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「……嫌なんですよ。絶対幻滅されるの目に見えてるもん」
「そのうっすい胸にか? そんなもん、服の上から見ても分かるぞ」
あろうことか、服の首繰りに指を引っかけ覗きやがった。
私は声にならない声をあげ、桶川さんの頭を必死に押しのける。
「なにすんですか、このエロ魔神」
「おまえ……、俺にこの一週間我慢させまくったくせに何偉そうに言ってんだよ」
言い合いは得意な私たち。今日もそんな色気のない言い合いで夜は更けていく。
「大体さ、中身見て幻滅するようなら最初から惚れねぇだろ」
「そうでもないんですよ。私、男運悪いんです。今まで付き合った人、みんな私の外見で勘違いして」
「俺がその阿呆たちと同じだっていうのかよ」
「そうじゃありませんけどっ。でも私みたいな豆狸には格上すぎてドン引きです」
「またその豆狸って言う。なんでお前、そんなに自分を小狸扱いするわけ?」
「豆狸って小狸って意味じゃないですよ?」
「違うのか?」
「ええ」
そう。私が自らを“豆狸”と呼ぶのにはきっかけがある。
それははるか昔、小学校の時だ。
校外学習で地元の動物園に行ったとき、レッサーパンダの赤ちゃんの一般公開が始まったばかりで、みんなその子に夢中だった。
丸顔で丸い瞳。三角の耳に長い尻尾。まさに生きたぬいぐるみ。
それを見て、やっぱり当時もチビだった私にクラスでもちょっと人気のある原くんが言った。
「なんか、高井戸に似てるよなー」
ひそかに憧れていた原くんからの褒め言葉に、私は気をよくして照れまくった。
しかし、そこでクラスのいじめっ子・鳩中くんが登場。
「何言ってんだよ。高井戸はもっと浅黒いじゃん。タヌキだろ、豆狸だよ!」
たしかに、当時お兄ちゃんのサッカーチームに混じって走り回る私は日焼けで真っ黒だった。
否定するには、言ってることが間違ってもないなぁって思っちゃったんだよね。
「あはは、あ―そうだね」
「お、認めたな。豆狸! お前は豆狸だ!」
その後しばらく私のあだ名が“豆狸”になった。
でもその時は、私もみんな豆狸の本当の意味には気づいていなかったのだ。
同級生の女の子たちも「でも、豆柴みたいで可愛いよね」なんて言っていたわけだし。
それが、中学に上がってから知った。“豆狸”とは妖怪の一種だということに。主に西日本で伝わっているものらしいけれど、酒と悪戯が好きな妖怪らしい。
コメント
1件
第40話、読み終えました! 「豆狸」のあだ名のエピソード、微笑ましいようでちょっと切なくなりましたね……。原くんに「似てる」って言われて照れてた高井戸さんの子どもの頃の気持ちがすごくリアルで。そこに桶川さんの「中身見て幻滅するようなら最初から惚れねぇ」って台詞が沁みました。彼の一途さが伝わるし、高井戸さんが少しずつ自分のことを認めていけるといいなぁ🌷