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愛娘を救い出したジョン=ケラーだ。幸いカレンには見る限り怪我はない。あの白衣の男達は鋭利なメスのようなものを持っていたから、間一髪間に合ったと見るべきだろう。
カレンを伴って外に出ると、多くのパトカーと警官達が集まっていた。やれやれ、やはり大事になってしまったか。
連れ出す際に私も誘拐犯と間違われて、カレンの証言で逮捕されずに済むと言う珍事が発生してしまったが。
「ガハハハハっ!こりゃ傑作だ!」
「笑い事ではないぞ、ビル」
私の前で豪快に笑う警官はビルフォード=クーパー。ワシントン郊外にある小さな警察署の署長を勤めている私の古い友人だ。
彼もまた器用に生きられず、小さな田舎の警察署長に収まっている。まあ、毎日が楽しそうで何よりだ。愛称はビル。
「話には聞いていたが、最初は目を疑ったぞ?ジョン。いつレスラーに転職したんだ?」
「色々あってな。今回も迅速な対応に感謝するよ、ビル」
ちなみにカレンは検査をするため一足先に病院へ運ばれた。メリルが手当てを受けている場所であり、警備も厳重だから一安心ではある。
「まっ、娘さんは有名人になっちまったんだ。こうなるのも予想は出来たさ」
「まぁなぁ……狙われると思ってボディーガードを手配したんだが……」
「やられる時はどんなに備えてもやられるもんさ。むしろ怪我をして無くて良かったよ」
「ああ、それだけが救いだ。犯人達はどうだった?」
「チンピラ共は纏めて警察病院行きだ。二度と当たり前の生活は送れねぇだろうなぁ」
「そうか……」
やはりやり過ぎたか、もう少し加減をすべきだったのだろうが……初めての事で難しかったのが本音だ。
「過剰防衛だと言うのは分かってる。ビル、遠慮なく逮捕してくれ」
「おいおい、今のジョンを捕まえてみろ。女房にそっぽ向かれちまうよ」
「だが」
私は明らかにやりすぎた。手応えからして、彼等は二度と健常者と同じような生活は送れないだろう。過剰防衛にも程がある。罪を償う覚悟はある。
しかし、ビルは私を捕まえないそうだ。
「種明かしをするとな、上からの指示だよ。いや、指示がなくても捕まえるつもりはないがな」
「上?」
「今回の大立ち回りは、例の宇宙から来たお嬢さんのお陰なんだろう?」
私の姿の変わりようを説明するために、ビルにはティナのことを話していた。もちろん大統領の許可は貰っている。極めて不本意ではあるが、私の存在は重要機密だからな。
「それはそうだが……」
もちろん私達が話しているのはビルのパトカーの中だ。周りには聞かれていない。
近くでジャッキー=ニシムラ(パイナップルヘアー)が然り気無く人払いをしてくれている。優秀な部下だよ。
「それに、ネットを見たか?いくら夕方だろうが、やり過ぎたな?」
笑いながらビルがインターネットの画像を見せてくれたが、ビルを飛び移る私が様々な角度から撮影されていた。動画すらある。
いかんな、嫌な予感がしてきたぞ。
「要は、ジョンを最大限利用して友好キャンペーンをするつもりなんだろうさ。悪意ある者達から愛娘を助けるために、ティナ嬢から授けられた力で駆け抜ける!」
「うぐっ!」
確かに客観的に見ればそうなるがっ!
「まさにアメリカ人好みのHEROじゃねぇか!いつハリウッドスターになったんだ?」
「止めてくれ、胃が痛む」
これほどの広告塔は無いだろうな。アメリカ人はヒーローが大好きだ。私の胃に特大の穴が空きそうだと言うことを除けばな。
~翌日、ホワイトハウス大統領執務室~
「ケラー室長のお嬢さんが無事だったのは良いが、まさか実力行使に出るような輩が現れるとはな」
「ケラー室長の大立ち回りも話題になっています。下手に隠せば妙な憶測を生む可能性もあります」
ハリソン大統領とマイケル補佐官が昨日起きた事件の報告書を読みながら議論を交わす。
「うむ、まさにヒーローだ。とは言え、ビルを飛び移るのはやり過ぎだな」
「ええ、撮影された写真や映像が溢れています。夕方で写りが必ずしも良くない面はありますが、誤魔化すのは不可能です」
「うむ、ある程度は真実を公表するしかないだろう。ケラー室長には悪いが、この事件を最大限利用しよう。誘拐された愛娘を救うために立ち上がったヒーローとしてね」
「それはもちろんですが、あの身体能力はどう説明しますか?人間業ではありませんし、そもそも少しでも調べれば彼の容姿が一月前とはまるで違うことがすぐに露見しますが」
「ふむ、悪を討つために彼自身が志願してティナ嬢から提供された技術でヒーローとして生まれ変わったとかかな?」
「まるでコミックスのヒーローですな」
「だからこそ国民の胸に響くだろう?テロリストの悪行を大々的に押し出して、彼のことはヒーローとして全面に出せば良い」
「ティナ嬢の力によって生まれ変わり、悪に立ち向かって愛娘を救い出したヒーローですか。一部では人体実験と呼ばれそうですが」
マイケルの言葉にハリソンは苦笑いを返した。
「はははっ、それだけは否定できんな。とは言え、彼の活躍はヒーローそのものだ。大半の国民は好意的に見てくれると信じよう。既に彼の素性も知られてしまったし、下手に誤魔化すよりは充分に有効なはずだ」
「ではすぐにストーリーを作成して報道するように手配します。ただ、ケラー室長の負担は増えてしまいますよ?」
「私から本人に伝えるさ。たまにヒーロー家業をして貰うことになるとね。重要なのはティナ嬢への悪感情を国民に持たせないことだ」
「そうですな、ケラー室長には少しだけ我慢して貰いましょう」
二人の話が終わったタイミングでマイケルの端末が受信音を響かせる。届いたメッセージを直ぐに読み込んだマイケルは、ハリソンに身体を向ける。
「統合宇宙開発局からの報告です。木星付近に人工物らしきものを確認、観測の結果ティナ嬢のプラネット号である可能性が高いと」
「予定通りだな……事件が昨日で本当に良かったよ。ティナ嬢が滞在している間は類似の事件が起きないように厳戒態勢を敷かねばな」
「ええ、我々は幸運の女神に見捨てられてはいないようです。各部署に通達を出します」
「うむ、地球へ降りてくるのは二度目だ。前回同様国を挙げて歓迎しよう」
アメリカ政府は事件がティナの不在中に起きて解決したことを神に感謝しつつ、二度目の来訪に備えるのだった。