会場は賑わっていた。
なぜなら、今日は校内かるた大会当日だからだ。
今もあちこちで大会が開かれている。
おれ―赤村ハヤトは、次の大会に出る予定だった
「ハーヤトッ。」
肩を叩かれ振り返ると、幼馴染の黒宮ウサギがいた。
「私達も次の大会に出るんだから、早くしないと。」
「…行くか。」
校内の大会とはいえ、ここで勝ち抜けば市の大会に行けるので、人もたくさんいる。
人でいっぱいの廊下をわたり、会場の教室の手すりに手をかける。
会場に入ったおれは気づいた。
まだ時間があるとはいえ、あまりにも静かだ。
違和感に気づいたのはおれだけじゃなく、ウサギもらしい。
『何故味覚には辛味がないのか知っているかい?』
ふいに、校内放送のスピーカーから声が聞こえた。
『「辛味」というものは味覚ではなく痛覚としてとらえられている。塩味が行き過ぎた結果、辛味になるそうだ。』
甘く、まろやかなその声には、聞き覚えがあった。
『初めまして。あるいはお久しぶりだね。私のことは―伯爵とでも呼んでほしい。』
「…ッ。伯爵…!」
伯爵は、山奥の洋館に一人で住んでいる、おれたちを無理矢理人狼サバイバルに招待させている張本人。
「 赤村ーーーッ!!」
声がして振り向くと、後ろからヒョウ、フクロウ、キツネ、コウモリが走ってきた。
「他にだれかいるのか…?」
「いや、まだ会ってないからわかんないけど…」
「ハヤトさん、お久しぶりです!」
別の方向から、ライリュウ、メイリュウが来た。
天井から、桜吹雪のように封筒が舞い落ちる。
――――――――――――――――――――――――【全体ルール】
・これは参加者の中に隠れている2人の狼を見つけるゲームである。
・参加者とは、「赤村ハヤト」「黒宮ウサギ」「杏ヶ丘マオ」「御影コウモリ」「桃原フクロウ」「早緑キツネ」「紫電院ライリュウ」「闇夜院メイリュウ」「灰原ヒョウ」の9名を指す。
――――――――――――――――――――――――
(杏ヶ丘マオ…?)
こんな名前、人狼サバイバルでは聞いたことがない。初参加だろうか。
「こんにちはぁ〜」
ふにゃふにゃしていながらも妙に響き渡る不思議な声に、誰もがそちらを向いた。
「皆知らないと思うんだけど、私が杏ヶ丘マオだよ。ゲームは初参加。状況はなんとなく飲み込めたから。今のところ、私達はここに閉じ込められてる、ってことでOK?」
おれは「ああ。」と応じながらも、(よくこの短時間で…)と考えていた。 マオの声は、不思議と人を引き付けるような声だった。その場には、ふわりとした波紋が広がる。
「せいいっぱい頑張るから、よろしくね。」
――――――――――――――――――――――――
参加者は役職を割り当てられる。村人は2名の「村人」、1名の「占い師」、1名の「霊媒師」、1名の「騎士」、1名の「戦乙女」、1名の「共犯者」であり、狼陣営は1名の「満月狼」、1名の「カジガカカ」である。
・狼陣営の参加者は悪魔に憑依され、勝利を目的に行動する。自陣営を不利にする言動を取ることはできない。
・ゲームは「競技時間」「能力者時間」「議論時間」「投票時間」「移動時間」「守護者時間」「夜時間」のくり返しで構成される。
・参加者の役職はゲーム初日に知らされる。役職は変更できない。参加者の部屋は21時から翌朝6時まで施錠される。
【勝敗のルール】
・村人陣営は、狼陣営全員を「退場」させた場合、勝利となる。
・村人陣営が勝利した場合、参加者全員が解放される。
・狼陣営は、村人陣営の生存者数が狼陣営の生存者数と同じか、それより少なくなった場合に勝利となる。
・狼陣営が勝利した場合、参加者全員が退場し、二度と戻ってくることはない。
【狼陣営のルール】
・毎夜22時、狼陣営は退場していない参加者の内1人を選ぶ。選ばれた参加者と狼陣営の部屋は開放され、狼陣営はその参加者を「退場」させる。
・狼陣営が2人の場合も襲撃によって退場する参加者は毎夜1人である。狼陣営は狼陣営を襲撃することはできない。
・「満月狼」は毎日16時に1人の参加者を選ぶ。選ばれた参加者の占い結果は、その夜のみ狼陣営となる。2日続けて同じ相手を選ぶことはできない。
・「カジガカカ」は毎日16時に占い師の占い先を強制変更する。
※2日同じ相手を選んでもよい。
・狼陣営は役職が決定した時点で、もう1人の狼が誰なのか知らされる。
【各能力者のルール】
・「騎士」は毎夜21時に、自分以外の参加者を1人選ぶ。選ばれた参加者はその夜の襲撃から守られる。
・騎士が誰を守護しているのか知ることができるのは「騎士」自身と伯爵のみである。
・「騎士」が退場した場合、その時点で守護は無効となる。
・「占い師」は毎日17時に、自分以外の参加者を1人選び、その所属陣営を知ることができる。
・「霊媒師」は毎日17時に、前日の投票で退場した参加者の陣営を知ることができる。
・「戦乙女」はゲーム中に1度だけ、守護者時間に能力を使うことができる。能力を発動した直後の夜時間、自分を襲撃する狼1人を返り討ちにして退場させる。
※返り討ちが成功したか失敗したか、戦乙女本人には知らされない。また、狼陣営が複数人生存している場合、退場する狼は狼陣営が指定する。
※能力を発動した戦乙女が騎士の守護対象にも選ばれた場合、戦乙女の能力が優先される。この夜時間に戦乙女を襲撃した狼は返り討ちとなる。
《禁止事項》
・参加者は参加者及び伯爵にたいして暴力を行使してはならない。
・参加者はゲームが終わるまで会場である椿が丘中学の外に出てはならない。
・狼陣営以外の参加者は他の参加者の部屋に入ってはならない。
・参加者は貸与スマートフォンやホテルの設備を壊すなどの行為で、ゲームの進行を妨げてはならない。
・参加者は伯爵の指示から5分以内に投票を行わなければならない。
・参加者の投票は1日につき1人1票とする。投票後の取り消しはできない。
・参加者は投票を毎日必ず行わなければならない。
・参加者は17時から17時5分の間、指定の椅子をはなれてはならない。
・狼陣営以外の参加者は21時から翌朝6時までのあいだ、部屋の外に出てはならない。
・襲撃を終えた狼陣営は22時5分までに部屋に戻らなければならない。
・参加者は他の参加者が取ったかるたの手札を取ってはならない。
※いずれかの禁止事項を破った参加者は強制的に「退場」となる。
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「ふ〜〜ん?」
真っ先に声を上げたのはヒョウだった。
「伯爵〜?ここに書いてある『かるたの手札』って何〜?」
『それは後ほど説明するよ。宿泊場所を用意している。まずは案内するので、そちらに移動してほしい。』
伯爵の言う通り、いつの間にか校庭に小さなホテルのようなものが建っていた。
『女の子の部屋は3階、男の子の部屋は2階だよ。部屋に役職カードを置いてあるので、そちらで役職を確認してほしい。』
おれたちが移動しようとすると、『1つ言い忘れていた。』といきなり放送が入った。
『命をかけるスリル、心ゆくまで楽しんでほしい。』
おれは自分の部屋に入り、役職を確認する。
―騎士。
カードはじゅわっと灰に変わり―
―人狼サバイバルが始まる。
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数時間かけて完成させました。 杏ヶ丘マオという参加者は、私のオリキャラです。ご存知ない方は「お知らせ」を閲覧してください。キャライラストも載っています。