テラーノベル
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※独自解釈、公式設定の捏造(柱の加入時期など)、IF表現、暗い感情描写を含みます。何でも許せる方向けです。
* * *
もしも俺達が違う環境で生まれていたとしたら、二人は繋がれていたのだろうか?
俺は忍として生まれた。
嘘をつき、騙し、殺す。それがまだ幼かった俺のすべてであった。
それのもつ本当の意味など知らずに……
* * *
「煉獄さんが酒に溺れて柱を引退するだぁ!?」
「あぁ宇髄。…そうなのだ……」
俺は悲鳴島さんの言葉に耳を疑った。開いた口が塞がらないとはまさにこのことか。
「妻の瑠火殿が亡くなったのは知っているな」
「あ、あぁ…知ってるが…。嫁が亡くなってから任務にもあまり出なくなったのも知ってる…だがまさかあの煉獄さんが…」
先日、瑠火さんが病で亡くなった。
まだ成人すらしていない息子二人を残して亡くなるのは大層お辛かったろう。息子も本人も煉獄さんも。
だが煉獄さんは柱では数少ない俺の先輩で、優しい兄や父親に恵まれなかった俺は、代々の炎柱の家系で強制的に柱にならなければならないにも関わらず、己の命を顧みずたくさんの人を助けてきた煉獄さんを、親のように信頼していたというのに。
「……んじゃあ炎柱が空いちまうな…。煉獄さんは任務をたくさん受け持ってくれてたから空きが余計増える…また考え直さないとな…」
「煉獄家は代々炎柱の家系なのを知っているな…」
「ああ、もちろん」
「それで、息子の煉獄杏寿郎の階級が今「甲」なのだ。」
「!!……さすが煉獄家の息子だな…ならこの状況も少し楽になるってこったな」
「ああ…私はそう見ている。一度会ったことがあるのだが…杏寿郎だけでなく弟の千寿郎も大変芯のある頼もしい男だった…」
「まあだろうな」
俺等はその後雑談もそこそこにそれぞれの持ち場へ走ったのだった。
* * *
「本日より炎柱に昇格した、煉獄杏寿郎です!!よろしくお願いします!!」
「うん。よろしくね、杏寿郎。君は代々、炎柱の家系であり、その名に恥じぬ働きをしてくれたね。本当にありがとう。柱としてその力ももう少しだけ僕たちに…貸してほしいんだ。」
「お館様!もちろんです。俺はこれからも鬼に苦しむ人々を助け、世のため人のため働きたい所存です。」
「頼もしいね。それでは改めてよろしく。杏寿郎。他の子供たちもこのことに異論はないね。」
「お館様のお言葉に間違いはありませぬ…」
「派手なやつだな!!問題ありません!」
「よろしくお願いしますね。」
「あァ。もちろん問題ありません。」
「…俺は柱じゃない……(私は柱ではないので分かりかねます。)」
「先輩方!ご指導のほどよろしくお願い致しします!!」
煉獄杏寿郎とやらの耳がちぎれるんじゃねぇかと思うデカい声で柱合会議は終わった。
「おいおい…あの酒柱とか呼ばれてる奴の息子なんだってなァ?お館様の言うことだから反対はしねぇが俺は認めてねぇからなァ!」
「不死川さん、意地悪はいけませんよ。それに貴方は会ったことないかも知れませんがあの方は凛々たる炎柱でした。」
「ケッ。どうだか。」
さっそく炎柱が囲まれている。新柱の柱合会議終了後の恒例行事みたいなものだ。
庇っている胡蝶しのぶさえも圧が凄いのだが、ここで怯むような奴はそもそもここまで来れないのだから、まぁ問題はないのだろう。
「父を侮辱しないで頂きたい!!たしかに父は酒に溺れて柱を辞めてしまったが、今ここに俺が立っているのは幼い頃から厳しく正しく躾けてくれた父のおかけだ!!」
「……ったく悪かったよォ…まぁ、柱に言い返せる志があるアンタの父親なら悪いやつじゃなかったんだろうよ」
不死川は煉獄の言葉を聞いてすぐ身を引いた。ただ試しただけなんだろう、こいつはそういうやつだ。
すぐ出ていっても良かったんだが、後輩である胡蝶と不死川を優先的に柱を迎える経験をして欲しかったため後ろで見ていた俺はもう興奮を抑えきれず身を乗り出し、煉獄の頭をずんむっとつかんだ
「派手な髪色だなお前!!!!派手派手だーー!!!!!!!!」
「む!?」
ギンギラギンの金色に赤の毛先、真っ赤に大きくて見開かれている、見方を変えればギョロギョロさえしている目!!
なんと派手なことか!!!!
「煉獄の旦那もこの髪色だったがお前のが派手だ!!目はギョロギョロしてるし声もデケェ!!!芯もある!!!!!」
「む!?む!?!?」
そう、俺は一目でこいつを気に入ってしまったのだ。派手派手で心に芯があって、代々炎柱として人を助けてきた家系である真逆な彼のことを。
人間なんてのは不思議なもんで、あれだけ柱にも平隊士にも酒柱の息子のレッテルを貼られていた煉獄は、柱としてどんどん馴染んでいった。
今ではすっかり柱の顔、弟の成長を見ているようでなんだか嬉しくなった。
(もしだ、もし。もし…弟たちの成長をもっと見れていたら…俺は……)
* * *
「お前の家は炎柱の家系なんだってな」
「あぁ!その通りだ!!」
ある日の昼下がり。俺たちは甘味処で餅を摘みながら雑談をしていた。
いやまぁ…隣に座る炎みたいな男は摘む、とかのレベルではないのだが。
「生まれた時から鬼殺隊に入ると決まってるのって、辛くないのか?」
「むぅ…考えたこともなかったな!!考えたことないということは多分、辛くはないのだろう。人を助けることができることだし、もし、俺が違うところに生まれていたとしても俺はまた、鬼殺をやっていると思う。」
「たしかになぁ。人を助けること、だしなぁ」
「まぁ学校にも行かず訓練したのは少し辛かったな。街にでれば友達と走り回る子供たちに、幼い俺は嫉妬していたな…。」
「それなぁ…。そのくせ勉強したくないなどと、贅沢者だと思ったものだ…。」
「む。君もか、はは。その通りだ。
だが今になったら分かる。環境が違うからこそ言えることだとな。俺達がもし学校に行ける環境ならきっと勉強など嫌だと放り投げ、訓練ばかりしているかも知れん。学力だけで人を見られたら困る、とな!」
「はは!違いねぇ!!!隣の芝は青いってな!」
俺たちはそんな「もしも」の世界を「今」の価値観で話し合う。この話し合いも、「もしも」の世界の俺たちは違うことを話すのだろうか?
* * *
「おーい待てよ宇髄!!」
「へっへー!遅いお前らが悪いんだよ!!!置いてくぜ〜」
「このクソ宇髄!!」
黒い学ランに袖を通して、少しの親とセンコウへの反抗のため前を開けて風を感じながら走る。
「勉強なんて、クソくらえだ!!」
俺ら3人、風の中を走り抜けた。
「なんてバカな奴らだお前らは!!
宇髄お前はもうほんとに、あとがないんだぞ…!?」
中学3年生、宇髄天元。反抗期真っ只中。
高校に出るのか就職するのか、真面目に考えなきゃいけない時期どころかそれを超えて受験生だ。
だけど俺は荒れていた。
とにかく反抗したかった。毎日ダチと遊び歩き喧嘩をした。親は比較的普通の人達で、殺人なんてものに無関係なごくごく普通な人達だ。
それでも俺は、反抗しまくった。勉強なんて言葉で縛り付けられるのがとにかく嫌だったのだ。自己中で感謝もないのか?と言われる覚悟はできているが、そちらこそ勉強できたら偉いのか?
もちろん勉強ができるのは凄いことだ。だが、
勉強勉強って、俺の得意な絵は?運動は?偉くないのか。
プロになるにも勉強がいる。絵も運動もできたとしても結局勉強かよ、と思ってしまう。
そんな世界が嫌いだった。もっと…俺の本当に得意な物を見て欲しかったのに。
学校に出れていない人に失礼だと言うが、俺からすれば女子のドロドロした喧嘩はじゃあ美しいのか?
こんなことを言ったって世界は変わらないと言うのに。俺は本当に馬鹿だ。
* * *
「お前、真面目だな。」
金色で赤で目立つくせに黒縁メガネの地味に地味な杏寿郎とやらに声をかけてみた。
なんでか分からなかったけど、吸い寄せられてしまった。なんだか美しくて。
大好きな美術の本を借りたくて図書室に行くと、もう8時を過ぎるというのに一人でカリカリと机に向かっているではないか。
「君は…宇髄か?」
「ああそうだとも。お前とは真逆の大不良のリーダーだ」
「そうだな…。そんな不良の君はこんな真面目な場所になにを?」
「まぁ、ちょっとな…」
そういって持っていた本をなんとなく恥ずかしくて隠す。
「…美術?君、絵を描くのか?」
「……あぁ…まぁ、な。不良が絵なんて変か?」
「いや、そうとは思わない。いい趣味だと思う。」
「そ…。俺さ…絵を見てもらいたいんだ」
「?どんなだ?見せてくれ」
「あそうじゃなくて。」
煉獄は不思議そうに首を捻る。
「勉強みたいに…得意不得意無視した教育じゃなくて……ちゃんと俺の得意で、向いてて、やってて楽しい絵を親にセンコウに、みんなに…見て欲しかった。」
(ああ、それで…)
「なんでかな…お前にならなんでも話しちまう。なんかお前安心する…」
「そ、そう、か…?」
なんとなくお互い照れてしまい、恥ずかしくなって俺は図書室から逃げた。
ここでやっと俺は気づいた。なんか美しくて吸い寄せられたのは、一目ぼれしてたからだって。
人殺しでも、命を救えるほど善人でもないただの学生の俺達はどんどん距離を近づけていった。
俺はもともと顔はいい方だったし、落とそうと思えばすぐ落とせた。
いや、あの日から煉獄も俺に吸われてたのかもしれない。
だから俺たちは……
* * *
「俺は人殺しで、お前は命を救う正義の味方。」
「…君の答えはそれで終わりか…?」
「…あぁ。お前はさ。ヒーローと悪役が結婚するとこ見たことあるか?」
「…お前は悪役じゃない。命を救う鬼殺隊の柱の一人だ。」
「お前が知ってる俺はな。」
煉獄は黙りこくってしまった。
悪役にはな、幸せになる資格が無いんだ。
人に嘘をついたからだ。騙したからだ。殺したからだ。
そんな人間がお前みたいな正義の塊ですみたいなやつと一緒になったらそれこそバッドエンドってやつだ。
俺はそんな世界はいやなんだ。
* * *
街を歩けばそこらを歩く男女たち。
美しく下駄でよちよちと歩く可愛らしい女性の横で、少しでも格好良くいようと必死に髪を整えている男性や、
気が強そうにドスドスと歩く女性と少し気の弱そうな可愛らしい顔の男性がある店の前で止まる。
その女性の目線の先には、ピンクと白の可愛らしい浴衣。
彼女は照れているようで、なかなか中にはいろうとしないが男性の言葉でゆっくりと店に入っていった。
そんな様子は今日も平和だなと思う。
夜になればこの街も血が流れるかもしれないけど、それでもこの穏やかな時間を、彼らの時間を、願わずにはおれなかった。
映る街の視界の端には警察に殴られている男が見えた。
許してくれぇ!許してくれぇ!人殺しなど二度とやらぬ!生かしておくれ…!!
男の絶叫が聞こえたけど、俺は見ないふりをした。世界はこうして回るのだ。
罪の無い人は幸せになり、罪多きものは罰を受ける。そうしてこの平和が保たれているのだ。
神様、死んだらきっと地獄に落ちますから。
それまでどうか世界を守らせて。
* * *
「もしも…俺達が鬼殺隊じゃなかったら…人殺しじゃなかったら………俺たちは…繋がれていたかもな。」
任務終わりの藤の家紋の部屋の中、煉獄が俺を押し倒していた。
「…人殺し…じゃなかったら………?」
「そうだ。俺たちがなんの取り柄もないただの学生だったなら……馬鹿やって、笑って。人を救ったことすらないただの…。」
「…鬼殺隊で、人を助けずに生きるなんて俺はできない。」
「…はは!お前らしいや!!」
* * *
「宇髄、俺…海外に行くことになったんだ。」
煉獄が少しだけ小さくなって合わなくなった黒い学ランを着て泣きそうな顔で言う。
「海外…?」
「夢のために。…俺、医者になりたいんだ。」
俺は煉獄とそんな話をしたこと無かったので、驚いた。
「医者になりたかったんだ…」
「あぁ。人を救う仕事をしたいんだ。」
「…はは!お前らしいや!!」
不思議と悲しくなかった。そうなるような気がしてた。
ここで離れたら多分、きっと…一生……
「いってこいよ」
* * *
「違う親で、違う環境で、違うお前なんて、大嫌いだ!!!!!」
「………っ…」
「じゃあお前はなんだ!?俺が俺じゃなくてもいいのか…!?この金髪で、毛先が赤くて、真っ赤な目で派手で…!そんな見た目ならお前はっ…誰でも…いいっていうのか………!?」
「そんな意味じゃ…」
「俺は今の!子供っぽくて、大人っぽくて、女性のこと少し下心ある目で見てて、必死な時は少しだけ判断力悪くて、人殺しな!お前が好きなんだ!!」
―もしも俺達が違う環境で生まれていたとしたら、二人は繋がれていたのだろうか?―
でもそれは俺達のようで俺たちじゃない。
違う親で、違う環境で育ったそれは、俺達のようで見た目が同じな他人なのだ。
「宇髄…お前と一緒にいれるだけでいい…
だからそんなこと言わないでくれ…。」
何度も願ったことだった。
何度俺は学生になり、あるいは命を救う医者に、そして学者にもなり。
「お前はお前で良いんだ。お前が良いんだ。」
煉獄は俺の頬に顔を寄せたが、当たる寸前で止まり、そしてゆっくり顔が離れる。
「…していいか。」
俺はゆっくり目を閉じた。
コメント
1件
わあ…読み終わって、しばらく動けませんでした。最初の「もしも俺達が違う環境で生まれていたら」という問いかけが、最後の台詞でぐるっと回ってくる構成、本当に美しかったです。宇髄が「人♡♡♡」と自分を責めながらも、杏寿郎に「今のお前が好きだ」って叫ぶシーン、心がぎゅっとなりました。正義と罪の間に立って、それでも「お前はお前で良い」と受け止め合う二人の関係性が、とても切なくて尊かったです。続きが気になります…!