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きなこもち
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─── じゃぁね。ぱちせん。
見たことのない銃を携え、犯罪者ではないがこの騒動の黒幕と一緒に立ち去る先輩を見送る。
同期、先輩、バディ。大事な人は皆、手のひらからこぼれ落ちていく。
警察官として採用され、これから頑張ろうとしていた時期。同期の一人は「ホットドック屋がやりたい」と突然警察をやめた。
しばらくして、大型犯罪で護送されて来た犯人の中に元同期 ─── ケイン/オーがいた。
なぜ。どうして。ホットドック屋になったのではないか。
話を聞くと改造され犯罪が正義とインプットされていた。
「ケインはさ、まだ犯罪をするんだね?」
「これは犯罪ですか?ワタシには正義と記録されています」
「いいや、犯罪だし、悪だね」
「そうですか。じゃあ………叩きのめします。」
「そうか。じゃあ………抑制するよ」
収監される元同期を見ずに牢屋から出る。
同僚の闇落ちはすぐ割り切れるものではない。皆、悲しんでいる。
「えびす。お前、ケインの事を撃てるか?」
地下駐車場で仲の良い先輩が心配して声をかけてくれた。ケインには抑制すると言ったが、いざその場面になったときできるかどうか。
「………無理かもしれない」
「………その時は俺が代わりに撃つよ」
おご先は優しい。きっと俺がこれ以上傷つかないように言ってくれている。
犯罪現場を思い出し、携行している銃を見る。
優しい先輩に甘えることもできる。
でも、これは俺の試練だと思った。
「いや」
顔をあげ、おご先を見る。
「あいつを抑制するのは俺なんで」
うずくまっていたのをやめて立ち上がり、ガレージの外に向けて歩き始める。
「それに、あいつ。楽しいらしいんです」
シャッターの外は明るく、次の事件対応のための準備をしている警官がいた。
「ロボットなのに、楽しいっていう感情が見えるんです」
ケインはロボットだ。人間ではない。無感情とは言っているけど、人間の感情を理解しようとし、時には模倣しているように思える。
模倣でも楽しいと思えたり、犯罪であっても、やりたいことをやれているならそれは応援しよう。
「きつかったらいつでも言えよ」
おご先はそう言いながら武器保管庫の方に歩いていった。
ああ、おご先は本当に優しい。
自分もパトカーを出し次の事件に向けて準備を始めた。
同期の闇落ちから数ヶ月後の初夏。休んだ次の日の出勤直後、おご先から昨日あった事を伝えられた。
「みこだ、昨日、警察辞めたんだよ」
「え?」
大事な仲間は俺がいない時に先に進んでしまう。ケインの時もそうだった。
おご先の話で、みこだは今はメカニックで働いているらしい。
この日の空いた時間、そのメカニックを訪れみこ先に話を聞く。街に来てから警察しかやったことがなかったから、他の仕事をしてみたかった事と休みたかったらしい。
いつも最前線にいたみこ先。ついていけたのは一人ぐらいだった。
─── 背負わせてしまっていたのだろうか。
戦闘力の高いみこ先は争いのない、平和なメカニックに満足しているのだろうか。また警察に戻ってくるのだろうか。
─── それとも他のやめた警察官同様に黒の道を進むのだろうか。
日々の事件対応に忙殺されているうち、メカニックでみこ先を見かけなくなった。
その数日後、大型犯罪後にALLINと共に逮捕され、牢屋でプリズンへ送られる様子を遠くから見た。
相変わらず騒がしかった。きっと犯罪中も前と同じ感じなのだろう。思うところがないわけではないが………。
「楽しそう。楽しそうで良かった」
その後も警察を辞めて闇堕ちする人はいた。面倒を見てもらった先輩。指導していた後輩。
やりたいことができた。警察では守るべき人を守れないと感じた。潜入調査時後、戻るに戻れなくなった、など。
彼ら彼女らを見送り続けてきた。
闇堕ちしたとしても街に居る限り会うことはできる。現に、ケインとは辞めてからの方がよく喋る。
警察官のままであっても、会いたくても起きてこなくなった先輩たちを思うと寂しさが増す。
自分にヘリを教えてくれた先輩、相談に乗ってくれた先輩、遊んでくれた先輩。
自分はここから動けない。見送るばかりだ。
新しい街に来てから半年以上が過ぎた頃、警察採用時からバディとして行動をしていた先輩が警察を辞めることになった。本人から相談はなく、辞めるという報告を聞いた。
市民が困っていた時に警察との間に入れるような相談所になる店を開きたいらしく、決意は揺るがなかった。
街に店を開くということは、そこに行けばいつでも会えるということだ。寂しさは募るが、バディであることは変わらないと見送るつもりだった。
─── そう。あんなことがなければ。
夏真っ盛りの時、この街に出どころ不明の種が出回った。
たまたまパトロールをしていた真島と皇帝がその現場を見かけたが、その後、その種を配り歩いていた無馬かなからの情報と取引で、警察はこの種が配られた市民を探すことになった。
定期的に集まり各々の進捗状況を共有する会議で信頼していたバティ ─── ぱち先の情報漏洩が発覚した。会議での報告内容と捜査の中心にいた警官への報告とで矛盾が生じ、追及され自供した。
ぱち先は聞き込み相手に警察がなぜ種を探しているかを話してしまったらしい。信頼を得るためであっても本来なら捜査状況は漏らしてはならない。
このことで署長をはじめとした種を調べている警官との間に溝が生まれ、警察全体がギクシャクとし、結果ぱち先は予定より1日早く退職した。
ぱち先はせめてもの思いだったのか。退職直前にタネに関するヒントをくれた。が、迎えに来たのはこの騒動の発端である無馬で、彼のバイクに乗ってぱち先は本署を後にした。
─── なぜ。犯罪者ではないが限りなく疑わしい人物とともに去ったのか。
ぱち先は退職しても犯罪はしないと言っていた。その後、捜査を続ける中で、何回かとやりとりをした。きっとぱち先には何か考えがあるに違いない。
そして、9月末の無馬との取引の日。警察からは一通りの回答を出し、無馬からは答え合わせがされ、表面上取引は成功したかに見えた。
元々調べていた種とそこから生まれる花に違法性はない。ただ、調べていた種類以外の種があることと、その種から生まれた花から違法性がある成分を含むエキスが出ると伝えられ、そのサンプルももらった。
警察としては更なる情報を得たかったが、無馬からは「警察署から完全に立ち去るまで、何があっても追いかけてこないこと」という条件を出され、警察としてもこれを飲むしかなかった。
その直後、無馬を迎えにきた二人の人物は手にサブマシンガンと思しきものを携えていて、その二人はぱち先とぱち先の喫茶店の従業員の丘猫まるだった。
その姿に居合わせた警官たちは騒然とするが、先の条件を飲んだ以上、こちらから逮捕や手荷物検査などの実施もできない。皆が歯を食いしばりながらその姿を見送った。
─── ぱち先はもうそっち側なんだね。
多くの署員が動揺していた。自分も動揺しないわけではない。ずっと黒には行かないと信じていた。
ただ、ぱち先の大事なものが自分たちではなく、別のもの ─── おそらく丘猫まるになったのだろう。
まだ、ぱち先と直接会って話はできない。これを受けての会議もある。時間がない中、言いたいことをメッセージで送る。
─── うちらを撃つぐらいじゃないとね。
─── ごめん。こうするしかなかった。
─── 考えがあったんでしょ?
その問いに具体的な返事はなかった。ただ………。
─── 死ぬまでバディ。
─── 死んでもバディ。
─── その時は助けに来てよ。
─── お互いに助け合って利用し合おうね。
こうなったら、とことん利用してやろう。ぱち先が自分たちを利用するように。
尊敬する先輩と同期のバディの名前を使ってみた。
本人たちにこのことを言ったら怒られるかな。
「えびすさん。お時間いいですか?」
騒動が一旦収束して数日。科捜研の部下でもあるメチャ君に声をかけられた。真剣な話らしい。空いている部屋に入り二人きりで話をする。
「ぱちおさんがあんなことになって、普通にえびすさんが心配だったんですよ」
メチャ君の言葉に、椅子に座りながら返事をする。
「俺は意外と慣れているから大丈夫なんだよね」
俺のおそらく何の感情も浮かんでいない表情を見たのか、メチャ君は不思議そうな顔をしていた。
ぱち先を信じたいと思う気持ちは俺の勝手だ。周りからはぱち先に裏切られたようには見えるかもしれないが、ショックはない。
「まぁ、ぱち先にはせいぜい捕まらないようにしてねって言った」
そこからぱち先とのメッセージのやりとりも教える。
「ぱち先は大事な人も警察のことも守ろうとして立ち回った結果、毒が回ったんだと思うよ」
そこまで相槌を打ちながら話を聞いていたメチャ君が、自身のぱち先の印象を教えてくれた。
「自分が街で初めて仕事をしたのが、ぱちおさんがオーナーのクレープ屋でした。その頃から『ぱちおさんは誰にでも優しい人』という、今思えば側面しか見てこなかったんです」
メチャ君は少し視線を落としながらも話を続ける。
「なので、多少ですがショックはありました。今までずっと警察官としてのぱちおさんしか知らなかったんだなって」
俯いていたメチャ君は顔をあげてこちらを見つめてきた。
「実際、闇堕ちした人って、なんでそうしたんでしょうか。僕らの世代もガヴァイとジェイミーが闇堕ちしています。当時はあれこれ言われていましたが、彼らは自分の信念で辞めています」
そうか。俺もだけどメチャ君も同期が闇堕ちしていた。同じ闇堕ちでも同僚と同期とでは関わり方が違う分、思うところがあったのかもしれない。
「闇落ちをする奴は、単純に犯罪したかったから。もしくは何かしらの理由でその道に進まざるを得なかった。そのどっちかだよ。俺は身近な人がそうなっても、そっちの道に行ったんだなって飲み込むようにしている」
「その人の選択として、ですよね」
メチャ君は俺の話を聞き、自分の中に落とし込んでいるような気がした。
「最初の時もそんな感じで割り切っていましたか?」
「ケインのことがあったから、今がある。あそこで俺は心を無くした」
ケインの頃は慣れていなかった。でも、もう2年半も前の話だ。意図せず乾いた笑いが出る。
「人を信じてはいるけど、期待はしなくなった」
「だからこそ、裏切られたとか思わないんですね」
「そうだね」
警察になってから2年半以上たつ。短いようで長い過去を振り返る。ふと、ケイン以外にも辞めていったり、起きてこなくなった先輩や同僚の顔が浮かんだ。
「何かを求めてしまうから、もらえない時に絶望する。いつ、いなくなってもおかしくないし、勝手に信じているぐらいが一番生きやすい」
「自分のメンタルを守る意味では間違っていないのかもしれませんね」
「だから、ぱち先のこともその選択をしたんだなってしか思わない。まぁ、悲しいというか寂しいけどね」
メチャ君はギャングとしてのケインしか知らない。そのケインが警察を辞めた時のことを聞かれ、その話をする。
すでに過去の話だ。思い出しながら淡々と話を続けた。
話を聞いたメチャ君は自分ならどうなるのかと言う話をしてくれた。
「自分も流石に闇堕ちしたら悲しい人がいます。ガヴァイたちと違って、今のアジカン、ぺんぺんがそういう事になったら………怖いです」
流石にあの二人はそんなことにならないと思う。でも、同じように思われていたぱち先がああなったから、心配と言うか不安にはなるか。
「期待はしないけど、最後まで裏切られてもいいと思って信じてあげるのがいいと思う」
犯罪の通知が増えてきた。そろそろ仕事に戻る頃合いかもしれない。
座っていた椅子から立ち上がる。
「まぁね、そのうち慣れていくよ。誰であってもいつまでここにいるか、分からないから」
「そんな事言うのやめてくださいよ」
立ち上がった俺を見て、メチャ君も椅子から立ち上がる。
「まぁ、それでも。自分はえびすさんの直属の部下です。なんかあった時は助けに行きますよ」
「そこはもちろん頼るよ」
「だから。もっと頼ってくださいって話です」
「………よかろう」
俺は警察を辞めることはない。この暖かい自分が好きな空間に居続ける。警察という組織がなくなったり、ガラッとメンツが変わらない限り。
「頼りにしていますよ、先輩」
「任せてよ。そして任せたよ」
ちょうど無線が騒がしくなる。
─── ブースティング、応援求む。
「応援行きます」
無線に応答しながら部屋を出て、駐車場へ向かう。
メチャ君も無線で状況確認をしているようだ。
自分もバイクに乗り込み現場へ向かう。
大事なものはこぼれ落ちるばかりだと思っていたけど、俺も心配されていたんだな。ここは暖かい職場だ。
運転しながらこれまでのことを思う。
メチャ君には「心を無くした」とは言ったが、去っていく人を見て、何も思わないわけじゃない。
自分にとって大事な人─── 最悪の世代の同期。レッサン、るんるん、霊明、バァバ。あとは殿とローズ。
ケインのことを経て、自分たち同期の結束は固い。闇堕ちしようものなら監禁したり地の果てまで追いかけることを互いに約束している。
やがて街の東、事件現場に近づいた。けたたましいサイレンが聞こえ逃走する車が見えた。無線もひっきりなしに報告が入る。
その様子に気持ちを切り替える。
今は目の前の事件に集中しよう。
自分の大事な場所のために。
コメント
1件
読み終えました。えびすの「心を無くした」という言葉と、それでもメチャ君に「頼りにしてる」と言える距離感がすごく刺さりました。ぱち先との「死ぬまでバディ」のやりとり、あれは泣きますね…。ずっと見送る側で、でも「ここは暖かい職場だ」って思える場所があるから踏ん張れる。そういう構造が丁寧に描かれていて、じわじわ効いてきました。次の事件も気になります。