高校時代設定改変
モブレ
自殺未遂
入学式。
高校生にもなって大はしゃぎしている奴なんて殆ど居ないだろう、と考えながら一松は隣でキラキラと目を輝かせている弟の顔を一瞥して視線を体育館のステージへと戻した。
一松は弟のキラキラした瞳が好きだった。
自分の名前を呼ぶ声と唇が好きだった。
体力の無い自分の手を引いてくれる手と指が好きだった。
でも遠い昔に十四松へのこの想いは心のゴミ箱へ捨てた。
しかし何度捨てようともその想いはジリジリと這い上がり、一松の心を更に蝕んだ。
男女の交際のようにキラキラした青春なんてものでは無い。
一松と十四松は兄弟で、男同士だ。
その上一松は十四松に邪な気持ちを抱いていた。
そんな自分が嫌になり、一松は高校生になってから酷く暗くなった。
人と話す時はボソボソと俯き、常にマスクを付けていて虚ろな目で見詰める。
そんな一松は同級生からの恐怖の対象であった。
その上6つ子ということもあり、余程の物好きでなければ一松に話し掛けるものなんて居なかった。
教師も6つ子がどれだけ問題を起こしても教師の特権で揉み消して無関心を貫き通した。
しかし1人だけやたらめったら一松に干渉する教師がいた。
独りで居れば「先生と2人でお話しよう」
ペアで余れば「先生と2人で組もう」
体育を見学すれば「先生と2人で補習しよう」
その教師はブクブクと肥った上にいつも下卑た笑いを浮かべていて脂汗を額いっぱいに流している。
一松には汚れた豚にしか見えなかった。
だから精一杯その教師を遠ざけていつも近くに居れば逃げていた。
しかしいつまでも顔を合わせなくても済むなんてことはなくて。
高二の秋の事だった。
修学旅行の班も入らず1人で行動しようと考えていた一松の腕を脂ぎった手で掴んで荒い息で一松を誘った。
「先生と一緒の班になろうか」
ニタニタと笑う教師に迫られる一松を助ける人なんて周りには居なくて。
一松は咄嗟に鞄を持って授業中にも関わらず走って家へ帰った。
一松は教師に対して初めての恐怖で気が動転していた。
掴まれた腕の感触が未だ纒わり付く。
まだ少し暑い秋にも関わらず一松の身体は全身粟立っていた。
いっその事修学旅行なんて休んでしまおうか。
全身をを俊敏に駆け巡る嫌悪感は一松の思考を馬鹿にした。
その後は何もなく修学旅行の日になった。
一松は母親に休むと伝え、自室で勉強をしていた。
兄弟は何か言いたげだったが、一松が有無を言わせぬ様に睨むと寂しげな表情を浮かべて家を出ていった。
勉強も飽きてしまって一松はただただ空を見ていた。
時刻は正午
今頃母親が持たせてくれた弁当を食べているのかと考えたが、愛おしい顔が脳裏に浮かんでしまったので頭を左右に振って誰も居ない居間へと降りた。
卓袱台の上には母親が作り置きしてくれた昼食が乗っていたが、食べる気にならず水を1杯だけ腹に入れた。
やることも無くなり、物思いにふけるのも嫌な事を考えそうで眠ろうと考える。
うつらうつらと暗くなる視界に映る6人用の布団が酷く寂しげに敷かれていた。
目を覚ませば全身にしっとりと汗をかいており、窓から差し込む光は橙色に輝いていた。
酷く怠い身体に鞭を打ち、階下へと降りる。
布団はまた寝るのでそのままだ。
居間では母親が料理をしていた。
「あら一松。寝てたの?髪がボサボサよ。早くお風呂入っちゃって」
小さく相槌を打って脱衣所へ行く。
全身鏡に映る自分の身体は酷く痩せ細っていて、自分でさえ気持ちが悪いと思っていた。
一松は眉を顰めて八つ当たりするように風呂場のドアを強く閉めた。
わしわしと強い力で全身や頭を洗い、湯船に浸からず素早く上がる。
数分間お湯に当たっただけなのに頬は赤く、胸は動悸がしていた。
しんとした脱衣所に溜息を1つ零し、着たパーカーの袖を握って居間へと戻った。
いつの間にか帰宅していた父親と軽く会話を交わして卓袱台につく。
いつもは6つ子と両親で別れているため静かどころか賑やかなのだが、今は一松1人だった。
母親は3人で食べないかと誘ったが一松はそれを丁寧に断った。
両親が自分に気を遣っているのが雰囲気で分かる。
そんな雰囲気に口の中で舌打ちし、素早く食べ終わって逃げるように2階へ足を進めた。
その後は気付けば眠っていて丸一日寝ていたのだろう、居間では兄弟の声が響き、空は橙色に染まっていた。
きゅるる、とか細くなる腹の虫に苦笑を零し、居間へと降りる。
「…おかえり」
襖を開けて後頭部をポリポリと掻きながら労わればそれぞれ反応を返した。
一松は十四松だけ目を合わせられなくて、誰ともこれ以上は話さず2階へ上がろうとした。
しかし母親による静止の声が掛かり振り向く。
「一松、担任の先生が1人だけ行けなかったのは可哀想だから2人で出掛けてもよろしいですかって。勿論OKしといたからね。明日の朝から明後日の夕までらしいから準備しとくのよ。」
冷水を頭から浴びたような衝撃に頭がクラクラする。
「は…、?」
引き攣る顔に震える身体。
しかし母親や兄弟の手前嫌だとも言えず、あの気持ち悪い教師と1泊2日を共にすることになってしまった。
一松は絶望に打ちひしがれ、荷物を纏める手が中々進まなかった。
それでも時間は進むもので、あっという間に家を出る時間になった。
教師はぺこぺこと母親に良い顔をし、一松の手をじっとりと握って車に乗せた。
後部座席に座りたいと抗議したが教師は有無を言わせず、一松を助手席に座らせてずっと手を握っていた。
一松は手を振りほどこうにも余りにも力の差が歴然としており無駄な労力だった。
数十分間か、数時間か。
車を走らせ続けた所は新築とも言えないがボロくもない一軒家だった。
「……は。」
見上げて零れた言葉に男は振り返って話し掛ける。
「ここは僕の家だよ。ここで1泊2日過ごすんだ。僕はずっと一松君の事見てたから、その事をじっくり教えてあげるね。」
脳内に響き渡る警鐘。
息が荒くなり足が竦む。
それでも逃げなければと本能が訴える。
一松は踵を返して体力の限界まで走った。
数十分程走っただろうか。遂に限界を迎えた一松の身体はガクッと崩れ落ちた。
幸い教師より一松の方が足が早かったらしく、体力が回復して近くにあった空き地の土管に身を隠すぐらいの時間はあった。
土管の中でハッハッと犬のように短い呼吸がバレないように口に手を充てる。
一松はもしかして追ってきていないんじゃないかと土管から少しだけ顔を出した。
矢張り居ない。
家に帰るなら今の内だと土管から身を出す。
この判断がいけなかったのだ。
「みーつけた」
頭上から降る絶望を知らせる鐘。
頭に強い衝撃が走り、目の前に星が散った後、一松は意識をシャットアウトした。
目を覚ませば先程の家なのかどこか室内に居た。
一松は先程の自分の行動を酷く悔やみ、眉を顰めた。
口許には布があてがわれ、四肢は拘束されていた。
辺りを見回せば地下室のような部屋で鉄格子まで着いていた。
バタバタとまな板の上の魚のように暴れて鉄格子を両足で蹴る。
途端鉄格子の向こうの扉が開き、教師が入ってきた。
「あ、おはよう。優等生の一松君がこんなに悪い子だなんて知らなかったよ。あぁ、でも普段の憂いを帯びた表情を素晴らしいけど今の恐怖や苛立ちが混ざりあった表情もとても良いね。」
意図も容易く鉄格子を開いて一松の元へ寄る教師。
恐怖に後退ろうとするも四肢が上手く動かずイモムシのように情けなくその場で動くことしか出来なかった。
教師は逃げようとする一松に苛立ったのか思い切り一松の頬を引っ叩いた。
じんじんと鈍い痛みと熱がゆっくり一松の頬に広がる。
しかしすぐさま叩いた頬を撫でて口付けを落とした。
「布と拘束取ってあげるね」
一松は折角のチャンスをそう易々と逃すつもりは無かった。
足の拘束が外された途端、一松は教師の股間を蹴り上げた。
動物のような唸り声を上げて蹲る教師を横目に急いで駆け出す。
しかし足首を掴まれた事によってバランスが失われ地面へ倒れてしまった。
「てめえっ…!甘々プレイしようと思ってたが変更だ…っお仕置して、やるよ…」
ゼェハァと息を荒くして一松を壁へ叩き付ける。
一松の圧迫された肺からカヒュッと無様な音が鳴る。
胸に手を当てて蹲る一松の腹を蹴り上げる。
一松の口からは朝食と胃液が吐き出された。
びちゃびちゃと地面へ撒き散らされる液体を恍惚とした表情で眺める教師に喉が弱々しく鳴る。
「っき、気持ちわりぃ…!」
罵倒の言葉にも顔を歪めたが、すぐさまポケットからサバイバルナイフを取り出して一松の首へあてがった。
「威勢が良いのもいい事だがそれ以上調子に乗ればお前の大事な家族を殺す。一松は十四松とやらが好きなんだよな?一松の事なら全て知ってるぞ。良いのか?お前の勝手な行動でお前の大事な弟の未来が消えるんだ。今お前がやるべき事は分かるな?」
一松の喉は引き攣り、言葉を上手く紡げない。
一松は目尻に涙を浮かべて何度も頷いた。
途端教師は優しそうな表情を浮かべて一松の頭を撫でた。
一松は抵抗をすれば十四松が危ないと考えてただただ耐えた。
教師からの気持ち悪い愛撫も
乳頭を舐める舌の感覚も
咥内に侵入して蹂躙する舌にも
蕾を無理やり掻き分けて挿入した指や男性器も何もかも耐えた。
己より十四松。
十四松が無事ならいいのだ。
教師は終始ブツブツと何かを呟き、無反応の一松を散々辱めてついに一松の中で果てた。
一松の目には大量の涙が浮かび、頬を濡らしていた。
その1回で終われば良いのだが、それからは一松が家に帰る時までずっと一松と教師は交わっていた。
帰り際、車の中で教師がニタニタと下卑た笑いを浮かべながら一松に言い聞かせていた。
「家族や他の人に相談すれば十四松の命は無いからな。後、これから学校で僕が呼んだらすぐ来いよ。何をするかなんて分かってるだろ?…いい子だ。あぁ、もう家か。じゃあな。ちゃんと妊娠しないようにしろよ」
馬鹿にするように笑うその笑顔をぐちゃぐちゃにしたいと憎悪の感情が一松の心を蝕んだ。
背後で走り去る車の音を聞き、一松は玄関先で泣き崩れてしまった。
処理もせず大量に注ぎ込まれた精液が股を伝って垂れる。
一松は悟られないようすぐさま涙を引っ込めて玄関を潜り、真っ先に風呂へ向かった。
急いで服を脱いで身体をたわしで何度も何度も擦る。
音を聞いたチョロ松が一松に話し掛ける。
その話もすぐに終わらせて身体が赤くなるまでたわしで擦る。
いつしかたわしの毛が皮膚を破り、血が溢れた。
ピリッとした痛みに一松は正気に戻った。
立ち上がって臀部に指を遣わす。
広げれば広げる程ボトボトと落ちる泥状の白濁液。
一松の視界は涙で滲んだ。
涙も感情も落ち着き、タオルで身体を拭く。
やはり目に映るのは貧相な身体。
それに大量の噛み跡や鬱血痕。
一松は見えないところに付けられている事に少しだけ安堵し、母親に寝ると言って寝室へ向かった。
翌日、一松の心はざわつき学校へ向かう足が竦んだ。
しかし行かなければ十四松に何かあるかもしれないと考え、震える身体に鞭を打って向かった。
教室では修学旅行に行かず家にいた話でヒソヒソと陰口を言われていた。
そして朝礼が始まり、教師はニタニタと一松を見詰めていたが一松は無視して眠ることにした。
目を覚ませば既に昼。
寝ずに犯されたし眠たかったんだな、と自己解決していつも通り裏庭で弁当を食べることにした。
裏庭で1人になればやはり現れるもので。
「一松君、行こう」
呼ばれてもないのに無理やり手を引っ張って体育倉庫へ連れ込まれる。
途端植え込まれた恐怖心が音を立てて存在を主張する。
2人きりになった途端に溢れる涙の存在を無視するように教師はいきなり一松の蕾へ挿入した。
ソコは濡れてなく、無理やり押し込んだ肉棒により裂けた。
「ぐぁっ…い、た…っふ…ふっ…や、やだ…うぁ…」
両腕で目を覆い、顔を歪めて涙を零す。
1人でヘコヘコと腰を振る教師は荒い息で一松の乳頭に齧り付く。
口を塞いでいた腕を無理やりどかされ、唇にも噛み付かれる。
ぬるぬると咥内を蹂躙する舌はとても気持ちが悪く、一松の胃から胃液がせり上がる。
教師の独りよがりな性処理が終わったのは昼休みの終わりを告げるチャイムがなってから数分してからだった。
教師は後始末をしろ、と吐き捨ててさっさと体育倉庫を出て行った。
ぽっかりと空いた孔から流れ出る精液と血液に嗚咽を零し、涙を流しながらも一松もさっさと後始末をして体育倉庫を後にした。
それから何度も何度も一松は犯された。
その度に流れる涙や震える身体に教師が舌打ちすることも少なく無く、時には暴力も振るわれた。
それでも十四松の為に抵抗する訳にはいかなかった。
ある日
今日もいつもと変わらず涙を流しながら犯されている。
ただ1つ違うのは、一松が死のうと考えていた事だった。
(明日死のう…家族には申し訳ないけど、もういいや。)
それに気付かず教師はヘコヘコと腰を振る。
しかし一松も教師も気付いていない事があった。
それは物陰から10個の瞳が覗いていたことだった。
それぞれの表情は固く、末っ子に至っては泣いていた。
そして教師が射精し、いつも通り立ち去ろうとしていた。が、今日はいつもより機嫌が悪かったのか一松に因縁を付けてもう一度犯した。
「ったく校長もあんな仕事押し付けやがって…全部お前みたいな疫病神が学校に来たからじゃねぇのか?おい何とか言えよ」
死のう死のうと考えていた一松は教師の話など聞かずに虚空を眺めていた。
途端、猛烈な痛みが一松を現実に戻した。
教師が近くにあった金属バットで一松の腕を殴ったのだ。
腕からはおぞましい音がなり、一松の口からも悲痛な声が漏れた。
「っぅぁっ!!」
思わず大声を上げる一松の口に布を宛てがい、初めての時のように乱暴に犯し始めた。
段々無理やり犯すことも無くなり、トラウマも薄れてきていた一松の心に猛烈な恐怖心がぶり返す。
「ん”っぅ!!ん”ん”!!!ん”っ!!」
目を見開いて暴れる一松を無理やり押し付けて教師はまた射精した。
そのまま布を取り外し、過呼吸になった一松に掃除をしろと吐き捨てて教師は出て行った。
「はっ、はっ、ぅぁっ、ひっ…んぐぅ…」
唇を血が出る程噛み締めて身体を丸めて泣く一松をただただ眺めていた5人は証拠を撮って一松に近付いた。
兄弟の姿を目にした一松の顔はどんどん青ざめ、身体を震わせた。
「こっちに、来るな!やめろ!…来ない、で…皆を、危険な……うぅぅ…」
更に辛そうに顔を歪めた一松に呆気に取られ、皆が現実に引き戻された頃には一松は目の前に居なかった。
一松は明日死のうと考えていたが、兄弟にあられも無い姿を見られ、皆にキツイ言葉を吐いてしまったという罪悪感もあり、今は学校の屋上に居た。
「ひ、ひひっ…あは、みーんな、みんな死ね。」
緩やかな風が頬を撫で、早く飛べ早く飛べと催促する。
ザワつく地面を眺めながら一松は笑い、飛び降りた。
踊るように、飛ぶように一松は落下した。
一松の耳に入ったのは自分を無視していたクラスメイトやどよめく教師達、そして兄弟達の声だった。
次に一松が目覚めたのは白く清潔なベッドの上だった。尋常じゃない痛みが走る身体を無理やり起き上がらせる。
目に入るのは涙と鼻水でぐちゃぐちゃになった顔の家族。
「…ぁ、…ぇ…」
(嗚呼、死ねなかった。)
目を瞑り、身体を震わせた一松を一人一人抱き締めようとする。
しかし一松の悲鳴と目から零れ落ちた涙により動けなくなった。
一松は目を開け、みんなを見回した後、錯乱した。
「あ、れ、じゅ、十四松は、十四松!探さなきゃ、生きて、十四松、?あ、あぁ十四松をみんなも探し、て殺さなきゃ殺さなきゃ殺さなきゃ……」
十四松は一松が目覚めた時に飲む用の飲み物を買いに行っていた。
一松が尋常ではない程涙を流して病室を出て行こうとするので急いでカラ松が十四松を呼びに走って行った。
おそ松が優しく肩を抱き、頭を撫でた。
「一松ぅ、十四松はすぐ帰ってくるから大丈夫だぞー。んー、よしよし。大丈夫大丈夫。」
おそ松の必死の説得に少し落ち着いた一松が大人しくベッドに座る。
そこで十四松が血相を変えて飛び込んで来た。
そんな十四松を見て一松が駆け寄る。
「十四松、十四松大丈夫?!何も、何もされてない?!生きて、生きてるの?!アイツは、アイツに…アイツを…」
十四松を抱き締めて大泣きする一松に皆が顔を見合わせる。
十四松に抱き着いたまま眠ってしまった一松をみんなで見守りながら両親を家に帰して兄弟だけで話し合う。
「あの教師の慣れようからすると初めてではないよな。」
「なんで一松は黙っていたんだ?そんなに俺達は頼りないのか。」
「ここで一松を責めても何も変わらないよ。冷静になって。きっと脅されていたんだろうね」
「…」
「一松兄さん、最近全然話してくれないし僕達のこと避けてると思ってたけど、バレたくなかったのかな。」
重い沈黙が流れ、皆が肩を竦める。
そして時間も時間だということでとりあえず皆帰ることにした。
眠る痩せこけた一松の頬を撫でて踵を返す。
家に帰っても恐ろしく重い空気だった。
誰一人として話そうとせず、皆黙々と眠りについた。
暗闇で木霊する寝息を聞いていた十四松は何度も寝返りを打ち、目を瞑っても中々寝付けなかった。
温かいものでも飲もうと思い階下へ足を進めた。
途端、1階の受話器からけたたましい音が聞こえた。
こんな時間に電話?と疑問に思いながらも電話へ出る。
「はい、松野ですけど…」
受話器の向こう側では慌てた様子の看護師がいた。
「っあ、こんな時間に申し訳ありません!松野、松野十四松様はいらっしゃいますか?!」
慌てた様子で己の名前を呼ぶ看護師に自分だと説明する。
「っあ、ご本人様でしたか!至急病院へ来ていただけないでしょうか!一松さんが酷く錯乱していて大暴れして自殺未遂を…はい、お願いします…。」
深夜の電話に起こされたのか皆が階下へ来る。
十四松は簡単に説明してパジャマのまま家を飛び出した。
病院へ着けばすぐさま案内された。
扉を開ければ医者に腕を押えられて大泣きしている一松。
手には血まみれのカッターが構えられていた。
手首には何本も深い傷を負っている。
「十四松が!!!あいつが!!!あいつが十四松を!!俺が逃げたから!!!ごめん、ごめんなさい!!!全部俺が悪いから、!!十四松を返して!!!」
子供のように泣きじゃくる一松を見ていられず、大声で叫んだ。
「一松兄さん!」
錯乱状態だった一松はハッと顔を上げ、カッターを床へ落とした。
「へ…、な…なんで…十四ま…きて、きて十四松。お願い、」
両腕を伸ばして懇願する一松。
十四松の足には迷いなどなく、すぐさま一松を抱き締めた。
「一松兄さん、僕生きてるよ。一松兄さんから離れないからだいじょーぶ。いいこいいこ。」
小さい頃泣き虫だった十四松をよくあやしてくれた言葉と行動。
今度は十四松があやす番なのだ。
一松は安心したように涙をボロボロ流しながら倒れるように眠った。
その後医師と話し、朝が来るまでここに居ても良いという事になった。
既に空は白み始めた為、十四松は眠らずに一松の頭を撫でていた。
そのまま数時間が経過し、起床時間になる。
一松は腫れた目を重たそうに開いた。
「…ぁ、十四松…?夢かなぁ…?…ふへ、すきだよ」
幼く、可憐に笑う一松はとても可愛らしい。
十四松の顔は真っ赤になり、いつの間にパジャマから着替えたのか、ダルンと伸びた袖で顔を覆った。
「僕もすきだよ一松兄さん…」
蚊の鳴くような声にもかかわらず、一松の耳は拾った。
「っえ、十四松も僕のこと好きなの?へへ、りょーおもいだね…ふへへ…良い夢」
包帯をグルグル巻かれた手を口許に充ててくつくつと笑う。
十四松は真剣な顔で一松の手を取った。
「一松兄さん…いや、一松。夢じゃないよ!僕ね、ずーっと前から一松の事好きだったの。兄弟とは違う好きなの。」
唖然とした顔で十四松を見詰める一松の顔にはよく見ると殴られた跡があった。
一松は俯き、首を振った。
「嘘だ。夢だよ。十四松が本当に僕を好きな訳がない。こんな、こんな穢れて汚い僕を…」
唇を噛み締めて涙を我慢する一松の手の甲にキスを落とす。
「ほんと。一松は穢れてなんかない。だって、何もかもが透き通ってるもん。綺麗だよ、一松。」
一松は顔を赤くし、涙で潤んだ瞳で十四松を見た。
「っほん、と?僕、十四松を好きって気持ち、捨てなくていいの?十四松を好きでいていいの?」
十四松は笑顔で頷く。
一松は今までの事を全て話した。
「最初はずっと纒わり付いてくるとかだったのに、1泊2日を2人で行くって言った時、家に連れてかれて、逃げたら頭を殴られて…それで地下室みたいな所に監禁、されてっ…それから帰る時間まで何回も犯されてっ、中に出されて、学校でも何回も犯されて、怖くて、助けて欲しくて…でも誰かに言ったら十四松を殺すって…だか、ら誰にも言えなくて…!こわ、かった!もういやだ!!」
後半は思い出したのか大声で泣きながら話してくれた。
十四松はスマホで録音し、全てを兄弟へ送った。
その後はトントン拍子で物事が進み、一松を犯していた時の証拠や一松の音声データで呆気なく教師は逮捕された。
それでも一松は兄弟以外の男を怖いと思うようになってしまった。
数ヶ月後、退院して家へ帰る時。
十四松は一松の手を握って微笑む。
「僕が一松を護るよ。絶対に一松から離れないからね。後悔しないでよ!」
一松も微笑んで、笑う。
「うん。僕も離れない。後悔なんてしないよ」
付き合った、と公開しているため兄弟の前でもイチャイチャする。
兄弟はニタニタと野次を飛ばしたりしている。
(嗚呼、望んだ平穏がこんなに簡単に手に入るなんて。これから先どうなるか分からないけど、今はまだ、この幸せに身を任せてもいいかな。)
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またか、拷問して☆☆☆てやりやしょう!!一松ハッピーエンドで良かった!