「今日は天気が良いな 、喜八郎」
「こんな晴れた日の土はよく乾くだろう」
「今すぐにでも穴を掘りたいんじゃないか?」
「いや 、流石に暑くて敵わんだろう」
「いいや 、喜八郎ならやりかねんぞ!」
「僕はまた落ちちゃうかもね〜」
「熱中症には気をつけろ」
なんて笑って話しかける六年生 。
でも 、そのものは答えようとしなかった
「おほー 、動物たちがよく集まってるな今日は」
「喜八郎は本当に自然に愛されてるね」
「全く 、俺達を放っておくほどにな」
「はー 、今回も六年生に先越されちゃった!」
「まぁまぁ 、次回は一番乗りになろう」
なんて 、色んな感情をぶちまける五年生 。
それでも 、そのものは答えようとしなかった
「喜八郎ってば 、こんな沢山のお花や蝶々に
囲まれて人気者だね〜」
「あぁ 、とても似合ってる!美しいぞ!!」
「まぁこの平滝夜叉丸には負けるがな!!」
「黙れこの自惚れ屋が!!!」
なんて 、各々個性がぶつかり合ってる四年生 。
やっぱり 、そのものは答えようとしなかった
「綾部先輩ーー!!」
「俺!ぁ…僕!先輩に教わった通りにしたら
実技の評価が右肩上がりなんですよ!」
なんて 、嬉しそうに報告する浦風藤内 。
「綾部せんぱーい!!」
「僕!また四年生を絡繰に引っ掛けましたよ!
ひょっとして僕 、、
二代目天才トラパーになっちゃったりして〜!」
なんて 、自慢げに話す笹山兵太夫 。
「あやべせんぱい〜…!!」
「ひっく…..また 、兵太夫と喧嘩しましたっ…”
僕だって..あそこまで言うつもり無かったのにっ」
なんて 、泣きじゃくる黒門伝七 。
「綾部先輩〜ッそろそろバイト出てくださいよ〜」
「先輩結構人気なんスから!!」
なんて 、調子のいい摂津のきり丸 。
「ジュンコ〜!どこだジュンコ〜っ!!!!」
「…なんだ 、ジュンコ 。
綾部先輩に会いに行ってたのか 笑」
「綾部先輩は相変わらずだなぁ….」
なんて 、微笑む伊賀崎孫兵 。
ほかにも 、二年生の時友四郎兵衛だって
能勢久作だって 、三年生だって一年生だって
みんな喜八郎に会いに行っては話しかけた
でも 、どんな質問にも喜八郎は答えない 。
なぜなら 、喜八郎は居ないから 。
あの日は 、こんな風に雲ひとつない晴天だった
「精が出るな 、喜八郎」
作法委員会は今日は無くて 、喜八郎が庭で
穴を掘るのを仙蔵は縁側で眺めていた 。
「なッ喜八郎また掘りやがって..っ」
「随分と掘ったねぇー」
ふたつの影が太陽を喜八郎から遮った
「….伊作先輩と 、食満先輩 。」
「で?それは何号なんだ?」
そう留三郎が問えば 、恐ろしい数が聞こえた 。
すると喜八郎は 、突然穴から出て
学園から反対方向に歩き出した 。
「何処へ行く」
そう仙蔵が聞けば 、喜八郎は小さく答えた
「本番を作りに 、裏裏山へ行ってきまぁす」
その場にいた皆が笑って 、
喜八郎が行くことを許してしまった 。
喜八郎が出てって数刻がすぎた頃 、
皆がちょうど昼食をとっていたときだ
不意に地面に違和感を感じた 。
次の瞬間 、小平太が大きく叫んだ 。
「ジシンだッ!!!」
「下級生は机の下に隠れ 、
上級生は者が倒れないように!!」
その指示に 、瞬時に対応すれば
ガタガタガタ_____と揺れがはじまった
一定の揺れが治まったとき 、
皆が落ち着きを取り戻し始めて再び昼食を…
という所で 、食堂に慌てた様子の土井先生が
四年生や仙蔵を問いただした 。
「お前らっ…喜八郎が
どこに行ったか知らないか!?」
「…..裏裏山に行くと言っていましたが…」
「あんな大きな地震があったんだ!
そんな状況下で穴なんか掘っていれば
無事じゃいられんぞ!?!」
なんて土井先生が言うものだから 、
仙蔵も 、他の上級生だって顔を真っ青に変えた
そうして 、すぐさま喜八郎の捜索に取り掛かった
少し前 、喜八郎は穴を掘っていた
今日は鳥がよく飛ぶな 、なんて思いながら
練習通りの罠ができそうでわくわくしていた
でも 、それは急に起こった
揺れが大きく 、地面は揺れていて
喜八郎が掘っていた所は崖の下で
不運なことから 、崖は土砂崩れが起きていた 。
「わっ…」
崖の上から流れる土砂が喜八郎の穴に入ってくる
喜八郎は呆気なく土の海に飲み込まれた
「喜八郎ー!!」
「喜八郎ーー!!返事をしろーー!!」
「綾部ー!!!いるかーー??!」
「こんのっアホ八郎ー!!!!」
裏山だったなら 、
もっと早く見つけられるだろうが
無論 、喜八郎が行ったのは裏裏山で
少々遠い場所なのだ 。
そのため 、体育委員会で慣れているであろう
七松小平太や平滝夜叉丸 、
小平太や綾部の鍛錬仲間の竹谷八左ヱ門が
筆頭して向かい走った 。
裏裏山まで着けば 、
それぞれ別れて喜八郎を探した
最悪の状況を考え 、覚悟を決めながら進む
たくさんの神経を使わせて 、緊張や緊迫した
空気の中から喜八郎を探していれば 、
大きな声が聞こえた 。
「居たぞーーー!!!!!」
小平太の声に 、皆が集まった
皆が喜んで 、その名を呼んだ 。
でも 、喜八郎は目を開けようとしなかった
喜八郎は既に虫の息なのだ
その後 、すぐに喜八郎は
医務室に連れて行かれたが 、あんな深い穴に
もりもりに入る土砂に埋められてしまえば
窒息なんて当たり前だった 。
医務室では 、悔しそうに泣く仙蔵と滝夜叉丸 。
震える手でそっと頬を撫でその冷たい顔に
布をかけてあげる伊作の姿があった 。
それからの忍術学園は 、
変わったことがふたつほどある
ひとつは 、忍術学園で極たまに
避難訓練という全学年合同実技試験を行う
きり丸や兵太夫等はきっと嫌がると思うだろう
でも 、身近でまたやそれが密かに思いを
寄せていた人物の死を目の当たりにしてしまえば
皆自然と真剣にするのであった 。
ふたつめは 、綾部喜八郎について
あれからというもの 、
少しずつ日常生活は取り戻されていった
穴を掘る姿は見えず穴に落ちる姿も見えず 、
もうあの「だいせいこう」という
気の抜けた声を聞くことができなくなった 。
それでも 、保険委員長の不運は起こるし
穴が無くなったからって
あの二人の怒鳴り声だって聞こえる
豆腐地獄だって定期的に起こるしなんなら増えた
彼の同室だって 、大人しくなったように
見えたけど 、すぐにまたうるさくなった 。
みんなそれなりにケジメをつけて
また前に進んで言っているんだ 。
でも 、ひとつ
どうしてもひとつ 、片付けられないものができた
それは 、喜八郎への気持ちだった____
立花仙蔵は 、この気持ちは卒業とともに
この学園に思い出として置いていくと言っていた
然し 、そんな呆気なく喜八郎は留まるだろうか
いいや 、無理だろう_____
彼は 、ずっと仙蔵から離れることは無かったから
いつまでも仙蔵の心に縋り付いているだろう 。
不破雷蔵は悩んだ
この思いは 、喜八郎に明かすべきか否か 。
無論 、この恋を諦める事は無きにしも非ず
それでも 、やっぱり思いは
喜八郎に会ってからにしようと思い
数十年後にお預けにしたという 。
田村三木ヱ門は焦っていた
優秀な自分が恋路如きに左右されていることに
きっと滝夜叉丸はもう区切りを
つけられているだろうに 、私だけ 。と
でも 、区切りをどうしても告げられないのは
それほど喜八郎を愛していたからだった 。
これを告げれば 、もう会うことはないから
浦風藤内は叫んだ
「綾部先輩!僕は 、一年の頃から
貴方だけをずっと想っていましたッ!!!」
なんて 、返事をくれるはずも無い墓石に叫んで
でも 、それだけでよかったんだ 。
周りにいた人達は驚いていたから 、
きっと藤内が最初の告白者だったんだ
それがどんなに嬉しくて勝ち誇ったものだろうか
きっとこの先も 、この思いと勇気を糧に
優秀な忍者として此処を出ていくと___
ほかにも 、
色々な思いや考えがあるという者がいる
でもそれは決して届くことはないであろう
それが叶うときは 、もうこの世にはいない証拠
忍者として 、我々はこの思いをお守りとして
この後の人生を歩んでいこうと思う____
最後に一つだけ 、
喜八郎 、私だってお前が好きだ 。
あの日 、どんな思いでお前を探したと思ってる
あの日じゃなくたって 、甘えん坊のお前と
凄くと 、いつも心配で仕方がなかったよ
喜八郎がふざけて私の嫁になると言った日
どれほど嬉しかったことか
お前は知らないだろうな
私は隠すのだけは上手いから 。
私は命の追われる身だからって
まだそっちへ行くつもりも毛頭ないが
もしそっちへ行った時には 、
一番乗りに伝えるのは大人気ないだろうか
恋に恋愛は関係ないよな
あんまり長くなると 、
お前は見る気無くすだろうから
もう終わりとするよ__________
土井半助 .
コメント
4件
次回、喜八郎は生きていた!!(´◉ᾥ◉`)
うわあああああ涙が止まらん🥹