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さて、コユキと善悪、そして仲間達は、この後も魔法を使える人間と、協力してくれる悪魔の数を増やしながら、順調に地上の魔力災害を抑えつつ、二十三年の歳月を過ごす事となった。
前回の周回で地球を滅ぼしたデイモスの接近を間近に控え、各国の宇宙当局は消極的ながらマスコミに発表し、識者の終末論が様々なメディアに溢れかえっていた。
揃って六十六才になったコユキと善悪は、幸福寺の本堂に集まった仲間達の代表者を前に、二十五年間決めかねていた、デイモス対処方法について説明を始めたのである。
コユキの声だ。
「やはり…… パターンφ(ファイ)しか、無いようだわね……」
善悪も続く。
「ああ、φ(ファイ)だな…… 皆で往くしかなかろうな…… 皆の者、覚悟は良いか?」
意気揚々と答えたのは、二人に次ぐ実力者、サタナキアの声であった。
「無論だ! コユキ姉、善悪兄、この期に及んで旅立ちを恐れる者など皆無だ、心を乱さず只々、命じてくれれば良い、そうだろう? アスタ兄、バアル姉?」
二柱の魔神も一切躊躇を見せずに答えた。
「無論だ」
「当然だよね、往こうよっ! 姉様、兄様ぁ!」
六十二才になったリエが落ち着いた声で言う。
「判ったよ、それでアタシ達は予(かね)てより話し合ってきた通りの対応でいいのよね? ユキ姉?」
この声にコユキより早く答えたのは真ん中の姉、齢(よわい)六十四歳になったリョウコである。
「聞くまでも無いでしょうに、アタシ達はコユキと善悪ちゃんの指示通り、自分の役目を果たすだけじゃろうて……」
リエはすぐ上の姉に答えた。
「百も承知の上で聞いたんだよ、もう一度、はっきりとユキ姉とよしおちゃんから聞きたかっただけじゃないのっ! ねえ、皆?」
周りに集まった悪魔も家族も協力者たる人間も魔獣達も、リエの言葉に苦笑いを浮かべて静かな笑い声を漏らしていた。
『聖女と愉快な仲間たち』の副将にして、バアル、アスタロトを凌いで、サタナキアに次ぐ魔神となった忠臣、イーチが集った面々を嗜(たしな)める声が響いた。
「旅立ちに際して自嘲(じちょう)の声は要らぬ、静かに聞こうではないか、我が同胞よ、尊(たっと)きお方の言葉であろう? これは、この地に残り戦いを続ける、人々に対しての手向けである! 今暫(しば)し、静かに耳を傾けようではないか? 違うか?」
この言葉に、この場に集う魔王、大魔王、魔神達は揃って無言を答えとして、残される人々や魔獣は期待を込めた瞳でコユキに注目したのであった。
コユキは言う。
「みんな、聞いてちょうだい! デイモスの衝突が目前に迫ったけれど、世界各国の政府は、私達が期待していた有効な手段を打つ事は出来ない、と言うよりやはり不可能らしいわ! この二十数年間に起こった食糧難や頻発したインフラの消失、とりわけ世界各地の原子力発電所で発生した事故の後処理に追われる欧米ロシア中国には、この事態に対応するだけの余裕も方策も残っていない、そう言う事ね…… ここは以前より話し合ってきた通り、私達、悪魔が空に戻ってこの星を守る、所謂(いわゆる)パターンφ(ファイ)、別名『皆で昇天、ドンジャラホイ作戦』を決行するしかないとの判断に至った訳よ、おのおの覚悟を決めてちょうだい! 頼むわよ!」
本堂に集まった幹部達が、真剣な表情で頷くのを確認した後、善悪が言葉を続ける。
「天空に向かう悪魔は勿論ドンジャラホイ、ヘイッだが、地上に残る皆も気を引き締めるのだぞ、我々が去った後、地上をモンスターの襲来や魔力災害から守るのは困難を極める事だろう…… だが、仲間と力を合わせて勝ち抜いて欲しい! 世界を、頼むぞ、皆の衆」
この言葉には、地上に残るリエやリョウコを始めとする人間達とスカンダ、ガネーシャ、フンババ、カルラ、カルキノス、アフラ・マズダ、カーリー達が神妙な面持ちで繰り返しの頷きを返している。
アスタロトと共に昇天を決定しているトシ子、もうすぐ百二十歳を迎える見た目は小娘が言った。
「大丈夫じゃなーい? こんな状況だからさー、家畜とか減るっしょ? 逆に話が通じる魔獣の元の野生動物は増えるだろーし! 暫(しばら)く気をつければ楽勝っしょ?」
気楽そうな長老を善悪が嗜(たしな)める。
「師匠、油断は大敵ですよ、今後何が起こるかは誰にもわからない…… 先入観を捨ててあらゆる事態に対処できるように、綿密に、親密に、詳密に、心と言葉、思いを一つに様々な事態を乗り越えて貰わないといけないのでは?」
「励ましたんじゃないのよ! 全く、孫が出来たら少しはその石頭も治るかと思ったのに、ますます口煩くなったわねー、この杓子定規(しゃくしじょうぎ)坊主め!」
「なっ? 師匠こそ若返る度に軽率になっているでしょうが! 年相応に慎重になってくだされ!」
「ふんっ! 五月蝿い(うるさい)くそ坊主っ!」