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薄暗い放課後の美術室。
奏多(そうた)は、窓から差し込む夕陽に照らされながら、無心にペンを走らせていた。
いや、走らせていた、というにはあまりにも力ない動きだった。
描きかけのスケッチブックの隅に、小さく「もしも昨日に戻れたとしたら」と書きつけ、その上から黒く塗りつぶす。
どうして僕は、まだこんな場所にいるんだろう。夢を諦めたはずなのに…
そんな自問自答を繰り返しているうちに、筆圧はどんどん強くなり、ページの白い部分は、やがて後悔でいっぱいの黒い塊で埋め尽くされていく。
そして、ぐしゃり、と音を立ててそのページを破り捨てた。
その時だった。
美術室のドアが静かに開く。
「あれ、奏多くん、まだいたんだ」
透き通るような声。
そこにいるだけで、薄暗い部屋が少し明るくなったように感じる。
華(はな)だった。
彼女は、美術部の活動で使う画材を片付けにきたのだろう。
いつも穏やかな笑顔を浮かべる彼女は、クラスの誰からも好かれている。
ソウタにとっては、まるで違う世界に住む人間のように思えた。
「……もう終わったのか」
奏多は華に背を向けたまま、短く答える。華は気に留める様子もなく、ゆっくりと奏多の隣に歩み寄った。
「どうかしたの? すごい音がしたけど」
足元には、ソウタが破り捨てたスケッチブックの残骸が散らばっている。
彼女はそれを目にすると、かがみこんで破片を拾い上げた。
そこに描かれていたのは、未完のまま捨てられた、力強い線で描かれたキャラクターのイラストだった。
「もったいないな……すごく、かっこいいのに」
華は、破片をつなぎ合わせるように、それを大切そうに見つめる。
奏多は、そんな彼女の様子に、胸の奥がきりきりと痛むのを感じた。
「そういうのは、もう、いいんだ」
彼は立ち上がり、美術室を出ていこうとする。
華は、そんな奏多の背中に声をかけた。
「ねえ、奏多くん。もしかして、自分を愛せないでいるの?」
その言葉は、奏多の足をぴたりと止めさせた。
振り返った奏多の目に映ったのは、いつもの穏やかな笑顔ではない、どこか寂しげな、自分と同じ影を宿した華の瞳だった。
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誤字等ありましたら、教えてくださると嬉しいです。感想なども大歓迎です!
また、今日中に時間をおいてこの小説は投稿し、完結します。最後までどうぞお楽しみくださいませ…