──忙しい彼からの連絡はいつも間隔が空くことが多くて、とても待ち遠しかった。
だからその日、着信画面に久我 貴仁の名前を見つけて、私はスマホに飛びついた。
「……君か。連絡が遅くなって、悪いな」
「いえ、そんな、全然悪くなんて……」スマホを耳に押し当てたまま首を振って、「待っていたから、うれしいです」と、心待ちにしていた気持ちを伝えた。
「待っていてもらえて、私もうれしい。実は今日は──、」と、彼が切り出す。
「君に話があって、電話をしたんだ」
「……話、ですか?」
話って一体何だろうと思う。
「うん……その、だな……」
言いづらそうに口ごもる彼に、もしかして以前のようなトラブルが再び起きて、またしばらく会えなくなるというようなことじゃなければいいな……と、ふと勘ぐった。
「ああー……っと、話しにくいな……」
通話口から、深いため息がこぼれてくる。
「あの……、どんなお話で……?」
さすがに様子が気になってきた私に、
「そう、だな……」
とだけ、彼は曖昧な頷きを返した。
「……すまない。うまくは言えそうにないから、要件のみを伝えておく」
そうして、やや早口にそう告げると、
「明日の土曜日に、見てほしいテレビ番組がある」
と、ごく手短かに話した。
「……テレビ番組、ですか?」
やっぱり仕事絡みで何かがあって、それが番組内で告知されるのかなと、さらに疑ってしまう。
「ああ、番組名と時間、局などの詳細は後でSNSに送るから。……話は、その、それだけだ」
相変わらず歯切れの悪い言い方をして、
「また会う時間は、その後で作るから」
と、彼は申し訳なさそうにも付け加えた。
「あっ、はい。では見てみますね」
わけもよくわからなくて、もやもやとしたままで返事をした。
「うん、それじゃあまた、連絡する」
どこかそそくさとした様子で、電話が切られて、本当にどうしたんだろうと考えてみるけれど、あまり見当もつかなくて、やっぱり明日を待つしかないように思うと、得も言われぬ緊迫感が押し寄せてきた……。