プロローグ 第一話
「悪夢への誘い」
カツ、カツ、カツ……
慣れた道を歩く。
見飽きたオレンジ色が街を包んでいる。
それでも人はいて、ふと左を見れば、公園で子供達が遊んでいた。
とても楽しそうだ。
それから数分後、オレンジ色にさらに暗さが混じった。
やはり少し肌寒い。コートを着てきて正解だった。
念のため、腕時計を見る。
針は『5時15分』を指していた。
「ヤバい、遅刻する…!!」
少し足を速めた。バイト先までもうすぐだ。
先程は人通りの多いところを歩いていたが、今度は裏路地__人のいない、暗いところを早歩きで進む。
…着いた。
念のため、もう一度腕時計を見る。
針は『5時20分』を指していた。
「良かった、間に合った…。」
そう思い、店のドアを開けようとした__その時だった。
「…っ!?痛っ………いぃ…!!」
突然、腕時計が私の手首を締めてきたのだ。
思わずその場に座り込む。
「痛い……っ、なんで………っ!?」
ギリギリと痛む手首。
腕時計は、非情に、どんどん締め上げる。
「あ”ぁぁ………っ、だれ……っか……………」
助けを呼んでも、誰だって気づかない。
ここは人通りの少ない路地裏で、声もか細い。
状況は絶望的だった。
冷静に考える間もくれない締め上げに、私は呑まれるばかりだった。
「うあ”………、ぁ……」
だんだん視界が霞む。いつまで経っても止まらぬ締め上げに、呼吸すらもままならなくなってきた。
…もう、諦めてしまおうか。
このまま意識を失い、血も止まらせ、死んでいくのだ。
ちょうど、この世界に、自分の境遇に、絶望していたのだ。
もしかしたら、この状況は、そんな自分への救済なのかもしれない。
ならば、甘んじて受け入れるべきだ。
正気じゃないことは、分かっている。でも、それでも…………、
「……ぅ………、ぁ…………………」
何もかも諦めて、楽になりたい………。
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