テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
駅の外壁にもたれて、いつまでもぐずぐずと泣き止むことができずにいた。
……何、泣いてんのよ。泣いてる場合なんかじゃないのに……泣きやめ、私。
両目を手の平で強く押さえて、それでも後から後からこぼれてくる涙を、拳で力まかせに何度もこすった。
──と、そこへ、大きなざわめきが聞こえて、泣き顔をのろのろと上げた。
見ると、駅のロータリーに目立つ赤いランボルギーニが止まっていて、人々の視線が一斉に集まる中、
ドアを高く跳ね上げ、鷹騰社長が車から降りてきた──。
「……あっ……」
私の前へ真っ直ぐに歩いて来た社長が、
「乗れよ…」
ぐいと強く腕を引っ張った。
「でも……」
周囲の目が気になってためらうのを、
「いいから、乗れ。こんなところで、泣いてんなよ」
手が引かれ、助手席に体を押し込まれた。
「……ちゃんとシートベルトしたか」
「……うん」と頷くと、エンジン音を響かせ、車が走り出した──。
「あの、どうして……」泣き腫らした目で、ハンドルを握る彼の横顔を眺めた。
「駅に車を停めるつもりで回したら、おまえがまた泣いてたからだろう。あんな場所で……」
フロントガラスを見据えたままで話す彼に、
「でも……私とあなたとは、なんの関係もないのに……」
涙を手の甲で拭って言う。
「関係……ないと、思うのかよ?」
と、不意に彼が顔をこちらに向けた。
「だって……関係なんて、もう……」
信号で止まった車内で、彼の顔から目を背けて口にする。
「……キス、しただろ」
彼の声が低く落とされる。
「……酔っ払って、キスしただけじゃないですか……」
私たちの関係なんてそれだけで、それ以上なわけもないのにと感じる。
「キスしただけで、おまえを気にしたらいけないのかよ」
「だけど……」
彼の言葉一つに気持ちが鷲掴まれ、持って行かれそうになるのと同時に、胸が張り裂けそうなほどに息苦しい切なさが、喉元を込み上げる。
助手席で、スカートの裾を両手にぎゅっと握り締めて、
「……あなたには、彼女がいるのに……」
口にすると、こないだバーで飲んで話をした際の麗華さんの顔が、頭に思い浮かんだ。
「……麗華のことか?」
訊かれて、コクッと首を縦に振って応えた。
「……、……あいつとは、ビジネス以上の関係にはなれない……」
「え……それって、どういう意味なんですか……」
彼女の物憂げな表情が脳裏をかすめる。
「……あいつは、俺にとってはいいパートナーだが、それはただ仕事の延長線上にあるだけで、プライベートで優先してやることが、どうしてもできない……」
ひと息をついて、鷹騰社長がそう苦言を吐き出した──。
「だけど、そんなのって……」
『優先されるのは、いつも仕事の方で……私のことは後回しで……』──そう話していた彼女の言葉が、つぶさに思い出される。
「ああ、情けないよな……」
鷹騰社長が自嘲気味な言い方をして、
「……だが、彼女をうまく愛してやることができないんだ……」
息をつくと、青に変わったシグナルにアクセルを踏み込んだ。
「私も、同じなのかも……」
ようやく涙が抑まってきて、ぽつりと呟く。
「同じって、何があったんだよ? あんなところで泣くとか……」
「……うん…」と、ひと呼吸を置いて、「……振られたの、彼氏に……」と、打ち明けた。
「彼氏って、あの時のか?」
鷹騰社長が横目に私を一瞥する。
「そう、前にエレベーターで会った、あの彼に……」
「なんで別れたんだよ?」
変わらないストレートな口ぶりに、どうしようもなく心が惑わされてしまう。
「こないだのことで、すれ違ちゃったから……」
「こないだ?」
私の答えに一瞬考えるような間があった後に、「ああ、俺とのキスのことか……」と、鷹騰社長が呟いた……。
コメント
1件
ああ、もうこのシーン大好き……! 駅で泣いてるとこに赤いランボルギーニで現れて「乗れよ」って腕引く社長、かっこよすぎるだろ。でもその後の「キスしただろ」からの「あいつとはビジネス以上の関係にはなれない」って告白は重いな……。主人公も彼氏に振られたばっかで、お互い傷持ってるのが切ない。この二人、このまま進むのか気になりすぎる🔥
R
23
#執着
さぶれ
1,448