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坂沼(サカヌマ)は“パチッ“と、玄関付近にのびている依頼人の前で手を鳴らした。すると、依頼客が狂ったように家主を探して“キョロキョロ“し始めた。
『思ったより早かったのぉ?』
「後処理は誰がすると思ってんだ」
坂沼は涙目で深くため息をついた。これだから「陰陽師」なんて、金にならない仕事はキラいだ。金にならない上に、損な役ばかり回ってくる。まだキョロキョロしている依頼客を見つめながら坂沼は思った。
ーーめんどくせーな。
「あの、ここはー?」
「ああ、大丈夫です。あなたが頭を打って倒れたので、私がここへ運び込んだんです。具合はどうですか?」
「元気です。そうだったんですね、ありがとうございます。お礼をしなければいけませんね」
「いえいえとんでもない。当然のことなのでー」
「どうしたの!!!?」
ドッと床に振動が走り、ヨミカが部屋に半端卒倒するように転がり込んできた。こいつがいるのをすっかり忘れてた。
「腕が攣(ツ)ってぇ、恥ずかしくなって玄関に隠れたんだよーーーにぇッ!?」
ヨミカが余計なことを口走らないよう坂沼は口をガッと押さえた。息がかかってベタベタして気持ちが悪いが、他の方法(ヨミカの息の根を止める)よりはまだマシだ。
「ハハ..!」
焦りで声が上ずって『某マウス』じみた声が出たが、気にしてる余裕はない。
「甥が夏休みを使って遊びにきてるんです。ほら、可愛いでしょう?」
モゴモゴしているヨミカの口を押さえたまま、坂沼は、半分無理やりヨミカの頭を依頼客の方へ向かせた。バキッと音がしたかもしれないが、自業自得だ。気にしない。仕方ない。
「はぁ」
空気が抜けるような返事で依頼客は少し困ったようにうなずいた。
「その節は本当にありがとうございます。では、お邪魔になるといけないので、私はそろそろおいとましますね」
「ああ、はい」
してもいない人助けの礼を言われるのは少し変な気分だけど、まぁ、悪い気はしないな。またこの客も、されたかもどうかもわからない人助けに礼をいうなんて、どんだけ律儀なんだか。…でも、こういう心が大らかな人間に妖怪が居場所を求めてやってくるのも事実だ。坂沼は隣で珍しく大人しく浮いている妖狐をチラッとみた。妖怪は視線に気づくと『ギクッ』と口でいって目を逸らした。すこしは可愛げがある…妖怪といっても所詮子供か。ま、悪気が無かったとしても、受ける罰はしっかり受けてもらうけどな。・・ああ、そういえば。
「表に盛り塩が多めに盛ってあるので、少し手にとってつけて下さい」
坂沼は何気なさを装って依頼客にいった。
「何故ですか?丑三時でもないですよ??」
「えーと…あー。ほら、塩は傷に効くんですよ」
嘘も方便。人助けをしてるんだ。これで一級鑑定士としての威厳や徳が下がることは流石にないだろう。
「お大事に」
そして。もう、来ないでくれ。