華の言葉が、奏多の足を止めた。
振り返った奏多の目に映ったのは、いつもの能天気な笑顔ではない、どこか寂しげな、自分と同じ影を宿した華の瞳だった。
ハッと息をのんだ奏多は、何かを言おうと口を開きかけたが、結局、何も言えずに俯いた。
「ごめん、変なこと言ったね」
華はそう言って、破片を拾い集める手を止めなかった。
彼女は、破れたイラストを机の上に並べ、器用にそれらを組み合わせていく。
まるで、奏多のバラバラになった心を、一つずつ拾い集めてくれているかのようだった。
「これ、まだ描けるよ。線も色も、すごく生きてる」
彼女は、そう呟いた。
奏多は、その言葉に思わずハナの顔を見つめる。
華は、イラストから目を離さず、しかし、確かにソウタに向けて話していた。
「私ね、時々、思うんだ。どうして、みんなは私を見て笑ってくれるんだろうって。本当の私を知ったら、がっかりするんじゃないかって…」
ハナは、初めてソウタに弱さを見せた。
それは、まるで氷が溶けていくように、ソウタの心を覆っていた壁にひびを入れていく。
「人を愛さなきゃね、って、きっと優しい人はみんなにそう言うけど……一番愛さなきゃいけないのは、鏡に映った自分自身。それが、私には、まだできないの」
そう語る華の声は、少し震えていた。
奏多は、破れたスケッチブックの隅に書きつけた自分の言葉を思い出す。
自分を肯定できなかった自分。
他人の評価に怯え、逃げ出した過去。
彼女もまた、同じ痛みを抱えていたのだと、奏多は知った。
それから、二人の間に、不思議な時間が流れ始めた。
放課後の美術室は、いつしか二人だけの秘密の場所になった。
奏多は華に、かつて描いていた漫画の話を少しずつするようになった。
華は、奏多の描く、物語に登場するキャラクターたちの、生き生きとした表情を「すごく好き」だと言った。
その言葉が、ソウタにとっての「大丈夫」だった。
華もまた、奏多にだけは、無理のない笑顔を見せた。
そして、時折、鏡に映った自分を見つめ、少しだけ困ったような顔を浮かべる。
そんな華を、奏多は何も言わずにただ見つめた。
無理に励ますことはしなかった。
互いの心の傷を共有し、居場所を求め合う二人の間に、言葉はなくても確かな絆が生まれていった。
しかし、二人の心の中には、まだ乗り越えられない過去の影があった。
奏多は、また筆を握ることを躊躇し、華は、自分の本心を隠そうとする。
「置き去りにされた 愛のある唄と共にgood night」
二人は、そうやって、それぞれが置き去りにした「愛」を胸の奥にしまい込んだまま、美術室の窓から差し込む夕焼けを眺めていた。
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また、今日中に時間をおいてこの小説は投稿し、完結します。最後までどうぞお楽しみくださいませ…
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