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かんゆ
14
春樹からは連絡がないまま、やがてひと月が過ぎふた月が過ぎた──。
彼とは一度しっかりと話をしなければならないとは思うのだけれど、ちょうど会社の決算期に当たり残業が続いたこともあって、なかなか会いに行くような機会も持てずにいた。
前に音信不通になった時には彼の方から来てくれたんだし、今度は私の方から行くべきだよね……。それに、そもそもの原因を作ったのは、私自身でもあるんだから……。
頭では理解をしていても、一度行きそびれるとやっぱり行きづらくて、仕事の忙しさにかまけて先延ばしにしている内に、いつしか三ヶ月余りが経ってしまった。
このまま別れるという選択肢も無きにしも非ずだったけれど、三年も続いた関係をうやむやに終わらせてしまってはいけないと感じて、仕事が一段落した週末の金曜日に、彼のところへ行く決心をした──。
会社帰りに電車を乗り換えて、彼のマンションがある駅に着く。
改札口を出たところで行く前に連絡をしておこうと、カバンから携帯を取り出した。
そうしてまさに電話をかけようとした、その時──
目の前を通り過ぎる、見覚えのある背中を見かけた。
春樹だと気づいて声をかけようとして、口に手をあてて立ち止まる。
彼の隣には、女性が寄り添っていた。
「春樹……」
ぼんやりと呟いて、私のそばを横切る二人連れの姿を呆然と見つめた……。
歩き去ろうとする後ろ姿に、ためらいがちに、
「春樹……」
と、もう一度小さく呼びかけた。
すると、行きかけていた彼がこちらを振り向いた。
「舞……」
私を見咎めて、
「ちょっと先に行っててもらえるか?」
傍らの彼女へ促すと、女性はもうここには何度か来ているのか、知った風な足取りで先へ歩き出して行った。
「……なんだよ、おまえ……」
彼女が駅の外に出て行くのを見届けると、春樹が改めて私の方に向き直った。
「……うん……ちょっと、あなたのところに行こうと思ってて……」
会わずにいた三ヶ月分の気まずさが、今さらのように両肩に重くのしかかってくる。
「今になって、なんの用があるって言うんだよ……」
春樹が冷めた視線を投げかける。
「……あなたに、謝ろうと思って……」
重苦しい雰囲気を拭えないまま、向かい合わせでそう口を開くと、
「だから、そんなの今さらだろうが」
取り付く島もなく私に言い返して、「じゃあ、彼女待たしてるから」と、そのまま彼が駅の構内から出て行こうとした。
「でも……」
言いよどむ私を、「でもじゃないし、」と、春樹が睨むようにも見る。
「謝ったって、どうにもならないだろ? おまえの言い訳とか、もう聞きたくはないんだよ。
だいたいわかってなかったのか? あんなに男の匂いさせて、俺のところに来ておいて……。
どれだけ心配したかわからないのに、浮気とかいい加減にしろよな……」
春樹の台詞に、ああやっぱり気づいてたんだと思った……。
「……春樹……もう無理なの?」
「無理だろ」
春樹が辛そうに目を逸らし、そう言い捨てると、「……終わりでいいだろう、俺たち」と、背を向けた。
「……春樹……」
返す言葉も見つからず、立ち尽くすしかない私に、
「おまえとはもうやり直せない……。さんざん心配した挙句の浮気って、俺の身にもなってみろよ……」
ハァ……と短いため息を吐いて、「じゃあ……な」と、春樹が離れて行く。
棒立ちで唇を噛み締めたまま、自業自得だと思う……。
どうしてもっと早くに、彼の気持ちをちゃんと考えようとしなかったんだろう……。
彼とは三年も付き合ったのに、こんな形で終わってしまうことがひどくやるせなかった。
遠くなる彼の背中を追いかけて、駅の外へ走り出る。
だけど、彼女と連れ立って歩いて行く彼のことが目に入ると、もう追うようなことはできなかった。
駅ビルの外の壁に力なく寄り掛かって、堪え切れずに溢れ出す涙に、両手で顔を覆った。
私がいけないのに、何を泣いてるのよ……。
泣いたってもう春樹との関係は戻らないし、私が犯した過ちも取り返しはつかないのに……。
(バカだ……)と、思う。
自分は救いようのないバカだとわかっていながら涙は全然止まらなくて、顔にあてた手を離すことはできなかった……。
コメント
1件
ああ……読み終えて、胸の奥がぎゅっとなりました。3ヶ月の空白、そして「今さら」という春樹の冷めた言葉が本当に痛かったです。特に「終わりでいいだろう」と言い捨てるシーン、彼の辛さも伝わってくるからなおさら切なくて。自分がいけないとわかっていながら涙が止まらないラストの描写、心情の機微が丁寧で、読んでいるこちらまでやりきれなくなりました。続きが気になります……!