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鷹槻れん

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#契約結婚
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#好きだった
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「中本さん、申し訳ないんですが、藤原さんを女子更衣室まで案内してもらえますか? 失念していたんですが、空きのロッカーを彼女が使えるようにしていただけると助かります。……さすがに僕がそこへお連れするわけにはいかないので」
それには気付かなかったらしい塚田が、申し訳なさそうに中本に頭を下げて。
中本はそんな塚田に「お安い御用です」と笑顔で返す。
そうして日織の方に向き直ると、「さ、藤原さん、こっちです」と声を掛けてきた。
日織は机上に置いたままにしていたカバンを手に取ると、慌てて中本の後を追った。
中本は更衣室に入るなりすぐ、日織の方を振り返って「どういうつもり?」と聞いてきた。
突然のことに意味が分からなくてきょとんとした日織に、「貴女、塚田さんのこと、狙ってるでしょう?」と睨みつけてくる。
「え……?」
中本が言っている言葉の意味が理解できなくて、固まってしまった日織だ。
でも、すぐに自分が塚田に対して抱いている気持ちを見抜かれてしまったのだと思い至ってハッとした。
こういうことにうとい日織だって、中本の恋心に気付けたのだ。
中本が日織のそれに気付いたとしても不思議ではない。
でも、ここでそれを認めるわけにはいかない、と思った日織は、「あの、私には……許婚がいます」と賢明に健二の存在を仄めかした。
「それが――塚田さんだとでも?」
なのに、何故か塚田から離れられない中本から、物凄い勢いで詰め寄られてしまう。
「い、いえっ、違う方なのです。……塚田さんは……違います……」
言葉にして言うと、胸の奥がズキン……と痛んで、後半は声が小さくなってしまった日織だ。
「ふ~ん。許婚がいるからって結婚してるわけじゃなし、怪しいものね。でも、一応忠告しといてあげる。――塚田さんね、決められた女性がいるとかで、誰にもなびかないから」
そこで一旦言葉を止めると、
「――あなた同様、婚約者の方でもいらっしゃるんじゃない?」
そう嫌みっぽく続けてきた中本に、教えて下さらなくてもよかったのです、と恨めしく思いながらも、でもこれで私も気持ちを吹っ切れる?……と前向きに考えた日織だったけれど。
「そう、なんですね……」
それでもやっぱり悲しくて……。
思わず落ち込んだ声になってしまったのを、中本に目ざとく嗅ぎ分けられて睨まれてしまう。
「そもそも貴女みたいに若い子より、ある程度は成熟した大人の女性のほうが塚田さんとは釣り合うはずよ? ――例えば……私みたいに」
(そんなの、言われなくても分かっているのですっ)
勝ち誇ったように胸を張る中本から、日織はそっと視線をそらした。
そうして一度だけ深呼吸をすると、頑張って気持ちを切り替える。
「――あの、それで……荷物はどこに置けば……」
本来ここへ来た目的に戻すべく、恐る恐るそう切り出した日織に、中本が荒々しくひとつのロッカーをバン!と叩いた。
「ここ! 空きになってるから好きに使っていいわ。鍵もかかるけど、その鍵を失くしたら開かなくなるから気をつけて。鍵にキーホールダーやリボンをつけて目立つようにするの、お勧めよ。……ロッカーには後で名前、テプラで作って付けといてあげるから、安心して入れたらいいわ」
言いながら、一応確認、とばかりにロッカーの扉を開けて中を一瞥すると、中本が一歩下がって日織に場所をあけてくれる。
つい今しがた宣戦布告をしたくせに、仕事のことになるとちゃんと日織に対する気遣いを忘れない中本の言動に、日織はほんの少し驚いた。
(中本さん、もしかしたら意地悪なだけの女性ではないかもしれないのですっ)
もしも自分が恋敵として姿を現さなければ、あるいは仲良くなれていたのかも?と思ってしまった日織だ。
女子中、女子高、女子大……と思春期を過ぎてからはずっと同性のなかで過ごしてきた日織は、もっと性格のきつい人たちとも机を並べてきた。
それに比べると、中本からは根っこの部分に凄く優しいものを感じてしまった。
(いつか、中本さんと一緒にお昼とか食べられたら嬉しいのですっ)
暖かな日差しの中で、手作りのお弁当を二人で持ち寄って、おかずを交換したりして……。
キャッキャ笑い合う中本と自分の姿をうっとりと夢想して、例のように束の間ドリーマーになっていた日織は、「な、何よっ? ひとりでニヤニヤして気持ち悪いわねっ!?」という中本の声でハッとした。
「あ、ご……ごめんなさいっ。……その、中本さん、お優しいなって思って、ほんわかしてしまっていたのですっ」
日織のその言葉に、中本がきょとんとする。
「それ……本気で言ってるの? 私、さっき、散々アンタに酷いことを言ったのに……。正気?」
日織から視線をそらしてブツブツと不平を言う中本の横顔が、ほんのり赤くなっているのに気付いた日織だ。
塚田が中本を信頼してお願いごとをした理由が、日織にも何となく分かった気がした。
コメント
1件
中本さんの“恋敵”宣言とロッカー案内のギャップ、いいですね。あれだけ嫌味を言ってきたのに、仕事の対応はちゃんと親切なのが奥行きを感じさせます。日織さんが「中本さんって実は優しい人かも」と妄想に浸るシーン、ほっこりしました。二人の距離がこれからどう変わっていくのか、気になります。