「ちょっと代わってください」
コネシマにそう言うと、雪乃はカレー鍋の前に立った。
「どうするんや鬱先生の彼女。もうカレーは完成しとるで」
背後でコネシマが自信満々に何か言っているが、気にせず作業をする。
ぐつぐつと煮込まれる具材たち。
後はルーを入れるのみ。
「カレーはまだ完成していない」
雪乃はスッと目を細めると、目にも止まらぬ早さで手を動かし始める。
「な、何や、この動き…!?」
「み、見えへん!」
「一体何をしてるのか全然分からないけど、きっと最後の仕上げをしてるんだわ…!」
3人が圧倒される中、雪乃の手が止まる。
「…完成です」
そこにあったのは、確かにカレーだった。
何の変哲もない、普通のカレー。
しかし、どうしてだろう。
先程までの地獄絵図とは打って変わって美味しそうだ。
「い、生き返った…!?」
シャオロンが近付いて匂いを嗅ぐ。
これは紛れもなくカレー。
「味見しますか」
雪乃が皿にご飯とカレーをよそい、シャオロンに渡す。
ごくりと唾を飲み、それを受け取る。
スプーンを持って一口分すくい、ゆっくりと口に運んだ。
「……う、うまい」
驚愕の結果に、歓声が上がる。
勝った。
俺たちはこの地獄から生還したんだ、と。
「何でや、何であそこから息を吹き返すことが出来たんや…!?」
シャオロンが驚いて雪乃を見れば、腕を組んでスッと目を閉じ、
「料理は愛情ですよ」
何故か得意気にそう言った。
嘘やろ。愛情でカバーできるもんなんか。
でも確かに…。
「コネシマに足りなかったのは、愛情ってことか…」
「おいこら、誰が愛情ないねん」
「確かに、家族と疎遠になり1人で生きてきたコネシマには足すことが出来へん唯一のスパイスやったんやな…」
「しみじみ言うなシャオロンこら」
そんな2人の隣で、続けて試食した美希もその美味しさに感動していた。
「あんた凄いわね、普段から料理してるの?」
「まぁたまに手伝うくらいだけど…いつも隣で見てたから」
兄、秋斗の料理する姿を。
どうしてそんなに美味しく作れるの?と聞いた雪乃に対して、
『愛情をたっぷり入れてるからね』
と言った兄の言葉を、雪乃は覚えていた。
思い出して、微笑む雪乃。
だから兄の作るご飯は全て美味しいのだと本心からそう信じている。
「ありがとう雪乃ちゃん。おかげで晩飯抜きにならずに済んだわ。ほらコネシマ、お前もお礼言うとけ」
「いやー、俺の作ったアルティメットカレーも中々イケてたと思うんやけどなー」
「今度再現して食わすからな」
お礼を言われ気付く。
何だかんだ一緒に作る流れになってしまった。
まぁ緑の悪魔も居ないっぽいし、いいか。
美希も美味しそうに食べてるし。
「ロボロとゾムにもお裾分けしよー」
シャオロンがカレーを持って走っていく。
あぁやめて、名前を聞くだけでも怖いのに。
「ホンマや、めっちゃ美味いやん!料理上手なんやな鬱先生の彼女!」
コネシマが笑って雪乃を見る。
「…さっきから思ってたんですけど」
「なんや?」
「私鬱先生の彼女じゃないですから…」
「えぇ!?そうなん!?」
隣でもぐもぐとカレーを頬張りながら、美希がジト目でこちらを見ていた。
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