テラーノベル
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解散、という言葉は。いつからか、刃物じゃなくなっていた。
最初は聞くだけで息が止まった。
喉が締まって、視界が狭くなって、
「やだ」「待って」しか言えなかった。
――なのに。
「じゃあ解散でいい?」
マイッキーの声が落ちてきても、
ぜんいちは一瞬、考える余裕ができてしまった。
(……まただ)
心臓は鳴る。
でも、前ほど暴れない。
編集部屋の空気はいつも通りで、
モニターの光も、マイッキーの表情も、
何一つ“終わる”感じがしなかった。
「……本気?」
一応、聞く。
自分でも驚くくらい、声は平坦だった。
マイッキーは少しだけ目を細める。
「さあね」
その返事。
前なら、それだけで縋ってた。
でも今は、
その“さあね”の後に何も起きないことを、
ぜんいちはもう知っている。
解散って言われた日も。
脅すみたいに投げられた夜も。
結局、次の日には普通に連絡が来て、
普通に動画の話をして、
何事もなかったように並んで座ってた。
(……してないじゃん)
心の中で、初めてそう思った。
してない。
一度も。
「解散」って言葉だけが、
宙に浮いて、落ちない。
ぜんいちはマイッキーを見る。
相変わらず余裕そうで、
自分が揺れてるのを、どこか楽しんでる目。
でも今日は、
その目が少しだけ、遠く感じた。
「……最近さ」
ぜんいちが言うと、
マイッキーは首を傾げる。
「なに」
「解散って、よく言うけど」
喉が鳴る。
それでも、言葉は止まらなかった。
「全然、しないよね」
一瞬。
ほんの一瞬だけ、空気が止まる。
マイッキーは笑った。
でも、いつもの軽さじゃない。
「したいって言ったら?」
「……するなら、もうしてるでしょ」
自分で言って、
ぜんいちは少しだけ怖くなった。
こんなこと、前は言えなかった。
でも同時に、
胸の奥で何かが、すっと冷える。
(ああ、俺)
(この言葉に、慣れちゃったんだ)
解散。
終わり。
捨てられる。
どれも、
何度も突きつけられすぎて、
“脅し”だって理解してしまった。
マイッキーは何も言わない。
ただ、ぜんいちを見ている。
試すような目。
ぜんいちは視線を逸らさずに、続ける。
「嘘って言いたいわけじゃない」
震えは、まだある。
「でも……言うだけだよね」
沈黙が落ちる。
ぜんいちは気づく。
この沈黙は、
解散の前触れじゃない。
――効かなくなった瞬間の、音だ。
マイッキーが一歩近づく。
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