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【 第4話 】秀哉 視点 .
「 本音だけは消えないでほしい 」
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あの撮影から数日経っていた。
仕事は普通に続いている。
スケジュールも、現場も、いつも通り。
なのに、自分の中だけがまだ少しだけ遅れている。
あれでよかったのかな …
何度考えても、答えは出ないままだった。
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あの日、言ってしまった言葉。
「 全部です 」
思い出すたびに、胸の奥が重くなる。
責めたかったわけじゃない。
困らせたかったわけでもない。
ただ、もう限界だっただけだ。
普通の距離 ” でいることが。
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次の現場は、また別の撮影だった。
スタジオに入ると、いつも通りの空気が流れている。
スタッフの声。
機材の音。
光の調整。
全部、ちゃんとしている世界。
その中で名前が呼ばれる。
「本日のメイク 、政裕さんです」
一瞬だけ、呼吸が浅くなる。
……まただ 、
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視線を向けると、そこに政裕はもういた。
何事もなかったように準備をしている。
目は合わない。
合わないというより、“ 合わせていない ” 。
その事実だけで、少しだけ胸がざわつく。
避けてる?
それとも、普通に戻っただけ?
どっちなのか分からないのが一番しんどい。
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メイクルームに入る。
「 …お願いします 」
それだけで始まる距離。
政裕さんの手はいつも通り正確だった。
近いのに、必要最低限だけで終わる。
余白がない。
前はその “ 余白のなさ ” が気になった。
でも今日は違う。
ちゃんと線を引かれてる 。しかも絶対に超えられない境界線が …
そう感じてしまった。
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鏡越しに見える政裕さんは、静かだった。
仕事として完璧な顔。
でも、その完璧さが少しだけ怖い。
秀哉は無意識に口を開く。
「 ……この前のこと 」
政裕さんの手が止まる。
一瞬だけ。
でもすぐに動く。
「 気にしてないですよね 」
言葉が途中で切れる。
自分でも何を言おうとしたのか分からないまま、止まる。
3,519
タクヤ
85
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政裕さんは何も言わない。
ただ、視線だけが少し下がる。
その沈黙が答えみたいで、逆に苦しい。
ああ、やっぱり …
そう思った瞬間、胸の奥がきゅっと締まった。
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でも本当は違う。
“ 気にしてるかどうか ” じゃない。
“ なかったことにされること ” が、嫌だった。
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撮影中。
カメラの前ではいつも通りに振る舞う。
笑って、動いて、距離を作る。
でも、その距離が今日はやけに遠く感じた。
政裕の視線も同じ。
必要な時しか来ない。
前はもっと、無意識にそこにあった気がするのに。
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休憩中。
控室に戻ると、政裕さんはすでに片付けをしていた。
すれ違う。
会話はない。
でも、完全に無関係ではいられない距離。
その中途半端さが一番つらい。
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より戻したいのは、こっちなのに …
そう思ってしまう自分がいる。
あの一言を言ったのは自分だ。
でも、戻された距離に納得できていない。
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撮影終了。
「お疲れさまでした」
政裕の声は変わらない。
完璧な仕事の声。
でも、その完璧さが、少しだけ怖い。
秀哉も同じように返す。
「 お疲れさまでした 」
その瞬間だけ、ほんの少しだけ遅れた。
その “ 遅れ ” に、自分で気づいてしまう。
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控室の外。
秀哉は一人で立ち止まる。
これでよかったんだよな 、
問いかけても答えは出ない。
ただ一つだけ分かるのは、
“ 前より近いのに、前より遠い ” ということだった。
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ドアの向こうで、政裕さんはまだそこにいる。
同じ現場。
同じ時間。
でも、もう同じ距離ではいられないまま _
そのまま今日は終わってしまった 。
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違う日 。
その日は朝から少しだけ現場が慌ただしかった。
CMの追加カット。
急なスケジュール変更。
そして 、スタッフの移動も多い。
いつもより少しだけ、空気が落ち着いていない。
秀哉はその中で、淡々と準備を進めていた。
今日は、普通でいい … 平常心を保て 。
そう思おうとしていた。
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いつも通りメイクルームの扉が開く。
一瞬だけ、呼吸が止まる。
今日は珍しく後から政裕さんが入ってくる。
そしてすぐに目が合う。
でも、すぐに逸れる。
それだけで終わるはずの再会。
今までは、それでよかった …
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「 お願いします 。」
それだけで距離が始まる。
政裕の手は、いつも通り正確だった。
近いのに、必要以上には踏み込まない。
いつからだろうか …
その “ 線 ” が、逆に見えるようになっていた。
秀哉は無意識に息を止める。
まだ、戻ってない …
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そのときだった。
スタッフの声が廊下から響く。
「 すみません、少し押さえてください ! 」
バタバタとした足音。
次の準備が重なって、部屋の外が慌ただしくなる。
その瞬間、誰かがドアを押し開けた。
中にいたスタッフが機材を運ぼうとして──
バランスを崩した。
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「 ッ … 」
反射だった。
秀哉が体を避けようとした瞬間、
後ろにいた政裕とぶつかる。
そのまま、体勢が崩れた。
一瞬、時間が止まるかのようだった 。
視界が揺れて、誰かの声が遠くなる。
気づいたときには _ 、俺は
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静かだった。
一瞬だけ、本当に音が消えたみたいだった。
距離は ゼロ。 漫画でしか見た事ない 。
それ以上でも以下でもない状態。
秀哉は動けなかった。
政裕さんの手が、肩を支えている。
離れられない位置。
離れたら体勢が崩れる位置。
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政裕さんも、動かなかった。
正確には、動けなかった。
呼吸だけが、やけに近い。
ほんの少しの沈黙の中で、時間が異常に長く感じられる。
これはまずい ッ … !
でも、どこがまずいのか分からなかった。
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「 ……大丈夫ですか 」
その声はいつも以上に低かった。
仕事の声のはずなのに、少しだけ揺れていた。
すぐに返事ができなかった。
だって … 近すぎる。
距離が、意味を失っている。
「 ……はい 」
やっと言えた言葉がそれだけ。
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でも、離れない。
離れられないまま、数秒が過ぎる。
その数秒が、今までのどの距離よりも長い。
政裕の手が少しだけ動く。
離そうとしている。
でも、その動きが一瞬だけ遅れる。
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その “ 遅れ ” を、秀哉は見てしまった。
今、離れたくなかった … ?
そんなはずないのに。
そう思った瞬間、胸の奥が変に熱くなる。
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「 ……すみません 」
政裕がようやく手を離す。
距離が戻る。
たった数十センチ。
でも、その数十センチがやけに遠い。
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スタッフは何事もなかったように戻っていく。
現場はすぐに通常に戻る。
でも二人だけ、戻れていなかった。
さっきの数秒だけが、異常に残っている。
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撮影中。
カメラの前で並ぶ。
いつも通りの距離。
なのに、違う。
近くなったわけじゃない。
“ 近かった記憶 ” だけが残っている。
それが一番厄介だった。
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休憩中。
誰もそのことには触れない。
触れられるはずがない。
でも、空気だけが違う。
さっきの “ 事故 ” だけが、まだ消えていない。
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秀哉は気づいてしまう。
あれが、いちばん近かった ッ …
でも同時に思う。
いちばん遠くなるきっかけでもあったのかって
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政裕さんは何も言わない。
ただ、少しだけ手を見る。
さっき触れていた場所。
もう何も残っていないはずなのに。
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ドアが閉まる音。
現実に戻る音。
2人だけは
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戻った “ ふり ” だけが、上手くなっていく。
スタッフも、カメラも、進行も、全部が普通なのに、
二人の間だけが少しだけ ズレたままだった。
秀哉はそれが、ずっと気持ち悪かった。
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再び直すためにメイクルームに入る。
「 … お願いします 」
その一言で、またいつもの距離が始まる。
政裕さんの手はいつも通り正確だった。
何もなかったみたいに触れてくる。
でも秀哉には分かってしまう。
なかったことにしようとしてる って …
ぶっちゃけ それが一番しんどい。
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ブラシが頬に触れる。
呼吸が近い。
でも、あの日とは違う。
あの日だけ、残っている。
その “ 残像 ” が邪魔をする。
秀哉は耐えきれなくなる。
「 ……政裕さん 」
政裕の手が止まる。
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「 さっきのこと … 」
一度、息を吸う。
言わない方がいいって分かってる。
でも、もう無理だった。
「 なかったことにしないでください 」
静かだった。
でも、はっきりしていた。1文字1文字が 。
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政裕さんはすぐに返さない。
少しだけ視線が揺れる。
それを見て、秀哉は気づいてしまう。
やっぱり、分かってる …
分かってるのに、戻そうとしてる。
それが余計に苦しい。
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「 今は仕事中です ッ … 」
政裕の声は低かった。
いつも通りのはずなのに、少しだけ硬い。
その一言で全て終わらせようとしている。
まだ距離を戻そうとしていない
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でも、秀哉は引かなかった。
「 仕事中でもいいです … 」
言ってから、自分でも驚くくらい静かだった。
「 でも、あれ “ 事故 ” じゃなかったです 」
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空気が止まる。
政裕さんの手が、完全に止まった。
秀哉は続ける。
「 ……一瞬だけですけど 離れようとしなかったの、分かりました 」
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沈黙。
長い沈黙。
政裕さんは視線を落とす。
何かを否定するでも、肯定するでもない。
ただ、整理できていない顔だった。
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「 ……それが、何ですか ッ 」
やっと出た言葉は、それだけだった。
逃げでもなく、答えでもない。
ただの確認。
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その瞬間、秀哉の中で何かがはっきりする。
この人も、絶対分かってる …
分かってるのに、言葉にしないだけだ。
だから、自分が言うしかない。
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「 分かんないです ッ 」
一度、笑いそうになって失敗する。
「 … でも、あれのせいで普通じゃないです ッ ! 」
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政裕さんの視線が上がる。
久しぶりに、ちゃんと見た気がした。
逃げてない目。
でも、近づいてもいない目。
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「 ……普通に戻したかったんですか 」
政裕さんの声は静かだった。
秀哉は少しだけ間を置く。
そして、首を振る。
「 戻ってないです ッ …」
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「 戻ってないのに、戻そうとしてるのが嫌なんです 」
それが本音だった。
言った瞬間、喉が少し痛かった。
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政裕は何も言わない。
でも、その沈黙はもう“距離”じゃなかった。
ただ整理できないだけの時間だった。
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少しして、政裕が小さく息を吐く。
「 ……仕事は、ちゃんとやりましょう 。」
それはいつもの言葉。
でも今日は、少しだけ遅かった。
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秀哉はそれを聞いて、ようやく気づく。
この人も、逃げてるんじゃない ッ !
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メイクルームの空気は、まだ戻らないまま。
でも、もう “ なかったこと ” かのようには戻れなかった。
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NEXT …
「 考えるほど、誤魔化せなくなる 」
コメント
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第4話、読み終わりました。秀哉の「なかったことにしないでください」って台詞、すごく刺さりました。あの事故みたいな接触の後の「遅れ」——政裕が一瞬離れようとしなかったこと、それを見逃さなかった秀哉の視線も良かった。二人だけが現実に戻れていない感じ、距離が変わったのに元に戻そうとする苦しさがひしひしと伝わってきました。最後の「止まってるだけだ」っていう気づき、次が気になります。