「みどり、しばらくお家に帰って?」
「…………エ…!?」
何てこった、大変だ…えまーじぇんしー。
らだおくんから、別居宣言です。
「ナンデダトオモウ…?」
「いや、何でここまで来れた?」
目を白黒させるぺんさんに唇を尖らせる。
俺の方が先に質問したのに…「質問返しは良くないよ」ってコンちゃんが言ってた!
そのコンちゃんはらだおくんのお手伝いで、きょーさんとレウさんは元々住んでた家の掃除をしてる。
「ナンカ、デキタノ!」
ガックリと力を抜いたぺんさんが何か言おうとした時、グッと息を詰まらせてゲホゲホと苦しそうに咳き込んだ。
突然の別居宣言から2日。今はなんか見つけちゃったぺんさんのお家にいる。
そんなぺんさんはここのところ体調を崩しがちらしく、今も真っ白なベッドとやらの上で横になっている。
「ダイジョウブ…?」
「うん、原因は分かってるからね」
「原因?」
首を傾げても、ぺんさんはにっこり笑うだけだった。
「あ、らっだぁの事だけど…」
「!」
「そんなに気にしなくても大丈夫だと思う。多分、もう少ししたらすぐ帰ってきて〜って言い出すから。アイツの事待っててあげて」
「……ウン」
何だか、心を知り尽くしているって感じがどうにも羨ましい。
俺なんかよりも、ずっとずっとらだおくんについて知っている事が多いんだろうな…
「…坊ちゃん、お客様です」
年寄りの声にキョトンと首を傾げたぺんさんは険しい表情で俺をベッドの下に隠した。
静かにしているように、とジェスチャーで釘を刺されるくらいのお客さんって何?
「いらっしゃいませ、ご用件は?」
「ここら辺に不思議な姿の子供がで歩いていると聞きましてね…なぁに、少しお伺いしてみた次第ですよ、何もする気はありません」
「そうですか…残念ですが、奴隷商であるアナタに提供するようなお話はありませんよ」
冷たい雪のような声が、緩んでいた空気をピンと張り詰めさせた。
相手にヘラヘラと媚び諂うような、気分の悪くなる猫撫で声が逆に不安を煽った。
「まぁ、それは良いでしょう…あくまで本題は……貴方ですから」
「は?…おいッ!?やめろって!!」
ガタガタと頭上が騒がしくなる。
ぺんさんが攻撃されてる…?
どうなってるか分からないから、どうするべきか分からない……俺は助けに入るべき?
そろりとベッド下から出ようとした時、ぺんさんが苦しそうに咳き込みながら叫んだ。
「みどり、く…っ!出て…くるなッ!!」
「ッ!!」
凛とした声に弾かれたように慌てて引っ込んで、両手で耳を塞いで目を瞑る。
ガタガタと続いた音は、数秒すると嘘だったかのようにしんと静まり返ってしまった。
「おい!マジリを手に入れた!!」
さっきの猫撫で声とは打って変わって、しゃがれた声が無遠慮に叫んだ。
人が倒れるような音がいくつかと、知らない人間達が返事をしている声。
「…ペンサン…?」
マジリって何?
ぺんさんはどうなったの?
きょーさん達がいるお家までは距離があるから、今出たら間違いなく捕まる…
革靴の音が遠ざかっていったタイミングで顔を出すと、部屋は酷い有様だった。
「ッ…!?」
壁の一箇所に血が滲んでいる。
間違いなくぺんさんの抵抗による傷だろう。
ベッドにいないと危険な状態のぺんさんが、あろう事が怪我を負わされている。
非常事態だ、みんなに助けを求めないと…!
「…ッ」
そう考えて、窓枠に足をかけた時だった。
「どこに行くんだい?……ボウヤ」
痛いくらいに足を掴まれて、バランスを崩した俺はみっともなく床に転がった。
奴隷商、と呼ばれていた男の隣には逞しい肉体の男が控えていて、その男の腕にはぺんさんが抱えられていた。
「!!…ハ、ハナセ!!」
「あぁ、この瞳は魔竜の瞳だ。間違いない」
顔を鷲掴みにされる。
至近距離で凄まれて、俺はすっかり萎縮してしまった。
「おい、コイツも入れろ。今月のオークションはいいなぁ…目玉商品が多い。豊作だ」
「ヤ、ヤダヤダヤダ!離せ!このっ……!!」
「動くなよ魔竜。うっかりコイツがマジリの首を落としても文句が言えなくなるぞ?」
「ペンサン…!!」
無防備なぺんさんの首筋に迫った銀色の光に、僅かな抵抗も無に終わった。
こんな事になるなら、きょーさん達と家で大人しくしていればよかった。
そう後悔してももう遅い。
俺の視界は真っ暗な闇に覆われた。
…
男の声がする。
「あの時の群れから取り逃した魔竜がいるなんてなぁ…魔竜の鱗は高く売れる……なんたって万病に効く薬だ。どれだけの値で売ろうか……あぁ、たしかに。あの個体は見目もいいから、一つ残らず鱗を取った後は物好きにでも売ってやろう……」
不愉快な笑い声が反響した。
ー ー ー ー ー
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コメント
4件
えぇ!!!!どうなってしまうの、、
一気見させていただきました🤭続きがとても気になります😁