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タクヤ
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コメント
1件
うわ、これ……めっちゃ刺さったわ。 「近いのに遠い」って感覚、すごく分かる。 秀哉が「やめてほしい」って言ったシーン、声に出して言うの勇気いるよな。 政裕の視点で「逃げてたのは自分」って気づくところも、胸がぎゅっとなった。 距離の取り方一つでこんなに切なくなるんだな……続き、めっちゃ気になる🔥
【 第3話 】 秀哉 視点 .
「 近づく理由がなくなっていく 」
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あれから数週間 。
新しいCMの撮影は、朝から慌ただしかった。
テーマは
「日常の中にある、さりげない美しさ」。
派手な演出はなく、表情と空気だけで成立させるタイプの映像だという。
秀哉はスタジオに入った瞬間、すぐに理解した。
こういう現場は、静かなのに疲れる。
視線、光、間。
全部が “ 見られていること ” を前提にしている。
スタッフに軽く挨拶をして進む中、
一人の名前が耳に入った。
「 今回のメイク、政裕さんらしいですよ 」
一瞬、足が止まる。
聞き間違いじゃない。
政裕って名前。
その名前だけが、やけに空気から浮いていた。
・
・
・
そして 、
メイクルームのドアの前で、秀哉は一度だけ息を整えた。
偶然の現場じゃない。
スケジュールの中で、同じ場所に “ 配置された ” だけ。
それでも、胸の奥が静かにざわつく。
ドアを開ける。
ガチャ ッ …
中に居座っていた政裕は、すぐにこちらを見た。
目が合う。
ほんの一瞬。
時間が止まったような気がしたのは、どちらの錯覚だったのか分からない。
政裕はすぐに視線を外し、何もなかったように言う。
「 ……ここに座ってください 」
その声は、前と同じだった。
なのに、少しだけ遠い。
椅子に座ると、すぐに鏡の前に映る自分と向き合うことになる。
その背後に、政裕が立つ。
距離は近い。
近すぎるくらいなのに、不思議と触れられていない気がする。
ブラシが頬に触れる。
指が前髪を分ける。
そのどれもが正確で、無駄がなくて、仕事そのものだった。
秀哉は気づく。
この人、前より “ 触れないようにしてる ”
そう思った瞬間、自分の中の何かが少しだけ揺れた。
「 今回のCM、動き少ないですよね 」
秀哉が何気なく言うと、政裕の手が一瞬だけ止まる。
すぐに何事もなかったように続ける。
「そのほうが、伝わるものもあるので」
淡々とした答え。
でもその “ 間 ” が、やけに長く感じられた。
・
・
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撮影が始まると、スタジオの空気はさらに静かになった。
カメラの前に立つと、秀哉は
「表情だけで見せる」
と いう意味を思い知らされる。
笑う。
目線を動かす。
少しだけ近づく。
その繰り返し。
同じ動作を、角度を変えながら何度も繰り返す。
そのたびに、同じ “ 距離 ” が作られていく。
その距離の中に、妙な違和感が積もっていく。
さっきより近いはずなのに、遠い
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
休憩時間。
メイク直しのために戻ると、政裕はすでに次の準備をしていた。
「 こっち 秀哉 。」
短く呼ばれて、椅子に座る。
顔を上げると、政裕がすぐ目の前にいる。
近い。
なのに、どこにも触れられない。
触れそうな距離を、ずっと避けている。
秀哉はふと口を開いた。
「 ……こういう現場、前もありましたっけ 」
政裕の動きが、ほんの一瞬だけ止まる。
「 ……仕事としては、初めてですね 」
それだけ言って、また手を動かす。
その声に、余計な感情は何も乗っていない。
なのに、なぜかそれが一番引っかかった。
午後の撮影はさらにテンポが速くなった。
カットが切り替わるたびに、同じ表情、同じ距離、同じ空気が作られる。
ただ違うのは、その中心にいる自分の感覚だけだった。
秀哉は何度目かのカットで気づく。
政裕の視線が、一度だけこちらに残っている。
必要以上に長くもなく、短くもない。
でも確かに “ 見ていた ” 時間がある。
撮影の合間、照明の影で一瞬だけ二人が並ぶ。
誰も気にしていない距離。
なのに、その距離がやけに狭い。
政裕が小さく息を吐く。
何かを言いかけて、やめる。
その仕草に、秀哉は気づいてしまう。
言わないことのほうが多い人なんだ …
夕方、最後のカットが終わる。
「 OKです ! 」
スタジオに安堵の空気が流れる。
秀哉は軽く頭を下げる。
「 お疲れさまでし た」
政裕も同じように言う。
「 …お疲れさまでした 」
それだけ。
それだけなのに、なぜか終わった感じがしない。
機材が片付けられていく中、政裕は一度だけ秀哉を見る。
何かを言いかける。
ほんの一瞬、口が開きかけて、閉じる。
そのまま視線を外す。
「 …問題なかったです 」
それだけ言って、背を向ける。
ドアが閉まったあと、スタジオの音だけが残る。
秀哉はしばらくその場に立っていた。
今日の撮影は成功だった。
何も問題はなかった。
それなのに、胸の奥だけが静かにざわついている。
今日の距離、前より近かったはずなのに
いちばん遠かった気がする …
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撮影が終わっても、スタジオの空気はすぐには戻らなかった。
照明が落ちていく中で、スタッフたちの声だけが少しずつ現実に戻していく。
機材の片付け音が、やけに大きく聞こえた。
秀哉はその場に立ったまま、ぼんやりと天井を見ていた。
今日の撮影は問題なく終わった。
むしろ出来は良かったと言われた。
それなのに、胸の奥だけが落ち着かない。
なんで、こんなに疲れてるんだろう …
その理由を、薄々分かっている自分が一番嫌だった。
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メイクルームの前を通ったとき、足が止まる。
中にいる気配がする。
政裕がまだ片付けをしているのかもしれない。
入る理由なんてないのに、動けなかった。
ほんの数秒。
ただそれだけの時間なのに、呼吸が少しだけ浅くなる。
ドアに手をかけた瞬間、中から声がした。
「 ……どうかしましたか 」
政裕の声だった。
気づかれている。
秀哉は一度だけ目を閉じて、それから中に入った。
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メイクルームはもうほとんど片付いていた。
鏡の前に政裕が一人で立っている。
さっきまで人の気配で満ちていた場所が、急に静かに見えた。
「 忘れ物でも ? 」
政裕はいつも通りの声で言う。
その “ いつも通り ” が、今日はいちばんきつかった。
秀哉は一度だけ笑おうとして、失敗した。
「 ……別に、ないです 」
沈黙。
それ以上の言葉が出ない。
出さないようにしているのが、自分でも分かる。
政裕は軽く視線を落としたまま、ブラシを片付けている。
その手元だけが動いている。
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「 今日のCM、良かったと思うよ 」
政裕が言う。
仕事としての言葉。
完璧な距離。
その瞬間、何かがぷつりと切れた。
秀哉は気づいたときには口を開いていた。
「 ……そういうの、やめてもらえますか 」
政裕の手が止まる。
空気が一瞬だけ変わる。
「 どれのことですか 」
静かな声。
責めてもいないし、逃げてもいない。
ただ確認しているだけの声。
それが余計に腹立たしかった。
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秀哉は一度だけ息を吸う。
「 全部です 」
言ってから、自分でも驚くくらい静かだった。
でも止まらなかった。
「 仕事としてって、そういう距離なのは分かってます 」
「 でも、今日ずっと…… 」
言葉が詰まる。
喉の奥が重い。
少し間が空く。
それでも続けた。
「 ……近いのに、いちばん遠いの、やめてほしいです 」
言い切った瞬間、部屋の音が全部消えた気がした。
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政裕は動かなかった。
すぐに返事もなかった。
ただ、少しだけ視線が揺れた。
それを見てしまったことが、秀哉には一番きつかった。
「 ……すみません 」
政裕がようやく言う。
謝罪なのか、仕事としての反応なのか分からない。
でもその言葉は、いつも通り “ 正しい距離 ” に戻そうとしていた。
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秀哉は一度だけ目を伏せる。
違うよ …
そう思った。
でも、それ以上は言えなかった。
言ったら崩れる気がした。
だから代わりに、もう一言だけ落とした。
「 ……別に、責めてるわけじゃないです 」
その声は少しだけ小さかった。
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沈黙のあと、政裕はゆっくりと視線を上げる。
鏡越しに、目が合う。
さっきより近いはずなのに、やっぱり遠い。
「 ……なら、どうすればいいんですか 」
政裕の声は低かった。
その問いは、答えを求めていないようでいて、少しだけ違った。
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秀哉は答えられなかった。
代わりに、ただ一度だけ視線を逸らす。
「 ……分かんないです 」
それが本音だった。
少しの沈黙のあと、政裕はゆっくりと息を吐いた。
「 ……俺の仕事は、ちゃんとします 」
それだけ言って、また手を動かす。
距離は戻った。
いつも通りの距離に。
でも戻った瞬間に、さっきよりもっと遠くなった気がした。
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その後 、秀哉は何も言わず、メイクルームを出た。
廊下に出てから、ようやく呼吸が戻る。
胸の奥が痛いのに、理由は分かっている。
言わなきゃよかったのかな …
でも同時に思う。
でも、言わないともっと無理だったから…
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ドアの向こうでは、政裕がまだそこにいる。
同じ空間にいるのに、もう触れられない距離。
それが一番、苦しかった。
・
・
・
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Masahiro’s Mind ༘⋆ ꙳ ꕀ
あの日の撮影が終わってから、ずっと頭の中が静かじゃなかった。
仕事は問題なく終わった。
ミスもない。段取りも完璧だった。
なのに、どこか一つだけ引っかかっている。
理由は分かっている。
あの言葉だ。
「 近いのに、いちばん遠いのやめてほしい 」
最初は、ただの仕事の一部だと思っていた。
秀哉は被写体。
自分はメイクアップアーティスト。
それだけの関係。
触れるのも、距離を取るのも、すべて仕事のため。
そう割り切れば、何も問題はないはずだった。
でも違った。
“ 近い ” からこそ、ずっと意識してしまう。
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あのメイク中もそうだった。
頬に触れる指の感覚。
呼吸の距離。
目を上げたときの視線。
全部、必要以上に意識しないようにしていた。
意識した瞬間に、崩れる気がしたからだ。
これら仕事だ …
何度も心の中で繰り返した。
仕事だから問題ない。
仕事だから、近くてもいい。
そうじゃないと説明がつかなかった。
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でも一番問題だったのは、
自分が “ 距離を取っている理由 ” を説明できなかったことだった。
近いのに、怖い。
触れてしまいそうで、怖い。
それが何なのか分からないまま、手だけが正確に動いていた。
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そして、あの言葉。
「やめてほしいです」
あの瞬間、初めて気づいた。
自分が“逃げている”ことを。
距離を保っているつもりで、
実は一番逃げていたのは
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でも、どうすればいいのか分からなかった。
近づけばいいのか。
今まで通りなのかは知らないけど 、離れればいいのか。
それとも、何もなかったことにすればいいのか。
どれを選んでも、どこかが間違う気がした。
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だから次の現場で、
できるだけ“正しく”振る舞った。
必要以上に触れない。
必要以上に見ない。
必要以上に近づかない。
全部、仕事として完璧な距離。
でも、それは“戻した距離”じゃなかった。
“壊さないための距離”だった。
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秀哉がこちらを見たとき、少しだけ心が揺れた。
でもその揺れを見せるわけにはいかなかった。
見せたら、終わる気がした。
何が終わるのかは分からないのに。
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本当はずっと分かっていた。
距離の問題じゃない。
仕事の問題でもない。
“ 意識してしまっていること ” そのものが、
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撮影が終わって、秀哉が去ったあと。
メイクルームに一人残った政裕は、無意識に手を見ていた。
さっきまで、そこにあった温度を思い出す。
必要な動きだった。
仕事として正しかった。
そう分かっているのに、指先だけが少しだけ遅れていた。
あれ以上近づいたら、どうなるんだろう …
考えてしまったことが、いちばんまずかった。
✦・・┈┈┈・・✦・・┈┈┈・・✦
そして、気づく。
“ 離れたかった ” んじゃない。
“ 離れないと保てなかった ” だけだ。
でももう、その理由すら曖昧になっている。
・
・
・
NEXT …
「 本音だけは消えないでほしい 」