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ビルの中の一室に入り、ヒノトと咲良はシルフの元へ紹介に向かうと、シルフは察したかのように微笑んだ。
「やあ、いらっしゃい」
「あの、シルフさん…………。ルギアさんに吹っ飛ばされて、稲作村ってとこで助けてくれた、**風間咲良**って奴を連れて来ました。特訓に参加させてもいいですか……?」
ヒノトの目にも、咲良の目にも緊張が現れる。
「ああ、もちろんだとも! その刀……君は侍の家系なのかな? どんな剣技か、僕も楽しみだよ」
「サムライ…………? ってなんだ…………?」
シルフの言葉に、ヒノトは咲良を見遣る。
「僕も歴史書でしか読んだことはないから、あまり詳しくは知らないんだけど……剣士とか、そういうものの名称だと思う……。僕の家の付近の人たちは、皆、侍の血筋だって聞いてるから……」
「へえ! いいなあ! ソードマンと侍、どっちが強えか楽しみだな!」
そのまま階下に降りると、既に生徒たちは準備を始めていた。
「アンタ、遅いわよ!」
現れたヒノトを叱り付けるリリム。
アセアセと宥めながら、一人の男に着目した。
「あれ……アイツ…………」
その男は、黄金色の茶髪に黒い制服をピシッと着て、背には大きな斧を携えていた。
「彼がシルフさんの話してた倭国の生徒さんよ。岩属性の斧使いの前衛らしいわ」
「凪と同じ、“風の剣士” じゃなかったのか…………?」
「どうやら、倭国の方でも、私たちとの特訓に参加できる生徒を絞る争いが行われていたみたいなの。それで抜擢されたのが本来は風の剣士だったらしいんだけど、急に病で寝込んじゃったらしくて…………」
「で、繰り上がりで二位の奴が参加……ってことか」
そんなヒソヒソとしたリリムとヒノトの視線から、その男はふらりとそばに近付く。
「その男…………稲作村の格好だな。どうして来た?」
睨むような言葉に、ヒノトが割り込む。
「ま、待ってくれ……! 俺が連れて来ちまったんだ……参加できる生徒を絞ってるなんて知らなくて…………」
「どうして参加できる生徒を “たった一人” に絞ったのか貴様は知らないだろう…………」
考えてみれば、咲良を簡単に許すシルフと違い、倭国の生徒は一人と厳密に決められているのはおかしかった。
三人は何も分からずに疑念の顔を浮かべる。
「避難しているんだよ、魔族襲来のな…………」
「えっ、魔族…………?」
「やはり何も聞かずに連れて来られたようだな」
ヒノトは、咲良にこれから魔族が倭国へと襲来してくること、男は、倭国での選抜のことを説明した。
「俺たちが倭国への遠征……倭国の戦士たちは、遠征と称して、避難としてキルロンドに行ってたのか…………」
「そうだ。だから、強い者だけがここにいる」
「普通……自分で “強い者” とか言うか…………?」
「俺は、貴様らが束になっても倒せんぞ。まあ、それを言ってしまえば、俺や貴様らで掛かっても、“アイツ” には勝てないだろうがな…………」
そう言うと、男は空を眺めた。
「まあ、一緒に特訓する仲間なんだよな! じゃあ、名前を教えてくれよ!」
「俺は、明地拓真。岩属性の斧使いだ」
「拓真か! 俺はヒノト・グレイマン! よろしくな!」
ヒノトは先程までの険悪な空気などなかったかのように笑いながら手を差し伸べた。
しかし、拓真はその手をパシンと叩く。
「俺は、弱者と仲良くする気はない」
そう言うと、愛想悪くその場から立ち去った。
「なんか……レオみたいな奴だな」
「ヒノト、あんな真似されてムカつかないの?」
「アハハ……いや、なんか、もう慣れたな」
暫くすると、シルフとルギアが大ホールに降りて来る。
「これから、倭国で訓練する上で、キルロンドにいた時とは違う、実践的なパーティを組んでもらう」
そう言うと、シルフはニコリと笑った。
何故なら、
「ガッハッハ! 分かってますよ! シルフさん!!」
すると、キラはキースの肩を組んだ。
キースも、暑苦しい怪訝な顔を浮かべさせてはいたが、文句はないと何も言わなかった。
そう、キルロンドでの訓練通り、Aチームはそのまま、キラ、キース、アイク、凪の編成となった。
「俺たちはバラけるな。やっぱ、リリムとグラムのパーティで戦いてぇからな」
自然と、連れて来た責任と言う形で、DIVERSITYのリオンの抜けた穴に咲良が入り、ヒノト、リリム、グラム、咲良のパーティが結成。
最後に、 リゲル、ユス、ロス、拓真 となった。
「それじゃあ、早速、倭国で講師を努めて下さる方々を紹介しよう」
シルフの合図で、騎士の鎧を着た二人の男が現れた。
「ハハ、講師だなんて大それたもんじゃないだろ? シルフ。久しぶりだな」
一人は爽やかな四十歳手前程の男性と、もう一人は寡黙で糸目に表情を変えない三十歳程の男性だった。
「初めまして、キルロンドの学生たち! 俺はこの国で衛兵をしている**山本大智**だ! こっちは…………」
糸目の男は、ヒノトたち生徒を睨み付けたまま、微動だにせず、そのまま山本が紹介を続けた。
「伏見雷人だ。無口な奴だが、こう見えて兵士の教育係を務める男だ! よろしく頼む!」
挨拶が済むと、早々にトレーニング施設へと向かう。
爽やかに挨拶しているが、これから魔族が来ると言う情報を聞いてか、緊張感が漂っていた。
トレーニング施設へと着くと、全員は剣でなく、倭国の武器がズラリと並ぶ倉庫に連れて行かれ、まずは山本と拓真が得意とする “斧” を使うように指示される。
「先端に刃があるのか……? この重量なら、大剣みたいに全体的に刃を付けた方が攻撃しやすくないか……?」
「こ、こんな重い武器を振り回すのか…………?」
キラやキースと言ったロングソードマン達は、ヒョイと巨大な斧を構えるが、ソードマンやナイト達は持ち方から既に困惑していた。
倭国の武器で特に特徴的なのは、この斧と “刀” 。
どちらも特出してキルロンドの剣士達を驚かせたのは、剣と違って片方にしか刃がないことだった。
「やっぱ変わってるよなぁ…………」
「異邦剣術使いの僕でもそう思うよ……。僕もこんな武器は見たこともないな……」
異邦剣術を父から習った凪でさえ困惑を見せた。
「ふふ、キルロンドの選ばれた生徒達と聞いていたが、何も知らない無知ばかりだな。おい、そこの紫髪の男。そこにある鋼のカカシを、その自慢の大剣で壊してみろ」
「あ? 俺はキラ! キラ・ドラゴレオ様だ!! さっき名前教えただろ!! ふん、こんなもの…………」
ブォン!! カァン!!
しかし、大剣は大きな音を立てて弾かれた。
「そこで、キースよ。この “斧” を使ってみろ」
「なんでキースの名前は覚えてんだよ!!」
ガコン!!
今度は、カカシの頭が思い切り吹き飛ばされた。
「ハッ! こんなもん、大剣に属性を付与させりゃあ簡単に同じことができるぜ」
「そういう話じゃない。もし “雷の効かない相手” と交戦になったらどうするんだ? この大剣と斧の違いは、重心の位置にあるんだ」
その言葉に、実際に斧を振るって鋼カカシの頭を吹き飛ばしたキースは、ハッとした顔を見せる。
「そうか…………これ、大剣みたいに全て同じ重量ではなく、刃のある先端部分のみを重くしているから、遠心力が乗っかって更に物理的な威力が増しているのか……!」
「ああ、そうだ。流石は俺の認めた男だ、キース」
「だから、なんでキースなんだ!!」
「お前は、うるさいし頭が悪そうだからだ」
一癖ある倭国の生徒を交え、キルロンドの学生達は未知な武器を前に、緊張感漂う中での特訓が始まった。