「ぁあ〜、あ、あー…うし、完治」
「完治シタ〜」
きょーさんの隣で寝転がって戯れていると、レウさんとコンちゃんが顔を覗かせた。
「完治おめでとう、二人とも」
「完治して早々に申し訳ないんだけど…ちょっといーい、みっどぉ?」
コテンと首を傾げたコンちゃんに合わせて俺も首を傾げる。
いつもの囲炉裏のある部屋に向かうと、部屋の隅でらだおくんがうつ伏せで倒れていた。
「エ?死ンダ…?」
「死んでないよ〜!みっどぉ、コレについて心当たりあるんじゃない?」
コンちゃんがゴロリとらだおくんの腕を引っ張ってひっくり返すと、らだおくんはすよすよと穏やかに寝ているだけだった。
なんだよ、と思いつつもコンちゃんの言葉にはいささか納得がいかない。
心当たり……はて……?
「ワカンナイ」
「分かんないかぁ〜…じゃあヒントね?」
「ン」
「最近のらっだぁへの態度はどんな感じ?」
…どんな感じって言われても……
『みどりー、風邪は大丈夫そー?』
『ラ、ラダオクンハ…イッ、イラナイ!』
とか…
『みどりー!食べさせてあげる!』
『チ、近イッ!!』
『え!ちょ、枕はヤバい!?ぎゃあー!?』
ガッシャーン…とか……
『みど_』
『…』
扉そっ閉じ…とか……
「…ァ」
「お!分かっちゃった?」
「最近、ラダオクント話シテナイ」
「ん〜…まあ、いいか」
らっだぁの近くでペタンと座った俺を見たコンちゃんは「それじゃあ、俺はお茶淹れてくんねぇ〜」と言って調理場のある方へ行ってしまった。
パスンと音立ててしまった襖。
風邪をひいている間に心を落ち着かせたからか、二人だけしかいない状態でも今は妙にドギマギしなくなった。
「ラダオクン」
「ん”ん〜……」
頬をつつきながら声をかけても起きる様子がない。むしろ余計深い眠りにつこうとしている気がする。
「オイ、起キロ」
「んい”ぃ”〜……」
ミチミチ…と頬を引っ張ってやると、らだおくんは苛立ったように唸り声を上げて俺の手をガシッと掴んだ。
お、起きたか?と思ったのも束の間、すごい勢いでらだおくんの腕の中に引き摺り込まれた上に、掴まれた腕はらだおくんによってはもはもと食べられている。
「……」
ドギマギしないとは言ったけれども、ここまでされてドギマギしない奴がいるのだろうか……いや、いるわけがない。
しかしながら、抜け出そうにもらだおくんの顔面は頭上。向き的には背後。
モゾモゾと手足を動かせば動かすほどホールドが固くなるし、甘噛みだったそれもだんだん力が込められて痛みを感じ始めた。
「ィ”、ッタ…ンンン……」
遂にギリリと本気で噛まれるようになって、遂にコイツは本当は目を覚ましてて、今まで素っ気なくしてた仕返しをしてきてるんじゃないかと思うくらいに痛みを感じた。
かと言って抜け出せないし、魔力でらだおくんみたいな人間を攻撃したらそれこそ恩を仇で返す、みたいな事になる。
「〜ッ!!」
「みっどぉ?え、それ…!?」
「コン、チャ……」
痛みに呻く俺を見たコンちゃんがスッと目を細めると、家の影という影の中から触手が伸びてらだおくんの首を締め上げた。
「コンチャンッ…!?」
「ぁ”、かはっ…!」
「おはよう、らっだぁ……目は覚めた?」
首を絞められた状態でブラリと宙に吊るされたらだおくんは、誰もがするように首に巻き付いている触手をどうにかしようとして俺を手放した。
解放された身軽さにホッとしつつ、らだおくんの現状を理解して思わず悲鳴のような声を上げた俺を無視したまま、コンちゃんはらっだぁに向かってニッコリと笑った。
「コンチャン!コンチャン!!ラダオクンガ死ンジャウ!!」
「大丈夫、加減してるから死なないよ」
そういう問題じゃないのに!
いくらコンちゃんの裾を掴んで懇願しても、コンちゃんはらだおくんを締め上げる手を止めなかった。
「らっだぁ?自分で起きないなら、俺はこのままらっだぁの事を絞め殺すよ?」
「…!?」
淡々と冷たく告げるコンちゃんが怖くなって、俺はレウさんときょーさんのいる部屋に助けを求めて走った。
あのままらだおくんが死んでしまうのは嫌だし、俺の知ってる優しいコンちゃんがいなくなってしまうのも嫌だ。
「キョーサン、レウサン!!コンチャン、コンチャンガ…!!」
「なんや?そんな慌てて…」
「どうかしたの?」
ポカンと呆けている二人を引きずるようにして囲炉裏の部屋に戻ると、コンちゃんはすごく怒った時の笑い方でらっだぁと話をしているようで、俺達の気配には気がついていないらしい。
「自分の管理もできないなら俺達は帰るよ」
「ごめん…」
「らっだぁそのものを否定してるわけじゃない…ただ、俺はその考え方を否定してるだけ。らっだぁの本能をどう抑えるかはらっだぁしか分からないんだからね?」
「はい…」
「協力が必要ならいくらでも協力するから」
「………うん、ありがとう。コンちゃん」
俺はらだおくんが倒れていない事に安堵しつつも、喉を抑えて項垂れている様子に酷く慌ててしまった。
「ラ、ラダオクン…大丈夫…?」
「!……みどり、怖い思いさせてごめん」
俺の手を見て苦しそうに顔を顰めたらだおくんに釣られて自分の手を見ると、噛まれた箇所からはダラダラと血が流れていた。
「ダイジョーブダヨ、魔竜ハ治ルノ早イカラ」
「……うん」
落ち込んでいるらだおくんを励ますつもりでかけた言葉に、みるみる元気をなくしていくらだおくん。
笑って「本当ダヨ?」と言ったけれど、らだおくんが笑ってくれる事はなかった。
「みっどぉ、手当しよう。らっだぁ、分かってるね?」
少し怖いコンちゃんに連れられて俺は部屋を後にした。
…俺の傷は、一週間経っても治らなかった。
ー ー ー ー ー
next?→200♡
コメント
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急展開...!!!書くのがうますぎてほんと尊敬です😭💓