメなのかな?)
「なに緊張してんだよ笑」
「仕方ないよな。
こんなイケメンと一緒にいるんだから」
そう言ってニヤニヤする百谷くん。
「うるさいなー、百谷くんもふざけてばっかなの
は変わってないねー」
「イケメンなのは否定しないんだな?」
「いやだからー」
思わず口を閉じた。
例えナルシストでもそれは否定できない。
否定するにはあまりにも顔が…うん。
「まあそれは…だって否定したらあの企画真面目にやってくれないかもじゃん」
「俺をなんだと思ってるんだよ笑」
「俺たちって何年ぶりぐらいになるんだっけ?」
「んー10年とかかな?」
「うわ〜時間って長いな。」
「でも私はあんまり懐かしくないよ笑」
「なんで?」
「ずっとテレビとか雑誌とかに
百谷くんが出てるからさ」
「あー笑」
「そういえば橘とはもう会ってないのか?」
「えっ?あー、うん。」
「別れたのか?」
「え、あ、うん。」
「別れて正解だな。
俺あいつのこと嫌いだからさ︎。」
そう言ってニコッと悪戯っぽく笑う百谷くん。
(十年ぶりにまた会ったとか言えないよ…)
「アハハー。。。」
(苦笑い…苦笑い…苦笑いしかできない…
できれば橘くんの会話はしたくないのに…)
「あの企画なんだけど、
引き受けてくれてありがとう」
「困ってたからほんとに助かったよ~」
「いいよ別に、
でも木無が現場にいるんだよな?」
「うん、まぁ私が企画を考えたからねー」
「なら良かった」
と言って、百谷くんはニヤッと笑った。
「着いたぞ。」
(凄く綺麗な中華料理店…高そうなところ…)
百谷くんが車を降りた。
車の周りを回って、
私が座ってる助手席のドアを開けた。
(あっ、降りなきゃ…)
「あ、ありがとう。」
店の中に入ると、人気がありそうな店なのに
誰もいなかった。
「座って」
そう言って百谷くんは椅子を引いた。
「あ、うん。ありがとう…」
(なんで急にエスコートするようになったの?)
(芸能人だからマナーとかに厳しいんだろうな…)
「あー、いい店だね。」
「でも誰もいないんだね。」
「貸切してるから。」
「えっ?」
(なんで貸切してるの…?!)
「ご注文の品ですー。」
「有難う御座います。」
「そうだ、あのこと覚えてるか?」
「なに?」
「”お願い”のことだよ。」
(企画に応じる代わりにお願いを聞けって笑)
(そういう子供っぽい所は変わってないんだ)
「あー覚えてるよ。何をすればいいの?」
「俺とデートしよう」
「えっ…?!」
驚いた愛美と、相変わらず悪戯っぽい笑みを
浮かべてる百谷くん。
「えっと、どういうこと?」
「だから、デートしようって。」
(あーそういうことね、分かっちゃったよ?)
「つまりこういうことでしょ?
綺麗な人とかに言い寄られすぎて
疲れちゃったんでしょ?」
「芸能人の遊びにも飽きたから学生時代みたいに
友達として遊びたいってことでしょ?笑」
「やっぱり私の推察能力は衰えてなかっ…」
「木無ってほんと相変わらずだな。」
デートに誘ったのに、全くもって相手にされていなくて赤面していた百谷くん。
「え…?」
「デートに行こうって、
ほんとそのままの意味なんだけど。」
ガタッと椅子から立ち上がった百谷くん。
「まあいいから考えといて。」
「そろそろ帰るか。」
「えっ、あ、うん。。。」
「すみません。会計お願いします。」
「カードで。」
店員さんが百谷くんのカードを持って行った。
「えっ?百谷くん??」
「私が払うよ?」
「私が払うんじゃなかったの??」
「俺が払いたくてさ。」
(なによ。さっきは奢れって言ってた癖に。)
帰りの車の中で愛美は色々な事を考えていた。
(え?デート?なんで?私と?)
(頭おかしいんじゃないの?人気アイドルでしょ)
(女なんて選び放題じゃない。)
(でもじゃあなんで今日優しくしてたの?)
(まさか私のことが本当に好きなの?)
(え、でも本気?だったよね?どうしよう…)
行きの車では、久しぶりに再開した同級生
そんな感じの会話だったから、
デートに誘われ、意識されてることが分かった
あとの帰りの車での口数は少なかった。
(そういえば、百谷くんって
本当にイケメンだな…)
運転している姿を見ると本当に長い間会って
なかったんだと思わせられた。
(なんだか意識しちゃう…)
愛美のマンションまで車で送った百谷くん。
(ここが木無の家か…)
「送ってくれてありがとう」
「じゃあな。」
「あ、うん!またね」
ドアを開け家に入った。
(あっ、マフラー…)
(巻いてもらったまんまだった…)
バタンっとベットに倒れ込んだ愛美。
(本当に私が好きなのかな?)
(でもまさか…笑)
(次会う時どんな顔すればいいんだろう…)
(仕事で会うのに。)
(でもほんのちょっとだけ、ワクワクするかも?)
彼に巻いてもらったマフラーを解きながら、
そんなことを考えていた。
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