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「あっ、すみません」
「いえいえ、いいんですよ。じゃあ、失礼します。正孝、行きましょ」
頭を下げる僕に、優しい笑みで返してくれたお母さん。
雫さんを産んでくれた人。
きっと、雫さんの優しさはお母さん譲りなんだろうな。
正孝君は、振り返りながらこちらに手を振ってくれた。
何ともいえない、あどけない笑顔。
でも、不思議だな……
正孝君には他の子ども達には無いオーラみたいなものを感じる。
彼は、絶対……
将来、榊グループを背負って立つ、頼もしい青年に成長するだろう。
雫さんは……本当にお母さんになったんだな。
「すごく可愛い子だね。正孝君か。榊さんによく似て、めちゃくちゃイケメンだ。しかも、小学6年生であんなにしっかりして。榊さんも喜んでるだろうね、あんな素晴らしい後継者がいて。雫さんは、家族のために毎日家事や子育てを頑張ってるんだね。すごいよ……母親って尊敬する」
「私なんてまだまだよ。母親として、妻として、毎日どうすればいいか、必死だよ」
「雫さんなら大丈夫だよ。ただあなたがいるだけで……家族は幸せなんだよ。だから、そんな頑張り過ぎないで」
そうだよ、ただあなたがいるだけで……
その笑顔があるだけで……
きっと、みんな幸せになれる。
それくらい、雫さんは素敵なんだから。
「相変わらず優しいね、希良君は。正孝には、優しくて明るい子になってほしいって思う。希良君みたいにね。あっ、ねえ、今日はもしかして修学旅行の引率?」
僕みたいに……って、サラッとさりげなく通り過ぎた言葉、なんか嬉しい。
「うん、そうなんだ。今は小学校の先生じゃなくて、中学校の先生してる。副担任だけどね。ちょっと自分の中でいろいろ考えて、環境変えたくて……」
「中学校の先生なの? そっかぁ、正孝も来年から中学生だから、希良君みたいな素敵な先生に教えてもらえるといいんだけどな。本当にすごいね、希良君はずっと夢を実現し続けてるんだ」
もし、正孝君が僕の生徒だったら?
だったら、雫さんに……また会えるの?
いや、ダメだ、そんな不純な理由で教師をしてちゃいけないだろ。
僕は、頭の中の妄想を急いで消去した。
一瞬でもバカなことを思った自分が恥ずかしくなった。
「そ、そんな立派なことじゃないよ。勉強はもちろん、生徒との関わりとか、親御さんへの対応とか……まあ、いろいろ大変なことはたくさんあるけど、でも、今はすごくやり甲斐を持って頑張れてるから。それより、雫さんは?」
雫さんの今、すごく知りたい。
「私は……今ね、手作りのパンを売ってるの。週2回だけど、お家でね。ご近所の方が買いに来てくれたり、そこそこ評判もいいの。美味しいって言ってくれるお客様の顔を見たら元気になれるから。毎日すごく楽しくて」
優しく微笑む雫さん。