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潔世一。サッカーが大好きないたって平凡な普通の男子高校生。
部活終わりに友人と他愛もない会話をしながら、今日も普段と何も変わらず帰路についていた。
友人と別れ道で手を振って、その背中を見届ける。一息ついて進行方向に向き直り、手押しで進んでいた自転車に跨った。
ペダルを踏み込み、見慣れた道をスイスイといつものように帰っていた。交差点に差しかかるところでブレーキをしようとハンドルを握る。
しかし、自転車は止まらなかった。
「…え?はっ?え?」
焦ってハンドルを何度も握りなおすがスピードが減速する気配はない。どうしようどうしようどうしよう。
焦りばかりが募る。周辺視も機能しなくなって視界が狭まってくる。
「そ、うだ」
潔は足を地面に出して止めようと思いつく。
スピードが出ていて大事な足を怪我をしそうで怖いが交差点を飛び出す方が何倍も怖い。
その一心でガガガッと足を地面につけたが体幹がブレて自転車から振り落とされそうになる。慌てて足を引っ込めたものの、もう次に起こせる行動はなかった。
潔の勢いを止めることを知らない自転車はもう交差点の目の前にあった。
横道からは自動車の来る気配。それもかなりのスピード。ちょうどぶつかりそうなイメージがパラパラと脳裏に浮かんだ。
瞬間、今までの思い出や記憶がフラッシュバックする。
あ…これ走馬灯ってやつか。多田ちゃん…チームの皆…お父さんお母さん……ごめん…もう会えない…
「(あー…俺まだ、世界一なれてねぇのに……)」
そこで潔世一の第一の人生は幕を閉じた。
目覚めると体を自由に動かせなかった。
焦って視線を動かすが、目の前はぼんやりとしていてよく見えない。
「(あれ、俺生きて…)」
死んだはずだと思っていたのに今潔世一としての意識がある。
どういうことだろうと状況を確認したくても体も動かせないし、声も出せない。さてどうしようかと思っていたところで体が浮遊感に包まれる。
「(うぉ…?!)」
「もう体は大丈夫?喋れるかしら?」
「……?」
「今からベッドに移動するからそのままじっと待っててちょうだい」
頭上から声が聞こえてきて耳を澄ます。知らない女性の声だ。
言われたとおりにじっと待っているとふかふかの、とはお世辞にも言えない結構硬めのベッドに置かれた。
その一連の間に、自分の体が確かに自分のものになっていく感覚を覚えた。聴覚視覚触覚もはっきりとしていき、ぼんやりとしていた世界が明瞭に映った。
その明瞭になった世界をよく見たとき目の前にいたのは、黒服に身を包んだシスターのような格好をした女性だった。おそらく潔を運んでくれたであろう人。
「あの…、(あ、声出せた…)」
「貴方は昨日、うちの孤児院の近くで倒れていたのよ。」
「そう、なんですか」
「それで、貴方の帰る場所はあるかしら?」
そう聞かれてハッとする。記憶を手繰り寄せても車に轢かれる寸前までしか覚えていない潔は口を噤む。
まだ状況はよく把握出来ていないが、自分が小さな体になっていることから生まれ変わりしたことを直感していた潔は慎重に考えた。
この体の持ち主の記憶は持っていない。昨日倒れていたというし、誰も迎えに来てないことからして、もしかしたら今世は家族がいないのかもしれない。
じゃあ自分はどこにも行くあてがないのではないか。
そう結論付けて手のひらに視線を落とす。自分の手の平は前よりもかなり小さくなっていて、己が生まれ変わりというものをしたことを実感させる。
こんな子どもの姿で知らない場所を一人で生きていけるだろうかと不安が押し寄せる。
そんな潔の様子を見ていたシスターが口を開く。
「貴方さえ良ければ私と家族にならない?うちの子…他にも貴方と同じくらいの子ども達もいるのだけれどその子達もきっと貴方を歓迎してくれるわ」
優しく、潔を温かく迎え入れるように話すシスターに潔はこの上なくホッとした。
「お願い、します」
まだ喋るのに慣れていないせいでたどたどしく返事を返した。
それに応えるようにシスターは潔の頭を優しく撫でた。そして、潔が眠そうに目をパチパチとするとゆっくりとベッドに寝転がらせ、毛布をかけてあげた。
「今日はもう遅いからおやすみなさい」
「はい………」
急にやってきた眠気に瞼が半分閉じかける。どうやら、この小さい体は睡眠を欲していたようで潔のもっと色々と話したいという意識とは反対に眠気が強まる。微睡みの中、シスターの優しげな顔が映った。
ありがとう、ございます…
安心と感謝の気持ちを抱いてゆっくりと潔は眠りに入った。
あれから数年、潔はすっかりシスターの経営する孤児院の子として馴染んだ。
どうやら潔は前世とは違う世界に来てしまっていたようで、その事に気付いたときは大変驚いた。
最初は、この異世界と前世の世界との違いに驚いたり、生活水準の低さに悪戦苦闘したりと諸々大変だった。また、前の世界への未練とかで情緒もぐちゃぐちゃで精神的に大きく疲弊していた。
でもそんな不安定だった精神も時間が経てば安定し、今はちゃんと受け入れて前へと進んでいる。
持ち前の穏和な性格で他の孤児達とも仲良くでき、かつ前の世界で義務教育を受けていたため(この世界では教育という概念がまだ貧困層にまで行き届いていない)、子供たちの中で潔はしっかり者で面倒見のいいお兄ちゃんとして孤児院で生活した。
孤児院は裕福とはいえず、飢饉により餓死しそうになったこともあったが今日までなんとか生きてこれたことに潔は感慨深くなった。
「(よく生きてこれたなぁ…俺…)」
日付を確認しながらそう思っていると迎えの大人がきた。潔はその人について行く。
今日は特別な日。当時おそらく7歳くらいだと仮定し、今年で10歳となり待ちに待った成人の儀式の日だった。
この儀式を受ければ、かつて潔がいた世界では存在しなかった魔法なるものが使えるようになるのだ。(初めて魔法を目にした時の潔はそれはもう驚き、金ローで見たことのあるハリーポ◯ターみたいだと感動していた)
わくわくと期待を胸に潔は儀式が行われる教会へと連れて行かれた。周りには当然自分と同い年の子しかおらず、皆そわそわとしていた。
教会の前には司祭らしき人が立っていて、その人が何かを唱えたあとに前の水晶がきらりと光った。
今まで身近の大人はシスターしかおらず、彼女が使う生活魔法しか見たことがなかった潔は胸が高鳴った。
どうやらその水晶で自分の大まかな魔力量と基礎魔法の適性が見れるとのことで、自分はどんな魔法が得意なんだろうとか魔力が多いといいなーとか人並みの感想を思い浮かべる。
そんなこんなで自分の番が回ってきた。
水晶に手をかざすと、前の子たちと同じように淡く光輝いて、うっすらと色々な色が浮かんだ。
「む…君は…全ての属性を問題なく使えるようだ。器用貧乏と言われがちだがうまく扱えればとても頼もしいサポーターになれるから気を落とさずに」
そう言われ、潔は喜んでいいのかどうか迷った。とりあえず自分の特性を受け入れることにした。
鑑定してくれた人にぺこりとお辞儀をしてそそくさと外へ出る。出ようとしたところで、後ろでカッ!と今日一番の目が眩むような光が放たれた。
びっくりして振り返ると、水晶の前には儚げな水色髪の少年がいた。身なりがとてもよく、どこかの貴族かと思われる。彼は周囲のどよめきも意にかえさず、さっと出入り口に向かった。
出入り口に立っていた潔は、今動くのもおかしいかと少年が通り過ぎるのをじっとただ見つめていた。近付くほど見えてきた顔の造形に少年ではなかったかもしれないと潔はぎょっとする。
ぱちりとした瞳に、ばさりと伸びた睫毛、白い透けるような肌はとても女の子らしかった。けれど、髪の毛は男の子のようにとても短く、潔が性別を迷う要因となった。
少年?か少女?が出ていったあと、遅れて扉を出ると、既に颯爽と帰ってしまったのか少年の姿はもう無かった。
背は自分よりもデカかったが、この歳は女の子の方が成長が早いと聞くし…とうんうんと悩みながら潔は孤児院へと帰った。
今回はここまで!
この後どうしようか…